凄惨マッチの世IV虎が電撃引退、繰り返されるプロレス団体の「トカゲの尻尾切り」
TABLO / 2015年6月1日 20時0分
女子プロレスの試合中に必要以上に相手の顔面を攻撃し、見るも無残な姿にさせてしまった事で、図らずも名を売ってしまった女子レスラー・世IV虎が引退を発表した。世IV虎は今年2月に行われた後楽園ホール大会で、対戦相手の安川悪斗の顔面を攻撃して重症を負わせ、普段はプロレスを扱わないメディアにも「女子プロレスで凄惨な試合が!」と大きく報じられた。世IV虎はこの一件の責任を取る形で無期限出場停止の処分を受けていたが、所属する団体スターダムの代表と話し合った結果「引退か退団か」の二択となり、引退を選んだようだ。
世IV虎vs安川の試合は、直後から様々な憶測が飛び交っていたのだが、結局なにが原因でああなってしまったのかハッキリしない。あれだけ大きく報じられた一件なのだから、何か具体的な発表があっても良いものなのに、スターダムは団体代表含む何名かを3ヶ月間減給し、世IV虎を無期限出場停止にするとだけ発表し、事故の真相について何ら語ることなくお終いにしてしまった。
唯一それらしい情報と言えば、スターダムが記者会見の席で臭わせた「世IV虎と安川はそもそも折り合いが悪かった」といった内容の、人間関係に起因していたのではないかと推測できる小さなパーツのみ。だが、それでもその後に世IV虎と安川が共にリングに戻れるよう取り計らうつもりであるなら仕方なかろうという思いもあった。団体が彼女達のその後を考え、より良い道を示すためには、あの時点では口を閉ざすしかないという事もあっただろう。しかし、結論は予想できる最悪の形とも言える「世IV虎をしっぽ切りしておしまい」だったのだ。
今回の世IV虎引退の報を聞いて思い出すのは、以前も東京BNの記事に書いた記憶があるが、私がAVメーカーの外部プロデューサーとして関わった「東城えみAVデビュー騒動」である。
東城えみは、元々はVシネマなどに出演していた女優だったが、今は亡きJDという団体に入門し、レスラーとしての活動を始めた。しかし頸椎骨折の重傷を負って長期欠場し、復帰したかと思ったらJDを退団して新間事務所(猪木のパートナー・仕掛け人として有名な新間寿氏の会社)に移籍。だがそこも約1年で離脱し、AVメーカーへの売り込みを開始する。本人はAVデビューを覚悟した理由について、怪我をして以降JDにも新間事務所にも約束したような待遇をして貰えず、何度も裏切られ、身体を治す金すら無くなってしまったからだと証言している。私も同席したAVメーカーでの打ち合わせでは、彼女は「そもそもVシネマなどで濡れ場の経験はあるので、脱ぐ仕事に抵抗はない。それよりも身体を治して最低限の生活ができるだけのお金を稼ぎたい」と言っていた。
AVデビューした事で、レスラー仲間、プロレス専門誌、プロレスファンなど、言ってみればプロレス業界全体から散々に叩かれた、いや集団リンチを喰らったと言ってもいい東城だが、誰が悪いか犯人探しをするなら、都合の良い時だけ彼女を食い物にし、怪我をしてポンコツになった途端に治療費の面倒もみずにお払い箱にした、プロレス団体及び業界人達であろう。彼女が苦しんでいた時に、救いの手を差し伸べてやれなかった全てのプロレス業界関係者のせいで、東城は裸を売り物にするくらいしか人生の選択肢が無くなったのだ。あの時に東城と共に悪者にされたAVメーカーなど、正規の手順で契約書を交わし、当時のどん底のプロレス業界では到底捻出できないような予算を組んでプロジェクトを遂行したのだから、プロレス関係者達は爪の垢を煎じて飲んでおくべきだったろう。
ついでに、表では右へ倣えで東城やAVメーカーを悪しざまに言っておいて、裏ではAVマネーに目が眩んで「自分も金が欲しい」と売り込みをかけて来たプロレス関係者が何人もいた事も書いておく。そんな輩と比べたら、誰も味方がいない状況で自分の身ひとつで何とかしようと腹をくくった東城の方が、よっぽど尊敬できるし、何より "清潔" である。
さて、東城のAV騒動の際には、プロレス団体・業界・ファンは、東城とAVメーカーに罪を負わせて被害者面をしてお終いにしてしまった。本来ならば、彼女のように追い詰められる人間を減らすために、選手の身体のケアは団体が責任を持とうとか、選手の安全を守るためにも何か協会のようなシステムが必要ではないかとか、何かしら騒動をキッカケとした前向きな議論があっても良かったはずである。しかし、当時はそうした動きはついぞ見られなかった。
ただ「神聖なリングが、プロレスが、汚された!」とプロレス専門誌まで一丸となって被害者アピールをしただけである。業界関係者や、某専門誌の記者など、裏では専門家ぶって「お助けしますよ」と打診をして来て、AVメーカーの金で飲み食いしてみたり、適当な名目で金を受け取った人間までいたにもかかわらず、誌面ではクソ叩きにして下さったのである。
あの当時を思い出しながら今回の "凄惨マッチ" の一件を考えてみると、団体の無責任さといい、庇って貰えなかった世IV虎の無念といい、私の目には「あの頃と何ひとつ変わっていない」ようにしか映らない。
世IV虎vs安川戦は、感情的になって一線超えた世IV虎に批判があるのは仕方ないにせよ、何よりも試合や選手を管理する団体の落ち度が最も大きい。プロレスの試合は選手が勝手に組むものではなく、団体が会場と契約し、マッチメイカーが団体や各選手の思惑を込めて試合カードを組み、興行として成立するものである。ならば、最も責任が重く、何かあった場合に最も重い罪を負うのは団体でなければ話がおかしい。
それをウヤムヤのまま世IV虎を引退させるとは無責任にも程がある。世IV虎が引退せねばならないほど悪いというならば、団体の代表者などはそれ以上に悪いとされなければならない。それが "管理者責任" というものではないのか。それに、ヤラかした世IV虎の更生(?)など、プロレスならばいかようにも料理できる美味しい素材だろう。なぜそれすらせず、安易にトカゲのしっぽ切りをしてしまうのか。スターダムには、せめて世IV虎の汚名を団体として共に背負うくらいの器量を見せて欲しかった。むしろその方が団体への信用も増し、災いを転じて福に出来たはずだ。
ここでふと頭に浮かぶのがももクロの存在である。スターダムは最近になってももクロのイベントに出演し、交流が生まれ、あわよくばというチャンスを掴んだ状態にある。憶測で具体的な事を書くのは避けるが、私はこの状況にとてつもない"薄汚さ"を感じている。そもそも世IV虎と安川のタイトルマッチも、安川悪斗をフィーチャーした映画『がむしゃら』の上映が迫る中で組まれたもので、どう考えても話題作りとしか思えない背景があった。
映画とコラボして集客するために、世IV虎と安川の力量差も考えず無理やりに組んだような試合だったのである。そして今度は棚ぼた的にももクロというトップアイドルとのコラボが実現したのだが、果たしてスターダムはいま裏で何を考えているのだろう。
最後に、もはや望みは薄いと言わざるを得ないが、今回の世IV虎の引退発表がフェイクであり、何ヶ月か後のビッグカムバックへの布石であると信じたい。 どんな負でも正に変えてみせるのが"プロレスの凄み"だったはずである。これ以上 "プロレス業界に人生を壊される人間" を増やしてはならない。
Written by 荒井禎雄
Photo by Twitter(世IV虎 @ayuyopi)より
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