【嘱託殺人】伊勢・女子高生殺人事件で深まる謎と痕跡を追う
TABLO / 2015年10月5日 17時25分
三重県伊勢市尾上町の雑木林「虎尾山」で市内の私立高校に通う3年生波田泉有(はだ・みゆ)さん(18)=松坂市=の遺体が発見された。県警は9月29日、同じ学校の同級生の男子生徒(18)=伊勢市=を殺人容疑で逮捕した。波田さんは自殺願望があったとみられており、男子生徒は容疑を認めて「(波田さんを刺した)包丁は自宅から持ってきた」と供述していることから、県警では嘱託殺人容疑を視野にいれて、捜査している。テレビの情報番組では「思春期特有のストーリー化」と言及しているコメンテーターもいたが、思春期特有というよりは、年代に関係なく起きる事件だ。
●逮捕された男子生徒は「頼まれた」と供述
9月28日午後5時10分ごろ、男子生徒が虎尾山の記念碑付近で、女子生徒の左胸を包丁で刺し、殺害した。午後9時45分、波田さんの知人男性から「人が倒れている。心臓マッサージをしている」と119番通報があった。通報したのは、別の高校に通う波田さんの香菜相手(18)。現場には、刃渡り約20センチの包丁が落ちていた。胸には刺し傷があった。
警察の調べに対して、逮捕された生徒は「頼まれた」と供述しているという。自殺願望のある波田さんが殺害を依頼した可能性があるのだろうか。周囲には波田さんは18歳までに死にたいと漏らしていたという。包丁は自宅から持ち出したというから、以前から殺害を依頼していたのかもしれない。
波田さんの誕生日は7月2日。そのころ、行方不明になっている。そのとき、友人はインスタグラムで捜索をお願いする書き込みをしている。
<1日の夜中から行方不明になっています。警察にも捜索願を出しているみたいです。名前は波田泉有(みう)ちゃんです。そして地元は松坂の子です。2日誕生日だったらしく、1日の夜に友人にお祝いをしてもらってみんなと別れた後から行方がわからなくなったみたいです....みうちゃんは18歳までに死にたい、と言う自殺願望があったみたいです。そして2日がその18歳の誕生日でした。本当に心配しています>
「18歳までに死にたい」。こうして、期限を決めて自殺をしようとする人も珍しいわけではない。その場合、それに向かっていろいろと準備をするが、中には、自殺をする日を過ぎた別の日に約束を入れている場合も少なくない。「会う予定があったのに、自殺するはずがない」と思う人もいたりするが、遺された側の論理に過ぎない。
ところで、行方不明のときは、逮捕された生徒とは別の友人といなくなっている。学校側のそのことを把握している。その友人も、波田さんの自殺願望は把握していたのだろう。しかし、波田さんは、なんらかの理由でこの時には自殺をしなかった。一方。自殺ができなかった波田さんは「殺して」と、逮捕された少年に頼んだのだろうか。それとも心中未遂だったのか。
交際相手と思われるネットの書き込みには、複雑な友人関係になっていた、との内容があるが、真偽は不明だ。
嘱託殺人で思い出すのは、2001年1月、ネット恋愛の末に、自殺願望のあった主婦を男子高校生が殺害しようとした未遂事件だ。栃木県の私立高校3年生の男子生徒(18)は少年審判の過程で、主婦から殺害を依頼されたことを告白。「あなたが殺さなくても、プロに頼むから」と言われていたことがわかった。主婦は親の介護疲れからか、自殺願望を抱いていた。恋愛感情の末に、相手の願望を叶えるかのような行為だったのだろうか。
2007年10月、川崎市在住の女性(当時21)が殺害された。神奈川県警は、すでに麻薬特例法違反で逮捕されていた千葉県市原市の男(33)を再逮捕した。男は「デスパ」を名乗り、掲示板を開設。何でも屋をしていた。女性は自殺願望があり、「死ねる薬」を依頼していた。料金は20万円。デスパが与えた「死ねる薬」では死なないものだったため、ビニール袋をかぶって口元を縛るようにいい、デスパは首元を締めて殺害した。この女性の場合、デスパには何の感情もない。
2014年4月、島根県警松江署は、インターネットで知り合った無職の男性(当時31)を殺害したとして、名古屋市に住む女子大生(18)を嘱託殺人の疑いで逮捕した。1日深夜から2日早朝にかけて、岡田さんの祖父が所有する松江市内の空き家で、岡田さんの殺害した。少女は「殺してくれと頼まれ、首を絞めた」と供述。少女は母親に「ネットで知り合った男性に会いに行く」と言っていた。このときは、室内に練炭があったことから、恋愛感情のようなものはないが、ネット心中未遂ではないかと思われる。
14年11月、千葉県茂原市で、足の痛みを訴えていた女性(当時83)を夫の男(93)が殺害した。女性からの依頼だった。千葉地裁は「短絡的な犯行」としたが、「愛情故の犯行だったことを疑う余地はない」「60年以上連れ添った妻を自ら手にかけることを決断せざるを得なかった被告の苦痛は道場を禁じ得ない」として、懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。これは、病気を苦にした希死念慮があった妻を、愛情を持って殺害したケースだ。
一緒に死ぬという「心中」については、一見、恋愛感情か、それに似た感情を持っている者同士でするというイメージが強いが、必ずしもそうではない。
私は自殺願望を持つ人たちを取材している。友人としての距離感にかかわらず、「一緒に死にたい」相手と、「殺してほしい」相手。そして、「一緒には死にたくない」相手、といった感覚を持っている持つ人たちがいる。自殺願望があり、恋人がにいたとしても、別の人と「一緒に死にたい」相手がいたり、逆に、「この人だけは死んでほしくない」と思ったりする。むしろ、恋人だからこそ、「心配かけたくない」と、自殺願望を打ち明けないといったこともある。
119番通報をしたのは交際相手だったが、波田さんは殺害依頼の相手にしなかったということは、交際相手を巻き込みたくなかったのだろうか。それとも、依頼はされたが、交際相手が断ったのだろうか。そのあたりは今後、わかってくるかもしれない。
学校の対応もベストどころか、ベターとも言えません。行方不明だった波田さんが見つかったあと、波田さんが通っていた高校の校長が会見をしている。学校によると、波田さんは勉強熱心で成績は学級でトップ。演劇部に所属し、看護系の専門学校への進学を希望していた。ただ、担任との面談で「自分なんか生きていても価値がない」とこぼすなど、劣等感の強い面もあったという。
生きづらさを抱えた少年少女の中には、成績がよく、校内での立場が一見よい場合、例えば生徒会長をしているといった人も少なからずいる。そして、周囲とは適用できていると思われたりする。将来への希望を語ることもできたりする。「死にたい」という本心を悟られないように、「良い子」の仮面をかぶっていたりする。波田さんも、そうした過剰適応な面があったのかもしれない。
また、7月に家出した時には「自殺しようと思った」と後で打ち明けたという。校長らとの面談では「友人と家族に迷惑をかけた。もう心配かけることはしない」と反省していたという。この時点が、メンタルヘルスの観点でサポートするとか、自殺願望を軽減するようなことをできるチャンスだったが、特別なサポートがあったようには思われない。校長もそれをわかっているのか、「この一ヶ月間の見守り不足は歪めない」と悔やんだ。
Written by 渋井哲也
Photo by TerryChen - Blooming Beauty
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
殺人未遂容疑で男子中学生を逮捕 交際の少女をナイフで刺そうと
共同通信 / 2024年11月16日 10時52分
-
〈18年前の女児刺傷容疑で逮捕〉「少女が腹部から血を流してると興奮する」男は過去、70件以上余罪も「死刑が怖かった」
集英社オンライン / 2024年11月7日 17時31分
-
高校生が切り付けられ軽傷、高輪 知人の16歳少年逮捕
共同通信 / 2024年11月2日 17時41分
-
横浜・港北で子ども2人への殺人未遂 容疑で母逮捕 浴槽に沈められた5歳長女は死亡 夫が110番通報
カナロコ by 神奈川新聞 / 2024年10月31日 3時10分
-
同居していた交際相手を包丁で刺そうとし 家に火をつけた罪に問われた女に懲役7年6か月の実刑判決 秋田地裁
ABS秋田放送 / 2024年10月29日 18時7分
ランキング
-
1コロナ新しい変異株「XEC株」はどんなウイルスか 「冬の対策とワクチン接種の是非」を医師が解説
東洋経済オンライン / 2024年11月26日 9時0分
-
2【速報】東京・足立区のコンビニ駐車場で59歳男性が殴られ死亡 口から血を流し… 中年男が逃走中 傷害致死疑いも視野に捜査 警視庁
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月26日 10時2分
-
3【斎藤元彦・兵庫県知事の応援団に密着取材】「文書問題なんかマスゴミが捏造しただけ」「斎藤さんは令和の二宮金次郎」… それぞれが支持する理由
NEWSポストセブン / 2024年11月26日 6時59分
-
4アマゾン、出品者に値下げ強制か 独禁法違反疑い、公取委立ち入り
共同通信 / 2024年11月26日 12時45分
-
5高崎駅前のホテルで女性客が3人組に携帯電話奪われた強盗事件 2人目の少年(17)を逮捕
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月26日 6時57分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください