【性犯罪の厳罰化】強姦罪が殺人並の重罪へ? 注目すべき要点とは
TABLO / 2015年12月16日 18時30分
2014年頃から議論されて来た「性犯罪の厳罰化」について、法務省の有識者会議を経て設置された法制審議会の専門部会にて、着々と法制化(改正)準備が進められている。
・強姦罪が殺人並の厳罰に
以前より強姦罪の刑罰が不当に軽いと指摘されていたが、そうした点について法務省の有識者会議(検討会)が調査・議論を始めたのが2014年。そこでまとめられた報告書を元に、今年10月に法制審議会に専門の部会が設置された。
この部会において、まず強姦罪の非親告罪化が賛成多数に、そして強姦罪の法定刑の下限が3年から5年に引き上げられる事でまとまった。その他にも、性交そのものだけではなく、肛門などを使った"性交に準じた行為"にも強姦罪が適用される事になりそうで、これによって男性被害者が想定されていない現状が改められ、男女の性差がなくなる事になる。また、これに基づいて男性が想定されていない"強姦"という名称を変更すべきではないかという提案もあったようだ。
他にも重要な点がまだまだあり、強姦罪における身分犯の規定についても議論されている。身分犯とは、犯罪の成立要件や罪の加減に「一定の身分を持つ者か否か」が考慮されるもので、もしこれが成立すると、例えば「親の身でありながら子供を犯す」などした場合に、単なる強姦罪とは別の(より重い)罪状が適用される事になる。これなどは児童ポルノ法などの盲点や不備を補う存在になるのではないかと予想される。
この部会での審議の結果は、通常であれば審議会(総会) を経て、法務大臣に伝えられる事になり、実際の法制化はその後という事になる。(具体的な今後のスケジュールはまだ明らかになっていない)
ここまでの流れをざっと振り返ってみたが、14年の検討会で意見が割れ、審議会に上げられなかった点についても簡単に触れておく。例えば未成年者が被害に遭った場合の時効の撤廃や、性交同意年齢の引き上げなどだ。児童ポルノ法が騒動となった際などにも持ち上がった「子供の頃の性被害に大人になってから気付く場合はどうする」「性交同意年齢が世界の平均から低すぎる」といった指摘については、今回の審議会では見送られる事になってしまった。
それでは、今回の部会の要点について個別に考察してみよう。
・強姦の非親告罪化
これについては、被害者が直接名乗り出なければならないというハードルが外される事で、より犯罪行為を炙り出しやすくなる事が期待されている。 メリットの方が大きく感じられるが、これには気を付けねばならないゲスな実例が。
私が直接見知ったとある悪党を例に出すが、その男は自分の気に入らない相手に女をあてがい、性行為に及ばせ、後日強姦で訴えさせるという暴挙に出た。その結果、なんと哀れな男性に有罪判決が下りてしまったのだ。世の中にはここまでゲスな輩も存在するので、間違いなく冤罪で酷い目に遭う人間も現れるだろう。 そうした場合の対処法も併せて考えていただきたいなと、社会の最底辺を見て来た人間として一言余計な事を言っておきたい。
・強姦罪の懲役刑の下限が3年から5年に
これにより、強姦罪は人を死に至らしめた場合と同等の厳罰となる。女性にとっても男性にとっても、性被害は大きなトラウマを残すのだから、罪はどれだけ重くても反対意見は出にくい。しかし、こうした結論になった過程を見てみると、そもそもの発端に感情優先な点が見受けられ、そこだけが少々気にかかるところだ。ちなみに、この引き上げに伴い、強姦致死の下限も無期または6年以上の懲役と現状よりも引き上げられる方針だ。
・身分犯
検討会の頃には「親兄弟や教師などが立場を利用して」といった言われ方をしていたのだが、今回の部会での決定を伝える報道を見てみると、親(監護者)に限った話になっているように汲み取れるのが気になる点である。 昨今の性犯罪の内容を考えると、ここに "警察官" なども是非加えていただきたいのだが、この点には特に注視しておきたい。
・男女の性差が取り払われる
男性にも強姦被害が認められる事になるという点はごもっともなのだが、これに付随する "性行為に準じた行為" にも強姦罪が適用されるという点は注意せねばならないだろう。現状ではアナルセックスを指しているとされているのだが、性の世界の幅広さを考えると "射精またはオーガズムに至る行為" という意味で準性行為を規定するとしたら、大問題に発展する可能性がある。その理由は下記に。
・「性行為に準ずる」という言葉の落とし穴
「性器または肛門を~」と具体的に示してくれるなら多少は安心できるが、「性行為に準ずる行為」といった文章になった場合は、おそらく現場(警察)に落ちた際に想定する枠を飛び越える。そうなると口を使うなどした性器への刺激も含まれる可能性があるため、わいせつ等の性を縛るその他の法律や条例における "性行為" の括りと見事にバッティングしてしまうのだ。そうした混乱を避けるのであれば、性に関する様々な法律を、平行して変えて行く必要が生じるかもしれない。
さらに言うと、この辺りの法律は風営法や売春防止法といった、ただでさえ面倒臭い法律に影響を及ぼす可能性もあり、仮にそうなった場合は風俗業界やAV業界も丸っきり無関係では済まなくなる。強姦に含む内容の幅を広げるという事は、これまでは "未遂" になっていたものが正犯扱いになるという事で、特定の職業を見逃す為の方便になっていた部分にも抵触するのだし、そう単純な話では終わらない気がしてならない。果たして対策は充分に講じられるだろうか。
・何はともあれ恐ろしいのは改正による犯罪の増加と冤罪
強姦に含まれる行為の幅が広がり、非親告罪化されるという事は、被害者が声を上げやすくなり、また卑劣なやり逃れを防ぐ効果も期待できる。ところが、世の中には一定数の悪人がいるのだから、同時に「犯罪にも使いやすくなる」という一面も併せ持っている。
先ほど紹介した嫌いな人間に女をアテがって強姦でという手法は、割と古くから使われて来たやり方なのだが、非親告罪となれば虚偽告訴などのインチキがよりバレ難くなるのではなかろうか。 もしやっていない強姦をやったと言われた場合に、どうすれば潔白が証明できるのか、今までの方法と対応を変えねばならない部分があるのか、そうした情報もぜひ欲しいところである。(全ては改正案が明文化されてからの話だが)
また、法改正されたという情報が駆け回れば、それをどう悪用しようか考える輩が増える事は確実である。 その中には暴力団が背景にいる風俗店経営者などもいるだろう。そうした人間が、あまり仲のよろしくない "他流派" の経営する風俗店を陥れようとして、相手方の嬢を引き抜くなどして「あの経営者に騙された~!嫌だったのに講習だと言って犯された~! 強姦だ~!」と使ってくるケースも考えられる。
これも実例になるが、以前私が探偵のアルバイトをした際の依頼に、新宿区役所付近のとある風俗店のケツ持ちが、「どこそこの経営者はウチに不義理して出て行き、勝手に独立しやがった。 ケジメの問題になっているから、そいつがウチから持って行った店を張り込んでくれ」 というものがあった。なぜ張り込みが必要だったかといった細かい情報は省くが、今後はそうした場合に気軽に罠を張って"強姦罪"の適用を狙う可能性も出て来る。 風俗客が減少の一途を辿るこのご時世、風俗店なんて毎日お客を呼び込んでナンボなのだから、そこで5年以上の懲役など喰らっていては社会復帰が不可能になってしまう。 ある意味で最高の嫌がらせだと言えよう。
こうした危険は風俗に限らず、AVなどにも適用できるだろう。もう二度と業界に戻って来ない覚悟があるのなら、AV村のルールなど社会には通用しないに等しいのだから、「働きたくないのにAVに出させられた! AVには挿入行為がないはずなのに挿入された! 強姦だ! ウソだと思うならメーカーのモザイク修正前の映像を見て!」などと騒がれた場合に、どんな判決が下るかとても微妙なラインだ。いくらグレーゾーンな商売とはいえ、仮に執行猶予が付いたとしても、流石に懲役5年は嫌すぎるだろう。
だが、こうした "プロの世界" 以上に怖く、そして確実に起きるであろう事案は、素人や不良などが起こす美人局の類である。 改正が近くなれば、各マスコミがこぞって「懲役5年!5年!」とまくし立てるだろうし、嫌でも男性の頭に「強姦で訴えられたら殺人並の重罪」という情報がインプットされる事になる。そんな時に美人局に引っ掛かって「はい10万円」と言われたら、果たしてアナタは拒絶して適切な対応ができるだろうか。
・危険はあれども時代に合わせた改正は必須
このように不安を煽り、重箱の隅をつついておいてなんだが、それでも性被害者が声をあげやすくなるならば、そして卑劣な性犯罪者を社会に野放しにせず済むならば、時代に合わせて法律を改正して行く事は決して間違った事ではない。問題は、その運用方法と悪用された場合の対応策である。
これで警察が「買春を認めないと強姦になっちゃうよ? 強姦だったら最低でも懲役5年だよ」といった酷すぎる使い方をしたら泣くに泣けないが、そんな極端な話にならなければ決して悪い面ばかりという訳ではない。
ただ、用心のために今の内から「もし身に覚えのない強姦罪を負わされそうになったら」について相談できる窓口などを調べておくと良いかもしれない。今はとりあえず動向を見守ろう。
Written by 荒井禎雄
Photo by Ricardo Bouyett
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