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【未解決事件の闇22】女性編集者失踪・遺体を遺棄した現場~海での結論

TABLO / 2015年11月5日 14時0分

【未解決事件の闇22】女性編集者失踪・遺体を遺棄した現場~海での結論

 釣り船業者にさらに尋ねた。

「辻出さんが何回かこのあたりに来たとき、Xもいたんですか」

「一人だったね」

「そのXなんですが、事件後、夜中に引本港を無灯火で出たという目撃情報があるんですよ」

「えっ、彼、船持ってるの?」

 驚きぶりからすると、Xがここの釣り船を借りて夜中に出たということはなさそうだと推測できた。だが一方、Nが船を所有しXに貸していたという線はまだ否定できない。

「Xとはどんな関係なんですか」

「ボンベ入れにちょくちょく来とったんです。うちは釣りだけじゃなくて潜水業務もやっとるで。だけど、どこに潜ってたのかはわからんな。事件の後も来とったけど、特に変わった様子はなかったし。もともと無口な人やでね。都会的な雰囲気があったんは覚えてる。最近は来んようになったな。このあたりは都会と違って田舎なんで、何かしたとなったらアッという間に噂が広まって知れ 渡りよる。だから噂の立たんようにしとるんかもしれん」

 店主の話しぶりを聞き、Xをかばおうとしているようには見えなかった。自らが知っていることを淡々と語ってくれるような気がした。

 店主は事件の事について思うところがたくさんあったようで、自ら語り始めた。

「事件の後、警察や雑誌の記者とかちょくちょく来て話を聞かれたね。それもあって、自分なりに事件をシミュレーションしてみたんです。うちらみたいに大きい船(5トン以上に見える)を持ってたらまだしも、小船では港の外には禁止されとって出れません。波がきついからね。引本港のあたりだと定置網や筏はあるし、船の出入りもたくさんある。

 だから遺体か遺留品かはすぐに見つかりますよ。ダイビングにしても難しい。ボンベやレギュレーター、ウェットスーツ、ダイビング用のマスクにフィンといった機材がいるでしょ。遺体がなくても車は要ります。機材一式で身を包んだだけでも重装備です。遺体を抱きかかえて遺棄するにしても、抱いたまま海に入るだけでも重くて大変ですよ。そんなん、協力者もなしに一人で犯行に及べますか?」

「警察が言うには無数の海中洞窟がこの近辺にあって、そこに遺体を隠したらもう二度と浮き上がってこないとのことでした。そういったところに死体を遺棄することは可能ですか」

「今までに40年50年と潜る仕事をして来とるわけです。だから引本湾のことはたいがい知っとるけど、そないな洞窟はないな。尾鷲の方にはあるかもしれんけど。仕事で海難事故に遭い、海底に沈んだ遺体をあげるという仕事もようけあるんで知ってますが、人の体って重いですよ」

「岸壁の下に海中洞窟があるという噂があるんです。情報提供者によると、岸壁の下に洞窟があり、そこに辻出さんの遺体を入れ、ときどき気になって会いに行ってたそうです」

「仕事で引本湾の工事もやるんでわかりますけど、岸壁に穴が空いてたら強度に問題がある。そうであれば穴を放置するはずがない」

 穴があれば、おそらくこの会社が請け負って穴を塞ぐはずだ。実際、港周辺の漁師も「岸壁に穴はない」と口を揃えていたことからも、それで間違いない。

 では、肉体をバラバラにしたり、ミンチ状にした可能性はどうなのだろうか。

「魚肉を粉々にする機械が船によくついてますが、その機械を人の遺体に使うのは無理です。だって、あれはあくまでも魚用。人の体は大きすぎて、とてもじゃないけど砕けない。もしそんなことやったら、すぐに知れ渡ります」

 体を細かく砕けば機械に入るからミンチにできるかもしれない。しかしそれを実行するためには遺体を一度バラバラにする必要がある。もし誰かほかの漁師がXの代わりにバラバラにしてミンチにしたり、機械を貸したりしたら、作業の様子を仲間内の漁師などから目撃される可能性がある。成功しても、血にしろ肉片にしろ残ってしまう可能性がある。よっぽどXのことを信用している人でなければ、そんな危険な橋は渡らないはずだ。

 可能性をいろいろと考えていると、店主は駄目押しのように言った。

「だからね、どっちにしろ海に遺体を遺棄することは無理だと思います。海よりは山でしょう。山なら穴掘って埋めれば、わからなくなりますよ」

 山にしても海にしても、結局はNぐらいしかXには頼れる人はいなかったんじゃないか。2010年に警察が大々的に林道を掘り返したのは、この店主に事情を聞いたり、ミンチにできる機械の型番を調べた上でのことなのだ。掘り返したとき、作業を指揮をした警部がなぜ泣いたのか。そしてなぜNが今も執拗に警察に疑われているのか。その理由がようやくわかったような気がした。しかし、それは振り出しに戻ることを意味していた。

※つづく

Written&Photo  by 西牟田靖

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