【CIA内部文書】暴露された「スパイが入国審査を突破するテクニック」2
TABLO / 2015年1月19日 18時15分
入国審査が厳しい国はどこか。筆者の経験では英語圏はどの国も厳しい。米国、カナダ、英国、オーストラリア、香港を複数回、訪れたが、そのたびに矢継ぎ早に質問を受けた。ニュージーランドと北キプロス・トルコ共和国でも根掘り葉掘り聞かれた。
カナダでは2次審査を課せられたことがある。筆者は以前、カナダに5年ほど住んだことがあり、その後、観光や出張のため何度か再訪した。観光で訪れた際、聞かれるままに過去の渡航歴を説明したら、「別室で詳しく話してください」と2次審査を課せられたのだ。
英語圏以外では、質問を全く受けなかったケースが大半だが、イランでは一般旅行者の列から別室に呼び出され、2次審査を課せられた。「政府観光局員」を名乗る男性が、米国渡航歴や米国文化に対する意見を長々と尋ねるという異様なものだった。口調は穏やかだったが、自身の軍勤務歴を明かすなど脅しめいた印象を受けた。情報機関員だったのだろう。
質問を受ける場合、「入国目的」と「現地滞在先」は必ず聞かれる。入国申告書に親族や知人宅に泊まることを明かした時は、細かく聞かれると思った方がいい。米国在住の妹の結婚式に出席した際は、「なぜ妹は米国に住んでいるのか」「妹の職業は」「結婚式の日程、会場は」と詳しく聞かれた。
入国目的を出張と明かした場合は、「具体的に何をするのか」「あなたの職業、勤務先の業種は」「相手先の業種は」「アポは取ってあるのか」など細かく質問されることが多い。
バックパッカー然とした外見で入国拒否の例も
私は経験ないが、所持金や復路航空券を見せるよう要求されるケースもあると聞く。
手荷物検査は日本ほど厳しい国はあまり多くないようだ。オーストラリアでは、現地に住む友人のため日本食を持参したことを明かすと、一つ一つ取り出して含有成分を説明させられた。中国と韓国、ベトナムは入国時に手荷物のX線検査があった(韓国は仁川空港開港前)。
どんな検査に遭うかは、YouTubeにアップロードされている「Border Security」というドキュメンタリー番組が参考になる。入国審査や税関検査を撮影した実際の映像を編集した番組で、米国、カナダ、英国、オーストラリアの各国別に放送されている。
カナダ版には、武術の講師として同国で働いた経験のある日本人男性が、「観光目的」と申告して入国審査を受けるエピソードがあった。1次審査でのやりとりから疑問を持った係員は、男性に2次審査を課す。手荷物検査をしたところ、カバンから胴着が出てきた。「旅行中に趣味の武術をするため」と男性は説明するが、係官は納得しない。男性にスマートフォンを提出させてメール履歴を調べると、渡航前にカナダの道場と交わしたメールが見つかった。道場のメールには「講師を頼みたい。謝礼は支払う」。これが決定的な証拠となり、男性は入国を拒否された。
カナダやオーストラリア版には、肉製品やハーブなどの食品を持ち込もうとして罰金を課せられる人が多く映る。入国申告書に肉類などを所持しているか問う欄があり、「ノー」を選んだのに手荷物から見つかった場合、虚偽申告として10万円近い罰金を課せられるケースがあるようだ。
入国を拒否されたらどうなるか。筆者の知人は観光旅行で米国に向かったが、ロサンゼルス空港で入国を拒否されたことがある。知人は国立病院に勤める看護師の女性。イエローストーン国立公園を訪ねるなどの旅行目的にウソはなかったが、係官には〝怪しい〟とみられたようだ。その理由は不明だが、筆者が推測するには、バックパッカー経験がアダになった可能性が高いと思う。「日本人の若い女性看護師がバックパックを背負い、一人でバスを乗り継ぐ旅をするのは普通ではない」と係員が考えたと思う。女性のパスポートには中東を含め途上国の出入国印が多かった。9.11事件後のピリピリした米国で入国拒否されやすい類型に当てはまったのだろう。
米国の入国申告書「I-94W」には、「あなたは今まで米国のビザ発給もしくは入国を拒否され、または米国のビザを取り消されたことはありますか」という質問事項があり、「イエス」か「ノー」を選ばせるようになっている。その直後には、「重要:もし上のいずれかの項目にイエスを選んだ場合は米国入国を拒否される場合があるため、米国に渡航する前に米国大使館に連絡してください」と書いてある。
普通、申告書に記入するのは飛行機の中だ。米国大使館に連絡するにはもう遅い。前述の女性が再び米国旅行をするには予め米国大使館に連絡する必要があるわけだ。それを怠って申告書に「ノー」を選べば、まず間違いなく入国を拒否される。移民局のデータベースに彼女の氏名や生年月日、パスポート番号の登録があるからだ。つまり、一度入国を拒否されると、その後の入国も難しくなる。
ビジネスや商談を隠すと面倒なことにも...
さて、対策をまとめておこう。
まず、できるだけウソはつかないことだ。ウソがバレると罰金や入国拒否の可能性が高くなる。ビジネスマンが商談や打ち合わせ、見本市に出席するため出張する場合、必ず業務ビザが必要とは限らない。予め渡航先の大使館か外務省サイトで確認しておこう。
筆者の例を挙げる。今年8月、あるミュージシャンを取材するため英国を訪れることになった。英外務省のサイトを調べたところ、「海外企業に雇用され、または支払いを受けるジャーナリスト、特派員、プロデューサーもしくはカメラマンが海外ニュースメディアを代表して、海外で発表するために取材する」場合は、「ビジネスビジター」に該当することが分かった。滞在期間6カ月未満で日本国籍の人は「ビザは要りません」と明記されていた。入国にあたり、正直に「ミュージシャンを取材するため」と伝えると、「取材にどのぐらいの時間がかかるのか」「取材は何件か」と聞かれただけだった。
もし渡航先が米国だったら、おそらくビザが必要だっただろう。米国務省のサイトには「外国メディアの代表者が、米国においてメディアの職業またはジャーナリストとして働く場合は、ビザ免除プログラムで渡航することはできません」と書いてある。メディア用のビザを申請する必要があった。
筆者は現地滞在先もウソをつかないことにしている。知人宅に泊まるなら正直にそう申告する。安宿に泊まるつもりで予約していないなら、ガイドブックで目星をつけた安宿の名前を記す。もし予約があるか聞かれたら、正直にないことを伝える。
どうしてもウソをつかないといけないケースはあるか。おそらくある。そんな場合は服装や手荷物はもちろん、スマホやパソコンの内容を調べられてもウソが露見しないよう徹底的な〝カバー保全〟が必要だと肝に銘じるべきだ。
Written by 谷道健太
Photo by Carol M. Highsmith
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