TPP交渉「知的財産・著作権」の非親告罪化はクールジャパン衰退を招く
TABLO / 2015年2月18日 19時5分
密室政治の代名詞と呼ぶべきTPP交渉の進捗が漏れ伝わってきている。以前から識者が口々に危険視してきた「知的財産・著作権問題」について非親告罪とする方向で調整が行われているというのだ。
日本では著作権侵害などは親告罪とされ、被害にあった権利者が訴え出ない限りは刑事責任を問うことができない。 以前からこの点について「問題アリ」と度々声が挙がっており、TPP交渉以前に実は国内だけでも非親告罪化を必要とする声は(主に検察などから)あるにはあった。しかしこれまでは弁護士など識者らの「日本では他の法と組み合わせれば現状の著作権法で充分」「別件逮捕など公権力による暴力として乱用される危険がある」といった論調によって封じ込めに成功していた格好だ。
●非親告罪化の流れは先人達の議論の積み重ねを「無」にしてしまう
ところが、今回のTPP交渉での非親告罪化の流れは、こうした先人達の議論の積み重ねを全てパーにしてしまう。アメリカの基準で非親告罪化するとしても、アメリカにだって他の法によって乱用を避け、罪に問うべきではない人間を犯罪者に仕立て上げられないようにする仕組みが設けられている。ところが日本では長く親告罪とされていた分野であるから、そうした万が一の時の命綱に不備がある状態で非親告罪化されてしまう可能性があるのだ。
これで警察・検察に信用があればまだマシだが、日本の警察や検察の横暴さは今に始まった事ではない。なんせ某片山ゆうちゃんひとり満足に追求できず、捜査ミスやグレー過ぎる手法を連発して無実の人々を逮捕し続け、その七転八倒ぶりから単なるはた迷惑なイタズラっ子を "世紀の大悪党ゆうちゃん" に育て上げた連中だ。現状でも表現規制・児ポ法・風営法など様々な分野で暴力性をいかんなく発揮して下さっている。そんなところに著作権侵害の非親告罪化が加われば、どうなってしまうか想像に容易い。
かなり個人的な感情が入り混じってしまったので少々話を変えるが、次に現状の日本の著作権法などに本当に不備があるのかどうか確認してみよう。検察などが非親告罪化を求める際に必ず言われるのが「違法コピー品(海賊版)を取り締まるのに親告罪では不都合だ」なのだが、これまで日本国内において "親告罪であるが為に海賊版を取り締まれなかった実例" は私が知る限りはない。細か過ぎる話までは知らないが、少なくともある程度大きな問題とされた例では聞いた事がない。著作権法は特に問題のある場合はケースバイケースで対応できるよう非親告罪化されている部分(出典元の明記なき権利物の引用や技術的プロテクトを乗り越えるようなシステム・装置など)があり、また現行犯での逮捕も実例があるので、特に障害があるようには思えないのだ。ちなみに著作権からは離れるが、特許・実用新案・商標・意匠などは非親告罪なので、他人の権利物をパクるようなビジネスはどこかに引っ掛かるようにもなっている。これに加えて、様々なリスクを負ってまで著作権侵害を非親告罪にする必要性があるのだろうか。
では仮に非親告罪化されてしまったとして、どのようなデメリットが考えられるだろうか。まず頭に浮かぶのは同人業界の壊滅であろう。非親告罪ならば 「権利者が黙認していても摘発を受ける」のだから、これまでのようなわざわざ許諾はしないが黙認するという姿勢は通用しなくなる。また権利者が「いいよ」と言っていても訴追される可能性すらあり、実際に海外では「権利者が訴えを取り下げているのに検察の判断で起訴に及んだ例」がある。また著作権はマンガやアニメだけではなく、音楽・映画・写真・プログラムなどにも及ぶため、これらのパロディやオマージュといった手法も危険視されるようになり、しばらくの間はそうした業界の萎縮が続くだろう。表現の分野の萎縮とは、すなわち "表現文化の劣化" にほかならない。自由な発想と法律など社会のルールとのせめぎ合いの中で様々なコンテンツが生み出されて行くのだから、発想を縛り付けるルールはなるべく緩くすべきだという大前提が壊される。それで世界に通じる優秀なコンテンツ、いわゆるクールジャパンとやらが生み出せるのだろうか。
これは余計な一言になるかもしれないが、非親告罪とされた場合に最も危ないのは警察の暴走ではなく、Twitterなどであちこちに火を付けて遊んだり、野次馬として大騒ぎしたり、また同業者に嫉妬して足を引っ張ったりと、ネガティブな行為に生きがいを感じてしまっているタイプの "病人" の存在である。身内同士の刺し合いや、無責任なネット民の暴走により、罪を背負う必要のない人間の人生が台無しになる可能性を考慮しておくべきではないか。今の日本は明るい展望がなさ過ぎるためか病んだ人間が増えすぎており、「理想的な形で運用されれば~」といった願望はまず叶わない。警察が何かするまでもなく、本来一致団結せねばならないはずの "村人たち" が悪さを思い付くだけで、阿鼻叫喚の地獄絵図と化し、守らねばならないはずの村が焼け野原になってしまうだろう。
最後に、こうした流れに対応する為に赤松健氏などが「権利者が二次使用を認めると宣言した事を示す "同人マーク"」を広めようとしているが、同人マークが貼られている作品を同人利用した場合でも、非親告罪化されれば警察は当たり前のように摘発する。それが非親告罪なのだ。
上でも挙げた表現規制・児ポ法などの問題と併せて考えるに、政府が得意気にアピールしていた "クールジャパン戦略" とは、いったいなんだったのだろう。"クールジャパン殲滅計画" の間違いだったのではあるまいか。
Written by 荒井禎雄
Photo by Linriel
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