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「窃盗癖は病気」医師の協力でダブル執行猶予を狙う万引き犯

TABLO / 2014年10月20日 17時0分

「窃盗癖は病気」医師の協力でダブル執行猶予を狙う万引き犯

 ここのところ起訴された万引き犯に対して異例の判決が続出している。執行猶予中の身であるにも拘らず再犯に及んで逮捕、起訴された複数の女性被告に対して、保護観察付きの執行猶予判決が相次いで下されているのだ。通常であれば、執行猶予中の者が起訴されて有罪になれば実刑は免れないはずであるが、どうしてこのような判決が出されているのだろうか。

 その判決理由を読むと、一定の収入があるのに万引きを繰り返してしまうのは万引き依存症(窃盗癖、クレプトマニアともいう)や摂食障害などといった病気の影響であると裁判所が認定しており、それを自認した被告が治療に前向きな姿勢を見せていることが大きく評価されていた。つまり、執行猶予中に逮捕、起訴されたとしても、病気の影響による行為だと主張し、盗みを繰り返さないための治療を受けていることが認められれば実刑を免れるというわけだ。

 確かに、多額の金を所持しているにも拘わらず、金を使いたくないという歪んだ倹約心から万引き繰り返す者は多く、摂食障害を理由に万引きする者も珍しくない。いくら食べても吐いてしまうので食べ物を買うのが馬鹿らしくなり、日常的に大量の食材を万引きしてしまうのである。しかし、大胆かつ巧妙な手口を用いて万引きを繰り返す彼女達の悪質な犯行を目撃している立場からいえば、万引きしてしまうのは病気の影響だという主張を受け入れ、彼女達を弱者の如く保護する司法の姿勢には賛同できない。

 今夏、窃盗癖(クレプトマニア)を治療する病院での取材を許された筆者は、入院治療されている女性(二回の服役歴を持つ執行猶予中の再犯者)にインタビューする機会を得た。今までに二回服役している経験から、刑務所にいっても万引きは止められないと断言する女性は、自分が万引き行為に及んでしまうのは拒食症やうつ病、強迫神経症、離人症などの影響に違いなく、ここで治療すれば止める自信があるので更生する機会を与えてほしいと自身の裁判で主張している。

 今までの万引き歴を尋ねると、その回答に絶句した。ここ十数年、金を出してモノを買ったことはないと言い放ったのである。捕捉された経験も三十回を超えており、被害届が出されなかったり、病気を理由に不起訴となる事案が多く、二回の実刑で済んでいるのだと自慢気に話している。概算の被害額を聞けば、二千万円は下らないだろうと胸を張り、自分の部屋から盗んだモノを除けば一部の大型家電しか残らないと豪語する始末だ。運悪く捕捉された時には、警察署から被害店舗に直行して報復の万引きをしていたと楽しそうに話しているところをみれば、万引きしていた理由が病気の影響だけとは到底思えない。もし、彼女の様な理屈がまかり通ってしまえば、病的で常習的な犯行を繰り返すほど罪が軽くなるという解釈になりかねず、捕捉された犯人の多くが詐病を用いるようになるだろう。万引きの現場に携わる立場にいる者として、彼女の話を聞いているあいだ、胸糞が悪くて仕方なかった。

 ダブル執行猶予を勝ち取るための駆け込み寺になりつつある病院側も、再度の執行猶予を勝ち取るために様々な作戦を実行している。被害店舗に対して病気治療中であることを伝え、今後は一切万引きをしないという契約書とともに、迷惑料や被害弁償金名目の金を一方的に送りつけるのだ。もし受け取れない場合には、雑収経常してもらうか、寄付や献金に充ててくれという手紙まで添付する周到さである。それとなく治療中であることを伝えると、被害届を取り下げてくれたり、宥恕文を書いてくれる被害店舗まであるというから、まさに一石二鳥の謝罪手法といえるだろう。

 取材に応じてくれた女性も、病院の指示でいくらかの被害弁償を為したという。しかし、それは起訴された事件の被害店舗に対してだけで、いままでに成功してきた分についての賠償は一切していないのである。そうした店舗については、思い出せる範囲で謝罪しているというが、捕まらなければ私のものという論理が成り立っている状況には首を傾げざるを得ない。だが、どういう形であっても被害店舗に金を受け取ってもらえれば、示談の一部が成立したと主張出来る。それが目的なのである。

 このような判例が定着すれば、減刑を狙って入院する者が増えるに違いなく、そこで生み出される利益も相当なものになると思われる。無論、治療が有効で再犯に及ばなくなるならば、それほど喜ばしいことはない。しかし、異例の温情判決を下された人達が再犯に及んだ時、この病院の医師達は、どのような弁解をするのだろう。いずれにせよ、二つの弁当(執行猶予中の刑)を炸裂させてしまえば、五年以上の懲役刑に服することになるので、温情判決を下された人達が再犯に及ばないことを望みたい。

Written by 伊東ゆう

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