【西成マザーテレサ事件の謎1】なぜ矢島さんの姿が監視カメラに映っていないのか
TABLO / 2014年9月17日 19時30分
短期集中シリーズ:西成マザーテレサ事件の謎
「西成のマザーテレサ」こと女医の矢島祥子さんが亡くなって5年が経つ。筆者がその死を知ったのは死後かなり時間が経ってからだった。西成の住民から偶然情報が入った。矢島さんのアパートからは他者はおろか、矢島さん本人の指紋さえ出てこなかったという謎について聞かされた。その後、「頼まれて指紋を消した」と証言する人物に接触することもできた。それからこの事件の取材が始まった。いくつかの妨害も受けた。それについては既に寄稿済であるので、遡って読んで頂きたい。
「西成はホンマに不思議な街や。正しい事しようとする人間が消されるんやから」
ある西成の住人はこの事件をこう語る。何かを暗示しているかのように。西成区の、通称「釜ヶ崎」は日本で唯一暴動が起こった街としても有名だ。だが、現在はそんな暴力性のある地域ではない。
この300メートル四方に住んでいる人間は、ほとんどが高齢化しており、夜は次の日の日雇いに備えて眠る。夜、出歩いている人間は生活保護受給者か何かを求めてこの地域に足を踏み入れた人間であろう。
矢島さんが勤務していた診療所から自宅まで通う道を筆者も歩いてみた。気付いたのは監視カメラの多さである。数えたところ20台以上の監視カメラを確認できた。その中の何台かは犯罪防止用のダミーであろうが、これらの中に、矢島さんの最期の姿は映っていなかったのか。
事件をもう一度振り返ってみよう。2009年11月14日朝方、矢島祥子さんは勤務している診療所を出た。鍵の所持管理は診療所所長、事務長、矢島祥子さんの3名で行われていたと思われたが、その後の遺族の話では詳細は不明。第四の所有者がいた可能性もある。
その日は強い雨だった。診療所のある鶴見橋商店街の監視カメラには彼女の姿は一切映っていない。その理由もはっきりしていない。
「これだ!」
監視カメラの映像を見ながら声を発した警察官がいた、との証言もある。診療所のすぐ脇を逸れる小道がある。この小道を入れば監視カメラに映らない可能性もあるが、この日の矢島さんは移動に自転車を使っていた。
強い雨の日。傘で片手がふさがれるような状況だ。それであれば少しでも風雨を避けるために、通行路にはアーケードのある商店街を選ぶのが普通だろう。そのわずか1分後に診療所の警備システムが作動して、30分後に警備会社が到着したが異常なしとの報告。そして、その2日後に、矢島祥子さんは付近の木津川の船着場で遺体が発見された。
遺体発見時間は、深夜の1時20分だった。深夜になった理由は、遺体の第一発見者の勤務時間が16時から0時までで、勤務終了後に友人と一緒に釣りに来ていたためとされる。
この船着場は、朝の6時前から夜は9時過ぎまで人が常駐している。その間に遺体は発見されていない。遺体が遺棄されたのは21時以降のことだろう。
その後、矢島さん所有の自転車が付近の団地内駐輪場で発見された。しかし、その自転車からも、本人もとより誰の指紋も検出されなかった。筆者は矢島さんの部屋をクリーニングした人物と接触し、「指紋をきれいに拭き取った」という証言を得たが、この自転車へのクリーニング行為は誰からも聞いていない。この界隈に自宅を借り、玄関前に監視カメラを設置している地元住民は証言する。
「警察から監視カメラの映像の提出を求められましたが、すぐに戻って来ましたよ」
矢島さんの自宅アパートの横にも監視カメラが設置されていた。当日の防犯映像を提供した西成警察署からは、「機器の故障で何も映ってなかった」と告げられたという。この地域の監視カメラの設置数は異様なほど多いが、それらのどのカメラにも矢島さんらしき人物は写っていなかったという。誰にも知られず、無数の監視カメラを潜り抜け、矢島さんの遺体は木津川の船着場まで運ばれた。果たして、そんなことが可能だろうか。監視カメラを普段から意識して前もって下見をしていたのか。その下見の行動もカメラに映ってしまう。それを考えると矢島さんの事件がますます謎めいてくる。
さらに不思議なのは矢島さんの自転車だ。遺族の届け出を受けて西成署が捜査し、自転車を発見した。この地域の自転車は非常に多い。その為、街頭で自転車の盗難の照会をしている警察官の姿をよく見かける。だが、路上の放置自転車の防犯ナンバーを照会している警察官の姿は今まで一度も見かけた事がない。ましてや、見かけない自転車が放置されていたとして、110番通報する者もいないだろう。
これが明らかに迷惑な場所に不法投棄してある自転車なら話は別だが、矢島さんの誰の指紋の付いていない自転車は、団地内の駐輪場に止まっていた。それを西成警察署の警察官が偶然発見した。なにか不自然なものを感じないだろうか。
ちなみに遺体が発見されたのは、木津川の船着場だ。この対岸は警察の所轄が、西成警察署管内から大正警察署になる境界だ。矢島さんの自宅は元より、不審火で焼死した矢島さんの良き理解者であり協力者であった関係者の自宅。勤務していた診療所など、一連の事件はすべて西成警察署管轄内で起きている。そして、その西成署管轄内で遺体が引き上げられた。
筆者は遺体を発見し、引き上げた人物にも話を聞いた。だが、「関わりあいたくない。死んだ人間に同情するが、この件で毎月一回警察に呼ばれている」と証言した。
善意の第三者である第一発見者が、死後5年経過している事件でなぜ毎月、警察に呼び出されているのか。それも遺体を発見しただけでなく、わざわざ引き上げてくれた人物だ。西成警察署は何かを知っているのではないか。筆者は西成署の捜査方針に対して違和感を抱いた。
「西成はホンマに不思議な街や。正しい事しようとする人間が消されるわ」
西成住民の言葉は、どんな闇を示しているのだろうか。
Written by 西郷正興
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