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【新宿駅痴漢冤罪事件】 警部補の証人尋問で明らかになった「曖昧な逮捕」

TABLO / 2015年8月12日 20時30分

【新宿駅痴漢冤罪事件】 警部補の証人尋問で明らかになった「曖昧な逮捕」

 2009年12月11日、東西線早稲田駅で大学職員の原田信助さん(当時25)がホームから転落死した。前日にJR新宿駅で痴漢に疑われ、新宿署内で取り調べを受け、釈放された帰りの出来事だった。遺族の母親、尚美さんは「違法な取り調べがあった」などとして、東京都を相手取って損賠賠償を求めている。7月の進行協議(非公開)で、新宿署の副署長と生活安全課長が証人尋問に呼ばれることが決まった。

 3月に行われた証人尋問では、新宿西口交番の警察官で、新宿駅構内の現場に向かったHとSの2人、交番が取り扱う事件の担当部署となる地域課のI警部補、迷惑防止条例違反事件(痴漢事件)の場合の担当部署となる新宿署生活安全課のY警部補、原田さんの死後に設置された「特命捜査本部」の責任者で新宿署刑事課のM警部補の5人が証言台に立った。

 7月の進行協議で副署長が証人として認められたのは、原田さんの死後に、母親の尚美さんに対する説明と、その後の捜査が食い違うためだ。尚美さんの説明によると、新宿署に副署長を訪ねたときに、「(原田さんが)やったのか、やっていないのか、痴漢と特定できないと認定した」と話している。つまり、尚美さんには、亡くなった原田さんが痴漢と特定できず、捜査は終えたかのようなニュアンスだった。

 原田さんの死後、尚美さんは副署長を訪ね、原田さんが痴漢をしたか、しないのかが特定できなかった、と説明していた。しかし、2010年1月には、原田さんを痴漢容疑で書類送検。被疑者死亡で不起訴となった。

 証人尋問で、特命捜査本部の実質的責任者のM警部補は、原告側代理人に「副署長が原告に説明するのを事前に相談していたのか?」と聞かれ、「(相談をしたかどうかは)記憶にない。この段階では(捜査本部としては)痴漢と断定してない。捜査をしている途中だった。なぜ、副署長がそう言ったのかはわからない」と証言した。

 副署長はこのあたりの捜査の進行状況について詳しい証言を求められる。

 また、生活安全課長は、痴漢捜査の担当部署の責任者だ。原田さんが新宿署に連行された09年12月10日から11日にかけて、新宿署ではJR新宿駅に出向き、防犯カメラの提出を求めている。しかし、担当者がいないということで、その時は見れていない、という。また、法廷に証拠提出された防犯ビデオでは、痴漢の現場はわからない。同課のY警部補は当時、署内で原田さんの対応をしていた。3月の証人尋問ではこうしたやりとりがある。

◇◇◇

原告側代理人 原田さんは「指紋が取れないのか?」と要求している。

Y警部補 記憶はある。

原告側代理人 なぜ指紋を採取しなかった?

Y警部補 この時点で被疑者じゃないから、その時はしていない。

原告側代理人 ビデオカメラの確認は?

Y警部補 しています。

原告側代理人 認識できなかった?

Y警部補 そうです。

◇◇◇

 残されたICレコーダーがあったために、原田さんが自ら「指紋採取」を口にしたことがわかったが、Y警部補は採取しないと判断した。もし、この時、採取していれば、痴漢をしているか、していないかの有力な証拠になったが、なぜ、しなかったのだろうか。

 また、原告側では、署内に原田さんがいる間に、JR新宿駅から防犯カメラのDVDを借りて、見ているのではないかと疑っている。確認したからこそ、服装が違うという理由で、「人違い」と判断し、原田さんを釈放した、とみている。3月の証人尋問のI警部補とのやりとりは以下の通り。

◇◇◇

原告側代理人 いつ確認?

I警部補 日中確認した。駅員の承諾で。

原告側代理人 いつ確認するつもり?

I警部補 即日ですね

原告側代理人 したのか?

I警部補 私はしません。原田さんが亡くなって、刑事課の捜査本部がした。

原告側代理人 いつ?

I警部補 12日。11日は非番だったので。引き継ぎはしてない。

◇◇◇

 ちなみに、原告側は新宿署長についても証人申請をしているが、被告側の東京都が激しく抵抗している。ただ、陳述書は提出している。

「今回の裁判で、原田さんの母親は、警視庁本部からの指示を受けた私が原田さんを痴漢行為の被疑者として仕立て上げるための捜査をするために、『特命捜査本部』を設置したと主張していると聞きましたが、そのような事実はありません。...(中略)...防犯カメラの解析結果をはじめ捜査によって収集された証拠に基づく事実関係から、原田さんは迷惑防止条例違反の嫌疑があると認められたため、原田さんを被疑者とする本件被疑事件を送検するに至った...」

 痴漢の疑いがあった直後に、新宿署は指紋採取をしなかった。また、防犯カメラでは、原田さんが被害者とされる女性への痴漢行為は確認できなかった。客観的な証拠のないまま、被害者の証言をもとに、原田さんの死後、反論できない中で送検されてしまっているのだ。

Written by 渋井哲也

Photo by DeveionPhotography

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