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たったひとりで東京電力を訴えた自営業男性の訴え「恐怖感じる生活に一変した」

TABLO / 2015年2月10日 19時0分

たったひとりで東京電力を訴えた自営業男性の訴え「恐怖感じる生活に一変した」

 2011年3月11日の東日本大震災に伴う、東京電力・福島第一原発事故によって、「恐怖を感じ、子どもたちの体を心配するような生活に一変」したとして、東京都内の自営業の男性(50代)が東京電力に精神的な慰謝料と、避難行動に伴う財産上の損害を求めた裁判が結審した。判決は4月27日。

 男性は渋谷区内で自営業を営んでいる。子どもは当時小学生の子ども3人。訴えによると、原発事故によって原告だけでなく、子どもたちの被曝による健康被害に関する精神的賠償と、健康被害を避けるために行動を起こした際のレンタカー代のほか、ランタンやミネラルウォーター、ガイガーカウンター、防護マスクの購入費用の賠償を求めている。

「こんな不条理なことが一企業によって課せられていいのか。自分の子どもが死ぬリスクがあるかもしれない。『大変だったね』で済まされていいのか」。そう疑問に思ったことで男性は事故後の17日後、3月28日に提訴したのだ。

 東電の社会的責任を問う訴訟でもあるが、なぜ裁判という手法だったのか。

「私は運動家ではありません。事故以前も以後もデモに参加したことないのです。首相官邸前(のデモ)にも行ったことはありません。かつて科学少年ではありましたが、原発でなぜ水素爆発が起きるのかもわからない。知識があったのかと言われると、ないです。そんな中で被曝による健康被害があるかもしれない。子どもは女の子もいるので、将来の妊娠、出産でのリスクもあるかもしれない。何もかもわからない。わからないものは怖い。そんな中で、政府が信用できるんですか? 命の保証をしてくれるんですか? と思ったのです」

 当時小学生の子どもたちはどういう反応だったのだろうか。

「長女はマスクを素直にしていましたよ。でも、三女はまったく危機感がなかった。ピンときていない感じです。何が何だかわからない状況の中で、何日でもいいから線量が低いところへ避難しないと思いました。子どもとの調整も大変で、長女は学校が好きで休みたくない。一方、自営業のために、『あそこは逃げたところだ』とレッテルを貼られたくもない。ただ、とりあえず逃げたかったんです。今気になるのは、(放射性プルームが東京を襲った)15日に子どもたちが何ベクレル被曝したのかがわからないことです。通学中に被曝していた可能性もあります」

 原発事故からはすでに4年経った今はどうしているのか。

「野菜などからはもう数値が出ないでしょうね。ただ、被曝した危険のある産地のものは注意しています。最近はキノコを買うようにはなりましたが、天然物は買わないようにしています。また、魚は産地によって買わないようにしています。もちろん、個体差があることはわかります。個別に努力している方がいるにはわかりますが、県別に判断せざるを得ない。お米は特定の人が作っているものにしています。そんな中でも、長女は尿検査でセシウムの数値が微妙にあがっているのですが、もう高校生。外食が増えて、もう行動を統制できない」

●最初の答弁書で東電は原告の人格を攻撃した

 福島第一原発から東京は300キロ弱。旧警戒区域となった20キロ圏内には保証があったり、周辺の観光業にも保障が支払われている。また、線量が高い地域である宮城県南部や栃木県北部では裁判外紛争解決手続(ADR)がすすんでいる。しかし、首都圏の住民に対しては何もない。

「福島や宮城、栃木での問題はそれはそれで大事です。私たちの裁判よりも(被害が大きいという意味で)大事かもしれない。ただ、そっちはそっちで考えるべき。娘の知り合いにも東京を出て行った人はいる。働くことを意識しなければ、東京から逃げていた人はいます。私も移住を検討しましたが、自営業なので、移住したところですぐに仕事になるかどうかはわからない。被曝リスクと移住リスクを天秤にかけるしかなかったんです」

 事故から17日後の提訴。そのため、東電側もこうした訴訟が起きる可能性があるとわかっていたとしても、対策を取ろうとする段階ではなかったかもしれない。しかし、最初の答弁書では原告の人格を攻撃するものが書かれていた。東電からすれば「変わり者の個人が起こした訴訟」にしたかったのかもしれない。

「東電にしてみれば、個人の問題にしないといけないのでしょう。そうしないと、仮に私に1万円でも支払うとなったら、都民だけで1000万、首都圏となると、3000万人にもなったりする。そうなれば、事故があった場合の補償を加味して考えたとき、原発の設置コストをいくら見積もるのかが問題となる。これではもう原発は作れない」

 一方、東京都民からすれば、東電に対しては被害者かもしれないが、もっとも被害があったのは福島県だろう。

「選んだ政治家が違法なことをせずに原発を作りましたが、ちゃんと物事を考え、対策もきちんととらない政府を我々が選んでいる。原発は何かあったらリスクがあると薄々分かっていたのに何もしてこなかった。『福島に原発を追いやったから我々都民が悪い』という論もあるがしっくりこない。ただ、そういう国を作った責任からは逃れられない。そうした責任が自分にはあると思ったので、できることかは何かを考えて、裁判をやってみようと思ったんです」

 原発事故からもうすぐ4年経つが......。

「4年経って忘れられているムードもありますが、それはある意味、日本人のいいところだと思う。2000年も前のことを恨み続けていたら、こんな国にならなかった。ただ、最近、(過去に目を閉ざすものは、未来にも盲目にする」と演説した)ヴァイツゼッカー元ドイツ大統領が亡くなりました。日本も総理がそうした発言をする国にならないかなと思っています。自分の責任を自覚しない限り、また同じことを繰り返すのではないでしょうか」

Written Photo by 渋井哲也

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