尖閣諸島紛争から2年...国有化の裏に何があったのか:後編
TABLO / 2014年9月28日 17時6分
石原氏が意図する尖閣の実効支配の強化は中国を怒らせる。それを防ぐために是が非でも国が買わねばならない――そう野田首相は思っていた。そして野田の側近である長浜博行参議院議員が密使として、K氏のもとへ送り込まれた。長浜氏がK氏に初めて会ったのは晩春のころのことだ。
彼に当時のことを尋ねた。
「はい、交渉のために何度もお会いしたのは事実です。K氏は繊細で大変慎重な方でした。この交渉は役職上やっただけにすぎませんよ。あまり注目していただきたくありません。単に任務をこなしただけです。単なる不動産売買です」
そういって口を閉ざした。
昨年出版された『暗闘 尖閣国有化』(春原剛・著)には長浜氏の詳細な証言が記されている。その要旨はだいたい次の通りである。
長浜氏とK氏の両者は最初のころこそ腹の探り合いに終始した。しかし長浜は、考え方を変えることで、突破口を切り開いていく。その考え方とは次のようなものだ。
「この人にとっては『故郷の一部』を売るような案件だった。なので『なぜこの方がこの問題に巻き込まれているか』と相手の立場を一番に考えました」
長浜氏が相手の気持ちに寄り添って接したところ、繊細で大変慎重なK氏は次第に心を開いていき、長浜氏はK氏から昔の写真を見せてもらえるまでになった。
しかも財務省が思わぬ形で野田政権を後押しした。6月末、内閣予備費を使っても良いというお墨付きを与えたのだ。都が額面で自由に価格決定が出来ない一方で、国は自由に金額を出せることになった。
このように、実際は案外早い時点で国がすでにリードしていたのだ。
話を筆者の聞き取りに戻そう。
石原氏の側近H氏も予備費という切り札について話している。
「国は国家予算の予備費を利用しての購入を検討しますから、本気で購入を検討しているならば金額面において都側に勝ち目はないんです。そして最終的には希望価格から1000万円引いた20億5000万円という売却額でK氏と国が合意したというわけです」
6月末時点である程度は勝負あったということなのに、石原氏は尖閣諸島に緊急避難港などを作って実効支配を強化したい、という強い思いもあって、がんばり通したということらしい。
H氏は続ける。
「最終的に国に売ることが決まったとき、石原氏は『しょうがない』という思いと『最初とずいぶん話が違う』という思いを半分ずつ抱きました。私たちにしても、K氏がボロ儲けしたというイメージが強く残りました」
そう言って悔しさをあらわにした。この発言からわかるのは、国有化が決定したとき、石原氏は、K氏の裏切りに対し、怒りがおさまらなかった、ということだ。結果的に、石原氏はK氏に一杯食わされた形になった。
石原氏とK氏は2010年以後、山東昭子議員を仲介して急接近、購入の話が内々で決まった。それを受けて石原氏が尖閣購入をぶちあげたわけだが、そもそも地主のK氏が売ろうとしたのはなぜか。
尖閣を購入したいという石原氏の強い意志にほだされたとか、「高齢だしそろそろ手放してもいいか」とK氏が思ったとか、諸説はあるが決定的な理由とはならない。では尖閣売却を思い立った一番の理由は何か。それは彼の自宅関連の登記簿にあらわになっていた。
大地主であるK氏だけに埼玉県以外に静岡や沖縄とあちこちに土地を持っている。しかし2010年ごろの資産状況は散々で、合計で約40億円が抵当に入っていた。その担保として、大宮近辺を中心とした48もの物件を抵当に入れている有様。その中には1000平米の敷地を持つ自宅の土地すらも入っていて、K氏はそのときお金がまったくない、首の回らない状況だったことが見て取れる。
ところが2013年時点でそれら数十億単位の抵当が全て消えていたのである。20億5000万円によって、借金をきれいさっぱり完済し終えたようなのだ。
つまりこういうことではないか。K氏は自らの借金を帳消しするために島の売却話を石原氏に持ちかけた、と。しかしそこに割りこんできた国の方が高く買ってくれることがわかったので、揺れながらも、そちらに売った、と。したたかというしかない。
一方、東京都に寄せられた募金約14億円は返還もされず、今も宙に浮いている。
Written by 西牟田靖
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