4Kテレビは大コケ「3D」の再来か? アダルトコンテンツとの相性は...
TABLO / 2014年9月5日 18時0分
ハイビジョンの四倍の画素数 「4Kテレビ」は流行るのか?
今年から「4Kテレビ」の話題が本格的に流れ始めている感があり、人によっては 「2014年は4K元年になる!」 とまで息巻いている。 4Kとは、簡単に説明するとフルハイビジョンの4倍の画素数を持つ高画質映像のこと。
こうした技術の進歩を否定するつもりはさらさらないのだが、今現在の人々のライフスタイルを考えると、このような超高画質映像は全く出番がないまま終わる可能性の方が高いと思われる。
というのも、4Kの映像は現時点では超高価なテレビ(もしくはプロジェクター)などを買わねば楽しめず、4K画質を楽しむためだけに2~300万円なんてお金を使える家庭がどれだけあるのかという話だ。 時間が経てば値下がりするとは言われているが、それでも50万円程度が下限と目されており、庶民の立場からすると全く縁のない物となりそうだ。おそらく4K画質が安価に制作・放送できる土壌が整ったとしても、それを楽しめる場は映画であるとか、ショーであるとか、箱物商売に限定されてしまうのではないだろうか?
また、その頃にはすでに新しい技術が誕生し、そちらの売り込みが始まっているであろうと予測される。 これには前例があり、4Kが騒がれ出した頃(2010年頃) に映像の分野で何が話題になっていたかというと、今では大コケの代名詞になりつつある3Dなのだ。
皆さんは一時期アレだけ猛プッシュされていた3D映像を、自宅で気軽に楽しんでおられるだろうか? おそらく一部の酔狂な方を除いて、殆どの日本人が興味を持っていないと思われる。
それもそのはずで、今ではそもそも 「テレビで映像を見る」 という大前提すら崩れているのだから、リビングでソファーに腰掛けてゆったりと3D映像を楽しむといった、企業が理想とする庶民の暮らしなど夢物語に過ぎない。テレビ・PC・スマホ・タブレットと、映像を見るためのメディアが増えすぎているため、どれかひとつに多額の投資をするという発想にはなり辛いのである。また、中でも最も不便なのが据置型のテレビなのだから、そこに大金を使える人など少数派であろう。
この 「テレビは不便である」 という前提を、日本企業は全く理解できていない。 新しい技術を用いて客を取り戻そう、経済を回そうという発想なのかもしれないが、今の日本人はそこまで超美麗な映像など求めていないのではないだろうか?
インターネットの動画サイトなどで映像を見るだけで満足できている人は、絶対に企業が求めているような「超高画質映像に何百万単位のお金を使ってくれる日本人」にはなってくれない。むしろ 「手軽に安く映像を楽しみたい」というのが本音だろう。そういった面では、初期投資に多額のお金が必要で、なおかつ見られる状況が限定されてしまうテレビなど、全てが逆を行ってしまっているのである。言葉は悪いが、庶民のライフスタイルを企業が押し付ける時代はとうに過ぎているのだ。
そうした中で嫌でも注目を浴びるのがアダルトビデオをはじめとするエロコンテンツなのだが、これもこれで今すぐには4Kをどうこう出来る状況にはならないと予測される。未だに 『VHS vs ベータ戦争』をVHSの勝利に導いたとされるアダルトビデオ伝説の再来を期待している方が多いようなのだが、残念ながら4K以前に3Dの段階で大コケしている。
それもそのはずで、AV業界が3D化に向けてザワザワしていた当時は、3Dに対応させるには撮影方法からそれ専用にせねばならず、これまでのようなカメラ回しが事実上不可能だったのだ。また複数のカメラの角度を固定して被写体を写さなければならないため、定点映像ばかりのAVになってしまった。これでは絵の面白さはあっても実用性に疑問符が付いてしまう。3D「AV」で最も楽しめるのは「定点オンリーでも文句が出ない盗撮物だけだ」なんて笑い話もあったほどで、今では3DのAVなど終わったものとして認識されている。
またAV業界といえばハイビジョンブームの時にも似たような混乱があった。私自身がAV監督として2003年というかなり早い時期にハイビジョン撮影のAVを制作した事があったのだが、当時はハイビジョン用の機材が一社で揃えられるような金額ではなく、まずカメラを借りるところからハードルが高かった。その時は仲の良い新進気鋭のデジタル映像専門会社と提携(というか相乗り撮影)する事でカメラは用意できたのだが、撮影が終わったら終ったで今度は編集ができない。
というのも、当時私が所属していたAVメーカーにはごく普通のノンリニア編集機しかなく、それではせっかく高画質撮影しても書き出したら普通の画質になってしまい、まったく意味がないのである。そこで編集も先述のデジタル映像会社でやって貰う事になったのだが、彼らはデジタル映像の専門家ではあるものの、AVの編集などやった事がない。
そこで私がノンリニア編集機でまずザックリとカット編集だけ行い、それを映像会社に持ち込み、スタッフに見せながらカットポイントを伝え、その通りに編集してもらい、その素材に今度は泣きながら徹夜でモザイクをかけるという、酷い2度手間作業になってしまった。
そこまでして作り上げた、恐らく史上初であろうCineAlta(スターウォーズ2でも使用されたカメラ)で撮影されたAVは、撮影場所が本物の廃墟だった事もあり局地的に話題にはなったのだが、かけたコストと労力に見合った販売本数だったかというと、ズバリ大赤字である。
当時のAVでは考えられないほど超美麗映像で、廃墟に舞うチリや、女優の下着のゴム跡や、ちょっとした細かい傷や肌荒れ、さらにはメイクの「粉塗りたくってます!」感までバッチリ見える代物ではあるのだが、当時はまだ記録メディアや再生機材の方が追い付いていなかったのだ......。
よって、私が撮影した廃墟AVは、同時期に流通していたAV作品の中では圧倒的に画質は良いのだが、使った撮影機材のポテンシャルをフルで楽しむには「編集会社の専用機材で見なければならない」という意味の解らない残念な結果になってしまったのである。 DVDに焼いてDVD再生機にかける時点で劣化した絵しか見られない事が確定するという本末転倒ぶり。 これが私のAV監督人生の中でも特筆すべき黒歴史であり、新しい技術に下手に飛び付くとどうなるかという悲劇的な物語である。 ぜひ反面教師にしていただきたい。
新しい技術によって一発逆転を狙いたい大企業様の気持ちは解らないでもないのだが、ハイビジョンにしろ3Dにしろ4Kにしろ、ソフトを作る人間や末端のユーザーに強いる初期投資額が大きすぎる。これでは一回コケたら会社が潰れてしまうし、誰もそんなリスクしかない戦いをしようとは思わないだろう。という事は、最新技術を使った超高性能なんちゃらが売り出されても、それに対応するソフトが全く供給されず、速攻で忘れ去られてしまうという事になる。 そうなると企業はまた性懲りもなく次の技術! 次の技術! と押し売りを続ける。 これでは絵に描いたような悪循環だ。
近頃はこのようなエンドユーザーや現場の人間が求めているものと、企業が打ち出す新技術(新商品)とが咬み合わない例が多すぎるように思う。日本企業の業績不振はこのようなところに要因があるのではないだろうか?
Written by 荒井禎雄
Photo by djandyw.com
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