競馬場に電話をして逮捕 男が情報を求めてかけ続けた理由は「競馬新聞は高いから」でした|裁判傍聴
TABLO / 2020年1月5日 11時50分
札幌市内で一人暮らしをしていた福田篤司(仮名、裁判当時65歳)は定年退職後に「頭を使うために」趣味として競馬を始めました。この新しい趣味にのめり込んでしまったことが事件の発端でした。
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対応の良かった競馬場職員
多額のお金を馬券に費やすようなことはありませんでしたが、彼がお金の代わりに費やしたのは時間でした。仕事をしていないため日中はいつも暇です。いくらでも時間をつぎこむことができました。
好き放題に時間をつぎ込み続けた結果、彼は札幌市内で逮捕された後に東京拘置所に送られ約2ヶ月の勾留を経て公開裁判を受ける羽目になりました。そして懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受けることになりました。
彼が起訴された罪名は偽系業務妨害です。わかりやすく言えば、イタズラ電話での逮捕です。
「競馬新聞が高いから」
それが、彼が都内の競馬場に電話をするようになった理由でした。
レースの内容や出走場、騎手の情報などを電話で聞いていました。彼が電話をかけていたのは競馬場のイベント情報などを発信する部署です。レースの内容などを教えてくれる部署ではありません。それでも競馬場の職員は彼の問い合わせに快く答えてくれました。
……はじめのうちは。
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競馬場の対応に気をよくしたのか、彼は連日電話をかけてくるようになりました。それも時間だけはあり余っている老人の電話です。すぐに切ってはくれません。1時間以上も話している時もありました。当然、職員も嫌気がさしてきます。電話応対もおざなりなものになっていきます。それに関して彼は次のように話しています。
「だんだん、職員の対応が邪険になっていきました。話している途中で電話を切られたこともあります。あと、間違えてかけたわけじゃないのに電話に出た女が『こちらは火葬場です』などと言い出した時もありました」
言うまでもありませんが、電話を受ける競馬場の職員は仕事中です。毎日1時間も暇な老人の相手をしていられません。まともな対応などしなくなるのは第三者から見れば当たり前の話なのですが、彼はその対応に激怒しました。
怒ったところで、札幌に住む彼が都内の競馬場に対して出来ることは1つしかありません。
彼はいつものように携帯電話で競馬場の番号に電話をかけ始めました。今度は情報を聞くためではありません。純粋な嫌がらせのために、です。
競馬場職員の供述です。
趣味がイタズラ電話に……
「1日にだいたい40件、多いときだと50件くらい迷惑電話がかかってくるようになりました。電話に出ると保留音がずっと鳴っていたり、こちらが出るとすぐ切られたり、無言電話もありました。頭にきて仕方ありません」
長電話も迷惑なのは同じですが、何度もかかってくるイタズラ電話からは迷惑なだけでなく明らかな悪意も感じられます。
一方、彼はどのような気持ちでイタズラ電話を繰り返していたのでしょうか。その時の気持ちについては、
「電話をすると一時的にはスッキリします。電話を切ってから何分かするとまたそのスッキリした気分になりたくて電話をかけたりしていました」
競馬を趣味として始めたはずでしたが、もうこの段階になると競馬ではなくイタズラ電話が趣味になってしまっていたようです。
彼は一連の犯行をすべて自分の携帯電話で行っていました。おそらくイタズラ電話なんかで警察沙汰になるとは思っていなかったのだと思います。そして、自分が腹を立ててした行為で警察に相談するほど腹を立てる人がいる、ということを想像できなかったのだと思います。
怒って感情的になると周囲の人への想像力をなくしてしまうことは誰にでも経験があるのではないでしょうか。しかし、一人暮らしをしていた彼の周りにはそんな時に諌めて止めてくれるような人はいませんでした。
「今後は競馬はやめて学生時代にやっていた剣道を再開したいと思います」
と、彼は今後の生活について話していました。今度は剣道場にイタズラ電話をかけるのではないかと気が気ではありません。(取材・文◎鈴木孔明)
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