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ママ友トラブルで急増「泥ママ」の巧妙な手口とは?

TABLO / 2014年10月15日 17時0分

ママ友トラブルで急増「泥ママ」の巧妙な手口とは?

 ここのところ江角マキコによるイジメ被害者発言からのマネージャーによる壁落書き事件や、ママカーストといわれる序列が明らかになるなど、幼稚園や小学校におけるママ友関係に注目が集まっている。今回は、ママ友が引き起こした窃盗事件の被害者になった筆者が、その卑劣な犯行の全貌を報告する。

 春の日の夕方、少し早めに仕事を終えて自宅に戻ると、当時幼稚園に通っていた娘の友達のお母さんであるMが妻のタンスの引き出しを開けていた。ここのところよく遊びに来る彼女は、まだ二十代半ばという若さで三人の子供を持つヤンママだ。髪を派手な色に染め、肩や足首にタトゥーを入れているところをみれば、以前は相当に遊んでいたのだろう。顔見知りなので声をかけると、慌てた様子で引き出しを閉めて振り返ったMは、引き攣り気味の笑顔で挨拶を返してきた。

「あ、こんにちは。ちょっとペンを借りたくて探してしまいました。ごめんなさい......」

 妻と子供達の所在を聞けば、近所のコンビニまでお菓子を買いに行っているらしく、彼女ひとりで留守番していたらしい。そんなことは、よくあることだ。この時は、ほんの少し違和感を覚えたくらいで、特に気になることはなかった。

 数日後、イラついた様子の妻が、ぼそぼそと呟きながらタンスの引き出しをひっくり返していた。聞けば、大事にしていたロレックスの時計と、祖母の遺品であるダイヤの指輪が見当たらないらしい。しっかり者の彼女が大事にしているモノを失くすことは非常に珍しく、二十年以上生活を共にしてきて初めてのことであった。

 一緒に保管していた結婚指輪や婚約時に購入したペアの時計はあるのに、そのふたつだけ見つからないのが不思議だ。きっと、子供達が悪戯したのだろう。そう思いつつ、その行方を子供達に尋ねてみると、時計や指輪をいじったことはないという。子供達にウソをついている様子は見られず、改めて様々な場所を探して見るが、その行方は杳として知れない。結局、どこにあるのか分からないまま、数日の時を過ごした。

「ねえ、バッグの中に入れておいたお金がないんだけど、知らない?」

「知っているわけないじゃない。いくら入ってたの?」

「八万円。昼間に銀行から下ろして、封筒に入れておいたはずなんだけど......」

 節約を趣味とする妻が、八万円もの現金を失くすとは考えにくい。そこで、いつかみた不自然なMの振る舞いを思い出した俺は、気になって嫁に尋ねた。

「今日、Mさん来た?」

「うん、来たよ。なんで、そんなこと聞くの?」

 そこで以前に見た不審な挙動のことを話して、他のモノが無くなっていないか確認させると、数日前に確認した時にはあったはずの結婚指輪とペアの腕時計が無くなっていた。その上、五百円玉貯金していた貯金箱の中身までもが空になっている。普段使わないので気がつかなかったが、すべて盗まれたとすれば三百万円以上の損失だ。

「そういえば、いつも留守番を買って出るようなことばかり言うから、なんかおかしいと思っていたんだよねえ......」

「色々なところでやっているかもしれないから、それとなくみんなに聞いてみたら?」

 周囲の友人達にモノが無くなっていないか、それとなく確認した結果、驚くべき事実が明らかになった。周囲にいるすべての友人の家から、様々なモノが無くなっていることが判明したのだ。ある人はタンスの中にあった現金と高級時計、またある人は高級時計と宝石の付いた指輪、さらには二十年以上に渡って溜め続けてきた八十万円ものタンス預金が無くなったという人もいた。その上、子供のゲーム機やゲームソフトを盗られたという人まで出てくる始末だ。

 モノが無くなっていることに気付いたのは、いずれもMが遊びに来たあとで、みんなが彼女のことを疑っている状況にあった。しかし決定的な証拠がないために、もし違っていたらと思うと誰にも相談できなかったと、皆一様に口を揃えている。

 まずは自分の子供に狙いをつけた家の子供と約束するよう仕向けて、家に遊びに行くきっかけを子供に作らせるのが彼女の常套手段だ。そうして「ウチの子が○○ちゃんと遊びたいって言っているんだけど、今日遊びに行ってもいい?」などと声をかけ、家で遊ぶことを前提に誘ってあがり込むのである。家主が「買物に行くから」と暗に帰宅を促しても、めげずに長居をして「留守番していてあげるから」などと申し出て、買物に行かせるように仕向ける。

 また、遊んだモノのあと片付けをする時には「あっちの部屋を片付けてくるね」などと言って、決まって誰もいない別の部屋に行きたがっていたという。いずれにせよ、子供を出汁にした犯行が許せない。

 状況からすれば、すべて彼女の仕業であろうと思われるが、明確な証拠はない。結局、証拠を掴むまで変わらずに接して、言い逃れできない証拠を掴んでから警察に相談しようということになった。

 その翌日、幼稚園まで娘を迎えに行った妻が、何気なくMの娘に話しかけた。

「昨日は、何して遊んでたの?」

「昨日はね、ママと池袋に行って、指輪と時計をお金に交換してもらったの。そのお金で、たくさんお買物して、焼き肉も食べたんだよ」

 この言葉に反応した妻が、表情を変えることなく、言葉巧みに聞き返す。

「へえ、よかったねえ。指輪とか時計をお金に変えてくれるお店なんて、どこにあるの?」

「○×通りの大○屋って店だよ。ママと、よく行くんだあ」

 ひょんなところから明確な証拠を掴んだ妻は、自宅に戻ると被害者と思しき関係者に連絡を回して集合をかけた。それから全員で所轄警察署に出向い、一連のことを訴えると、その店まで刑事が調べにいってくれることになった。

 翌日、妻が提供したMの写真と無くなった品物の保証書などを片手に大○屋まで飛んだ刑事が、大○屋の古物台帳を確認すると複数の被害品を発見。それを持ち込んだ人物の身分証明書の写しや、防犯カメラの映像からMの犯行だという証拠が得られた。しかし、残念なことに被害品はすべて売却されており、その行き先を辿ることはできないという。愛する祖母の遺品と思い出の指輪、それに苦労して購入した時計をすべて失くした事実が重い。

 卒園式の前日。警察から逮捕状が出たという連絡を受けた妻は、翌朝にMが逮捕されることを知った。その時間は、午前四時。早朝に行くのは、母親が逮捕されるところを子供や近隣住民に見せないようにするためで、被疑者に対する警察の配慮らしい。被害者一同、卒園式後の謝恩会でMと同席することを苦痛に感じていたので、卒園式当日の逮捕は喜ばしいニュースといえる。しかし、幼稚園生活最後の楽しみを奪われたMの娘の気持ちを思えば、心から喜ぶわけにもいかない。

「ママが入院しちゃったから、謝恩会にはいけないの......」

 父親と卒園式に現れたMの娘が同情を求めて欠席理由を言い回る姿は痛々しく、それを見守る父親の虚ろな姿は悲惨で直視できないほどであった。

 その夜、Mの夫が自分の上司を伴って、自宅まで謝罪に来た。話を聞けば、万引きや置き引きなどの前科を持つMは、手癖が悪く、親戚の家などでも盗みを繰り返していたという。今回のことで実刑判決を受ける可能性は高く、いま住んでいる実家を出されることにもなったので、この土地から離れるらしい。逮捕から十六時間しか経過していないのに、ここまで家庭が崩壊していることに驚く一方、同じ小学校に通うことを不安視していた妻は、学区外に引っ越してくれると聞いて安堵していた。

 それから一週間ほど経過したある日、各被害者への賠償に奔走しているMの夫から示談の申し出があった。その賠償額は時価総額から算出されたもので、とても納得のいく額面ではない。しかし、盗難保険に入っていたことから補填の目途はついたし、罪のない三人の子供達の生活を思えば、Mを刑務所に入れるわけにもいかない。そんな思いから示談に応じることを決めた妻は、どこか釈然としない気持ちのまま宥恕文まで差し出した。

 証拠採用された宥恕文を法廷で読み聞かされた彼女は、その場に泣き崩れて嗚咽を漏らしたという。注目の判決は、懲役二年、執行猶予四年の有罪判決にとどまり、Mが収監されることはなかった。彼女の現在は分からないが、その盗癖が治まっていることを願うばかりだ。

Written by 伊東ゆう

Photo by Vieira_da_Silva

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