安倍政権の閣僚スキャンダルの影響は沖縄県知事選へ|岡留安則コラム
TABLO / 2014年11月6日 20時30分
とどまることを知らない朝日新聞バッシングの勢いを止めたのは、安倍総理の閣僚人事の失敗だった。鳴物入りで起用した女性閣僚5人のうち、小渕優子経産大臣と松島みどり法務大臣が政治とカネの問題で同時辞任。
盤石と見られていた安倍政権に亀裂が入ったのだ。官邸としては二人の閣僚辞任で鉾を収める作戦だったが、政治とカネをめぐるスキャンダルはその後も次々と発覚した。小渕大臣の後任に指名された宮沢洋一議員もSMバーへの支払いや外国人経営者からの献金問題が浮上。その後も有村治子女性活躍担当大臣、西川公也農水大臣、江頭聡徳防衛大臣、望月義夫環境大臣らの政治資金問題も発覚。
大臣を起用する場合、官邸を中心に「身体検査」をすることが通例となっている。しかし、今回の一連のスキャンダルを見ていると、安倍政権や官邸に驕りや緩みが蔓延しているのではないか。大臣がもう一人辞任するような事態になれば、安倍総理の政権運営に支障をきたすはずである。辞任した小渕優子の秘書や会計責任者を務めてきた前中之条町長の折田健一郎氏に対して東京地検特捜部は任意での事情聴収と家宅捜査に踏み切った。特捜部の動きの早さからみて、何らかの立件を狙っている可能性もある。そうなれば、小渕優子本人も大臣辞任だけでなく、議員辞職に追い込まれる事態もありうるだろう。安倍総理には第一次安倍政権で閣僚が次々と辞任した、ドミノ辞任劇の悪夢が脳裏をよぎっているはずである。
そうした事態を避けるために安倍総理と官邸は国会では政策論議をやるべきという世論作りを仕掛けると同時に、年末、年始の解散説も流している。面白かったのは、安倍総理が内輪で語ったとされる「撃ち方やめ!」の発言を朝日、毎日、讀賣、産経、日経などが記事にしたが、安倍総理は国会で朝日だけを取り上げて「ねつ造」と反撃。ここぞとばかり朝日批判を展開したが、一連の朝日バッシングの構図が垣間見えるような安倍総理の興奮ぶりだった。
それはともかく、安倍政権の閣僚スキャンダルの影響力が及ぶ可能性が高いのが沖縄県知事選である。滋賀県知事選で敗北し、福島県知事選では引き分けに持ち込んだものの、日米安保体制のベースとなる沖縄で負けたら安倍政権のダメージは大きい。安倍政権が命運をかける集団的自衛権行使や辺野古新基地建設にも影響が及ぶ。沖縄県知事選はすでに選挙戦に突入しており、投開票日は11月16日である。下地幹郎元衆議院議員、喜納昌吉元参議院議員、翁長雄志前那覇市長、現職の仲井真弘多氏の4人での争いだ。官邸が極秘で調査した事前の世論調査では、辺野古新基地建設に反対し、オール沖縄の県民党路線を打ち出している翁長雄志候補が大きくリードしている。しかし、安倍政権としても負けるわけにはいかないと位置付けており、官邸を中心に人脈と金脈を駆使した選挙戦を展開している。大手広告代理店から派遣されたイメージ戦略部隊もすでに胎動していると囁かれている。日銀に対して80兆円の金融緩和政策を実行させる安倍政権にとっては、官邸機密費や選挙資金は潤沢なはずだ。
しかし、最大の問題は、長年の沖縄差別政策により、辺野古新基地建設に関しても県民の8割近くが反対していることだ。そのことは安倍政権も官邸も認識しており、辺野古新基地建設も沖縄県知事選に先行させる形で工事に着手し、既成事実化を図っている。辺野古の海ではボーリング調査も着々と進んでおり、反対派の市民団体と防衛局、沖縄県警、民間会社の警備員とのにらみ合いは日常的光景となっている。
流血の惨事こそ起きていないが、このまま県民の意思を無視して工事を強行すれば、最悪の事態が発生してもおかしくない。政府は基地と経済振興はリンクしないなどと寝言を繰り返しているが、沖縄にいれば、そんな戯言を信じる県民はほとんどいないことが分かる。米軍基地がある事での抑止力という常套句もその政府が平気で覆す状況が続いている。米軍基地がなければ沖縄経済は立ちいかないという言い古された言い分も具体的な数字で否定されている。
よく言われるのが、本土メディアと沖縄メディアの温度差である。さきほど書いたような沖縄の現実に対する認識の違いが根底にあるのではないか。今回の県知事選でも本土メディアは取材陣を派遣している。現実の沖縄を見れば、認識は変わるだろうが、一過性で終わるケースも多い。
沖縄に来れば、いかに沖縄に米軍基地が集中しているか、肌で感じることが出来る。F15戦闘機やMV22オスプレイの轟音や危険飛行も身近に実感できる。しかし、沖縄を離れれば、そうした日常は脳裏から記憶が薄れる。沖縄に移住する前の自分にも当てはまる。かつて、村山富市元総理も同じような感想を述べていた。人間の性といえば、そうかもしれないが、沖縄には在日米軍基地の74%が集中している。そうした環境の中で生きているのが沖縄県民なのだ。県知事選は全国ニュースにもなるので、ささやかでも沖縄の現実に向き合うことができれば幸いである、と言っておこう。
Written by 岡留安則
Photo by StephaniePetraPhoto
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