いわゆる「W吉田」誤報と朝日の油断...プチ鹿島の『余計な下世話!』vol.61
TABLO / 2014年9月16日 15時0分
いわゆる「W吉田」誤報(byサンデー毎日)。
先週大きな会見があった。「吉田調書」をめぐる報道で、朝日新聞社の木村伊量社長が謝罪した。そしてついでに(という感じで)「吉田清治」に関する誤った記事を掲載したこと、その訂正が遅きに失したことについても「読者のみなさまにおわびいたします」と述べた。
この会見は、8月に書いた当コラム2本の答え合わせになった。
私はまず8月26日のコラムで「吉田調書」の朝日と産経の異なる解釈は「プロレス物件」であると書いた。
《そこに送り手側の立場や思想が絡んでいるからこそ、同じ「試合」でも伝え方が違う。なんなら読者を誘導する。朝日と産経の吉田調書を巡る報道は久々に味わうプロレス紙(誌)の報道合戦だと私は確信している。》
そしてコラムの最後に、政府が吉田調書公開の検討を始めたという話題を紹介し「朝日、産経、今頃ドキドキしているのはどっちだ?」と書いた。ドキドキしていたのは朝日だったことになる。ドキドキしすぎて政府が公開したその日にギブアップしてしまった。
そして興味深いのがもうひとつ。会見後の13日の朝日にはこんな記事が載っていた。
《抗議書を送っていたジャーナリストや雑誌、新聞社におわびの意思を伝えた。(略)伝えた相手は、ノンフィクション作家の門田隆将(りゅうしょう)氏、週刊ポスト(小学館)、写真週刊誌のFLASH(光文社)、産経新聞社。》
私は当コラムの8月12日分で、朝日はなぜ「慰安婦報道の訂正」をしたのか? という理由として「抗議文」に注目した。
というのは、「週刊ポスト」(6月20日号)に「朝日新聞『吉田調書』スクープは従軍慰安婦虚報と同じだ」という記事が載るや、朝日は小学館にすぐさま抗議したのである。
それまで「吉田清治証言は虚報」的なことを書かれてもずっと沈黙していた朝日が、「吉田調書」記事もそれと同じ虚報だと言われたら過敏に反応し抗議書を送ったのだ。
言ってみれば朝日は東電の「吉田調書」スクープを守るために、慰安婦の「吉田証言」虚偽を認めたのだ。一部を虚偽と認めることにより、その他は反論できる態勢を整えたと私は推察した。
しかし、朝日は致命的な読み間違えをした。まさか「吉田調書」が公開されるとは思っていなかったのではないか?
タブロイド紙などで「産経にも吉田調書が渡ったのは官邸の朝日潰し」という内容の記事を目にした。朝日の嘘を晒すために官邸側が産経にリークしたのだ、と。
ここで考えたいのはリークの是非ではなく「朝日の油断」である。
吉田調書は公開されるはずがない、という考えは朝日になかったか。「自分しか入手してないから安心して読者を誘導しようとした」と言ったら失礼だろうか。
しかし安倍政権は吉田調書を朝日以外にリークして朝日の嘘を指摘させ、朝日を追い込み、そして「真実を見てもらう」という大義名分で吉田調書を公開してしまった。
菅官房長官の「吉田氏の記録の一部を断片的に取り上げた記事が複数の新聞に掲載され、独り歩きとの本人の懸念が顕在化しており、このまま非公開とするとかえって本人の意思に反する」という見事すぎる大義名分に、朝日はまさかの王手をかけられた。
朝日は、安倍政権の対朝日への「執拗さ」をナメていたのだと思う。第一次安倍政権は朝日にさんざん叩かれ沈没したという恨みを先方が「まだ抱いてるかもしれない」可能性を忘れ、ナメていなかったか?
朝日は会見で「思い込み」で記事を書いてしまったと述べたが、今回最大の「思い込み」は、こういう記事に対しては権力側はデンと構えてスルーするはず、という思い込みだろう。
もっと言えば、安倍サイドの「器」を読み間違えていたのではないだろうか(器の大小については各々の判断でお願いします)。
さて、「朝日は廃刊すべき」と主張する人たちがいるが、どうだろう。だってもし本当に朝日が廃刊してしまったら、生き甲斐を失くし嘆き悲しむのは、そう言ってる人たちだと思うのです。
想像すべきだ、大ボケがいなくなったときのツッコミの寂しさを。
朝日のWボケ漫才ならぬ「W吉田」を見て私はそう思いました。
Written by プチ鹿島
http://n-knuckles.com/serialization/img/kasimaph.jpgプチ鹿島●時事芸人。オフィス北野所属。◆TBSラジオ「東京ポッド許可局」◆TBSラジオ「荒川強啓ディ・キャッチ!」◆YBSラジオ「はみだし しゃべくりラジオキックス」◆NHKラジオ第一「午後のまりやーじゅ」◆書籍「うそ社説 2~時事芸人~」◆WEB本の雑誌メルマガ ◆連載コラム「宝島」「東スポWeb」「KAMINOGE」「映画野郎」「CIRCUS MAX 」
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