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自民党「ヘイトスピーチ規制法案」の恐い実態

TABLO / 2014年11月21日 21時0分

自民党「ヘイトスピーチ規制法案」の恐い実態

 前回の記事で、安倍内閣の5人の女性閣僚のひとりとして総務大臣の地位にある高市早苗の発言を取り上げた。

【記事】今国会中に法案提出される「ヘイトスピーチ規制法」の危険性

 この高市は、平沢勝栄が座長を務める自民党の『ヘイトスピーチ対策等に関する検討プロジェクトチーム』の会合で、「ヘイトスピーチ規制を国会周辺デモなどにも適用できるようにしよう」と迷言を吐いたが、またも同様の大問題が持ち上がってしまった。

 今月4日に『ヘイトスピーチ対策等に関する検討プロジェクトチーム』が、韓国での反日ヘイトスピーチの実態を調査するよう関係省庁に求めたというのである。座長の平沢は記者団に対し「韓国が自分を棚に上げて日本にだけ文句を言うのはおかしい」などと語ったそうだが、これが自民党が考える「ヘイトスピーチ対策」である。

 上の前回の記事で、ヘイトスピーチの法規制に対する不安点を述べたが、それがまさに現実のものとなってしまいそうだ。もう断言しても良いと思うが、現政府のネットウヨクの親玉のような思考が変わらぬ限り、日本ではまともな形のヘイトスピーチ規制法など成立しない。

 どうしてこう言えるのか細かく説明していこう。

 まず覚えておいて欲しいのが、自民党がヘイトスピーチに対して具体的に動いたのは、実は今回が初めてと言っていい。これまでも会合の類や意見交換などはあったが、具体的に 「○×をこうするためにこう動け」と指示を出した前例がないのだ。 そもそも国内のヘイトスピーチの現状を深く調査する事すらしていない。

 という事は、自民党がヘイトスピーチの法規制と言われて、いの一番にやった事が「だって韓国だって日本に対してヘイスピしてるじゃ~ん! 今からその証拠集めるかんな~!」だったのである。

 これがどれだけ悪質、というか幼稚なすり替えかと言うと、日本の差別やヘイトクライム問題に対する対処の甘さを指摘していたのは韓国だけではない。日本の差別対策を外交カードとして使って来ていたのは、どちらかというと欧米諸国であろう。言い換えると、国際社会の総意であるという建て前で、国際会議の席で日本の対策の不備が指摘されて来たのだ。

 日本人としては、日本の孤立と大東亜戦争への道筋となった『人種的差別撤廃提案の否決』を決定付けたアメリカやイギリスに言わる筋合いはないと言いたいところだが、今現在の問題に対して昔話を持ち出しても意味はないので致し方ない。

 いま何より問題視せねばならないのは、今回のヘイトスピーチ問題は韓国に言われたからやっている訳ではないのに、何故か「韓国だってやっているんだから」を理由にし、おそらくまともな対策を取るつもりがないという腹づもりが露呈した点にある。

 自民党が韓国をやり玉に挙げた事でハッキリした点を挙げ、それぞれ推察してみよう。

[韓国をめくらましに使う]

 まずなぜ韓国なのかが理解できない。何かにつけて「韓国が~朝鮮が~」と騒ぎ立てるのはネットウヨクや一部のネットウヨク系団体(自称・行動保守団体)くらいのもので、日本が対抗せねばならない国々は他にいくらでもある。

 日本の領海内で絶賛サンゴ泥棒中の中国であるとか、ロシアであるとか、アメリカであるとか、どちらかといえばこれら大国の方が韓国などよりよほど恐ろしい。 悪い言い方をすると、韓国など日本にとってどうでもいい相手である。

 それら危険な大国を差し置いて、何かにつけて韓国をやり玉に挙げるという手法は、ネットウヨク特有の「世界には日本と朝鮮半島しかない」という狭すぎる世界観そのものだ。 さすがに自民党がそう考えているとは思えないので、これは単なるガス抜き目的であろう。他の案件をほったらかしにして、とりあえず韓国を叩いておけばバカな国民の目が逸れるだろうという計算だ。

[ヘイトスピーチ規制をしなくていい理由を真っ先に探す]

 韓国での反日ヘイトスピーチは、いまさら調べなくてもいくらでも出て来るだろう。となれば、それを受けて自民党はどういう判断を下すのであろうか?

 まず考えられるのは、韓国に対する外交カードとして使うパターンだ。これならばまだ韓国の対応次第で日本人にとって悪くない方向に進むかもしれないが、最もダメな選択肢は「韓国をダシに使って何もしない」や、もしくは「都合よくこねくり回し、そもそものヘイトスピーチ問題とは掛け離れた規制案にしてしまう」などである。

 児ポ法をはじめ、表現規制問題や風営法問題といった直近の規制問題を元に考えてみると、どうも自民党がやろうとしているのは、ヘイトスピーチ問題を都合よくこねくり回す方向ではなかろうか?

[国際社会に対する効果的なアピールなど考えてもいない]

 自民党が望む形でヘイトスピーチ対策が講じられたと仮定して、ではそれを国際社会が見た時になんと言って来るだろうか?

 おそらく今のままでは、弱者を守るどころか、より弱者を追い詰めるor封じ込む方向にしか進まないと予測されるが、そんな日本の「ヘイトスピーチ対策(笑)」を、国際社会が評価してくれるとは思えない。

 そうなれば、日本は相変わらず欧米諸国に便利な外交カードを握られたままで、なおかつ孤立を深める結果になり兼ねないのである。ヘイトスピーチの法規制とは、ある意味で「敵の武器を減らす」という目的もあるのだが、どうもそこまで賢い立ち回りは期待できそうにない。

◇ 結論 「現段階でのヘイトスピーチの法規制は諦めるべきである」

 この結論を読むと納得いかないという方もおられるだろうが、少し冷静に聞いていただきたい。与党がこんな調子なのに、下手に法規制を急いだらどのような結果になるか予想して欲しいのだ。

 日本の政治、主に国会でのやり取りは、常に陣取りゲームである。多数派に身を置かないと意見も通らないというのが基本だ。そして今回のように意見が割れる場合は、お互いちょっとずつ我慢して落とし所を見付けましょうという形になる。

 例えば児ポの場合など

・単純所持への罰則規定は認める

・その代わりマンガやアニメなどの、直接の被害者が不在の二次元コンテンツは含めない

 という内容で落ち着いてしまった。

 本来ならば単純所持うんぬん以前に、そもそもの児童ポルノの定義自体がおかしかったのだが、その部分にこだわると話が進まなくなってしまい、最悪の場合与党に強行される可能性すらあったため、上記のような中途半端な形で妥協するよりなかった。あれだけ大騒ぎして、戦って戦って戦い抜いた結果が、現在の児ポ法改正版なのである。

 これを踏まえた上で、ヘイトスピーチ規制法案が提出された場合に、最終的にどのような形になるか想像してみていただきたいのだ。

 これは私個人の意見でしかないが、自民党がここまでネトウヨ団体的な思考を前面に出してくるならば、今回は法規制を諦め、違う形でヘイトスピーチ対策を講じるべきである。下手に規制法を作ってしまうと、マジメにヘイトクライム対策を進めたい人々にとって悔やんでも悔やみ切れない結果になるだろう。

 現在はヘイトスピーチの法規制に向けた動きを自民党が主導している訳ではなく、野党が突き付けている図式なので、ここは一時撤退が賢い選択だと思われる。少なくとも自民党のヘイトスピーチに対する考え方はこれで解ったのだから、それだけでも成果はあったと考えるべきだろう。

 現状よりも先に話を進めたいのならば、まずは末端の国民に対して「ヘイトスピーチの何が問題なのか?」を周知させる事を優先すべきだ。 それをやった上でならば、今回のような自民党の暴走が明らかになった際により大きな批判の声が集められる。

 ところが、今はまだヘイトスピーチ・ヘイトクライムに対して興味のない国民が多すぎるため、児ポ法と同様の「何が目的なのかよく解らない法案」をゴリ押しされても対抗する方法がないのだ。

 ヘイトスピーチ規制法は、言葉や言動自体を違法化するという危険をはらんだ内容なので、国民の後押しがない状態で与党を相手に立ち回るのは無謀である。何かひとつでも自民党案を含める事になれば、そのひとつが致命的な欠陥となって国民を縛り付ける結果にもなろう。この件については焦りは厳禁である。

※この原稿は解散表明より前に書かれたものです

Written by 荒井禎雄

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