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野口健氏「韓国のタクシーで反日差別」告白の信憑性を探る

TABLO / 2014年8月14日 17時45分

野口健氏「韓国のタクシーで反日差別」告白の信憑性を探る

野口健氏発言のTWITTERより

 

 昨今の韓国における日本人観光客の減少の原因に「日本人差別」があるのではないか、と自身の体験談とともに語った、アルピニスト・野口健氏の発言が話題になった。登山家で環境保護活動などでも知られる野口氏であるから、いかに韓国がひどい国かとあらゆるネタに手ぐすねひいている「ネット右翼」の方々により瞬く間にネット上で「拡散」した。しかし、どうも話がヘンだ。

 自分はこれまで韓国には5回程度渡航し滞在している。海外ではタクシーを使うことが多く、特に都市部ではほとんどがタクシーのお世話になる。韓国でも、移動のほとんどがそれだ。ところがそんな体験は一度もない。試しに韓国に詳しい人たちに意見を聞いてみた。皆、仕事や趣味での韓国への渡航歴が二けたを越える人たちである。

「うーん、ないとは言い切れないけど、少なくとも自分の経験では一度もない」

「ありえないでしょ。だって全部商売でやっている人たちで、それがわざわざ客を断るようなことをするはずがない」

『韓国のホンネ 市井の若者から、"韓国ネトウヨ"まで』の筆者であるジャーナリストの安田浩一氏も野口氏のツィートに、即座に「ウソくさい」と言及したひとり。南ソウル大学で助教授の櫻井信栄氏は、かつて筆者に「韓国で日本人だからということで嫌な目にあったことは一度もない」と語っていたが、再度このことを聞くと一笑に付せられた。

 もちろんどこの国でもおかしい人はいる。その境界線がわからない人だ。日本でもネット空間をはじめ、たくさんそういう人はいるし、それが「××人を殺せ!」と連呼してストリートに大挙集結するときもある。

 ただし、野口健氏はかねてから右派的な主張をする人で知られる。かつて「幸福実現党の政策は正しい」とやはりツイッターで「つぶやき」、物議を醸したこともあるくらいだ。幸福実現党は「嫌韓・嫌中」はもちろん、核武装までを提唱するいわゆる「極右」。

 また野口氏は、反原発運動に物申すとして、首相官邸前での抗議集会の終わった後がゴミだらけだったと産経新聞のコラムで「証言」していたことがある。が、反原発運動側は特にゴミ類の取り扱い気をつけていると反論。逆に現場取材をしていたニューヨークタイムズ誌は「集会が終わった後にはゴミひとつなかった」と証言。いわゆる「見てきたようなウソをつき」なのではないかとネットでは疑問が渦巻くことになった。その野口氏の体験談は果たして本当なのか。しかもタクシーやサウナで。

「日本人だからという理由でトラブルに巻き込まれたり、拒否されたという話は聞いたことはないですね。タクシーの乗車拒否については、よくある話です。それは日本人だからという理由ではなく、距離が近かったり、反対方向に向かう場合の話です。特に新しいビジネスエリアではあまりに乗車拒否が多くて問題になったこともあります。ですが、これは日本人だけではありません」

 ソウルの日本大使館に取材したところまずはこんな答え。韓国のタクシーの乗車拒否はかなりの問題になっているらしく、現在では乗車拒否は通報されると運転手には罰金が科せられ、3回の通報でタクシーの運転許可が取り上げられるそうである。

 しかし、それでも後を絶たない。実を言えば筆者もこれで乗車拒否された経験がある。「江南スタイル」で一躍有名になったソウルのアップタウンのエリアで二回。外国人(日本人)だからなめられているのではないかと腹がたったのだが、あとからその理由がわかった。行先が反対なうえ、日本でいう「ワンメーター」に満たない距離だったからである。これについて韓国最大の日本人会であるソウルジャパンクラブも、次のように語る。

「高額な料金をふっかけることも問題になっています。相手は主に外国人です。日本人もその中に入ってますから、これについての話はよく聞きます。日本人は韓国で一番多い外国人ですからね。なので日本人だからというわけではないです。なにしろ、地方からソウルに出てくる韓国人でさえその被害にあってますから(笑)」

 なお、ソウルジャパンクラブの担当者も「日本人だから」という理由で、入店拒否やタクシーの乗車拒否にあったという話は聞いたことがないと答えている。同様に、釜山の日本総領事館、また釜山日本人会にも問い合わせたが、答えは全く同じであった。

 野口氏の体験が本当だったとしても、それは「日本人だから」という理由でのものではないのではないか。ただし、韓流ライターの児玉愛子氏によれば、2008年に野口氏と同じくタクシーの乗車拒否にあったと筆者に証言している。2008年といえば、ちょうど李明博大統領の政権下であり竹島問題が大きくクローズアップされた年だ。考えられなくはない。児玉氏はこれまで韓国に50回近くの渡航経験がある。カタコトながら韓国語は話すことができ、韓国のガイドブックのライターであるから、それなりに信憑性はある話だ。ただし、自分がこれまで取材したなかで、日本人だからという理由で乗車拒否にあったという話はこの児玉氏が唯一のものだった。

Written by 清義明

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