【シリアの日本人ジャーナリスト拘束】"身代金要求説"はデマだと断定できる根拠と経緯

TABLO / 2015年12月29日 14時0分

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「筆者が安田純平さんと呑んだときのカット。どうぞご無事で」

 クリスマスイブである12月24日の朝、ジャーナリストの安田純平がシリアで行方不明だと報じる記事をニュースサイトで読んだ。それによると、「シリアの武装勢力が安田さんを拘束し、期限を切って身代金を要求しているとの情報がある」とのこと。出所は「国境なき記者団」ウェブサイト。それを読み終え、僕は「え、なんで今さら」と驚いた。

 彼とは十数年来の旧知の仲。年齢の近い、同業者としていつも彼の仕事ぶりにはいつも注目していた。信濃毎日新聞の記者だった彼は2003年のイラク戦争の取材のために退社、以来フリーで活動している。仲の良い友人たちが共通していることもあって、年に一回会うかどうかという付き合いの薄さなのに、少なくとも僕は彼のことを仲間の一人として見なしていた。

●期限を切って"身代金要求"の怪しさ

 第一報を知ったのは7月のはじめのこと。共通の知り合いであるジャーナリストから、口づてで知らされた。それは「6月下旬、安田さんはトルコ南部からシリア北西部へと山を越えて越境、その後、武装勢力に拘束された。安田さんを拘束した集団はISのような凶暴な集団ではないようだ」というもの。

 越境する直前の6月20日、安田さんが最後に残したつぶやきは次の通り。これから危険地帯に向かう緊迫感が文面から伝わってくる。

『これまでの取材では場所は伏せつつ現場からブログやツイッターで現状を書いていたが、取材への妨害が本当に洒落にならないレベルになってきているので、今後は難しいかなと思っている。期間限定の会員制で取材経過までほぼリアルタイムで現場報告することも考えてたが、危険すぎてやっぱり無理そう。』

 彼の拘束を受け、ジャーナリスト仲間で集まって情報を共有した。そのときにみんなで決めたことがある。それは、彼の拘束について騒いだりアピールしたりすることは基本的にお互いやめよう、というものだ。というのも、「救え!」とかいってアピールしたら「自己責任だ」とか言われて炎上することは予想できたし、炎上したからといって解決につながるような情報が寄せられるどころか、それが障壁となる可能性すらあるからだ。

 話を今回の報道に戻そう。記事を読んで引っかかったのは「期限を切って身代金を要求している」という文面である。これが本当だとすると、なぜこのタイミングなのかということが問題になってくる。怪しいと思い、周辺情報を探ってみたら、共通の知人であるジャーナリストの常岡浩介が、独自に調べ、その結果をツイッターに逐一、すでにつぶやいてくれていたではないか。それは次の通り。

『国境なき記者団に確認しました。家族にも日本政府にも身の代金要求はないが、セキュリティーコンサルタント会社CTSSのニルス・ビルト氏に対して誘拐犯は数日後の期限を切って身の代金を要求したそうです。しかし、ビルト氏は家族や日本政府の代理人ではなく、家族と連絡すら取っていません。』

『家族や外務省の了承もなく、勝手に犯人に接触して、金銭要求を伝えてきている状況です。それでは、犯人側に荷担していることになってしまいます。ビルト氏は先月末には「安田はもう死んだ」といって、お悔やみのメールを家族に送りつけてきたりしていました。』

『現時点でぼくが得ている情報ではこの記事は真っ赤なデマ。確認します:フリージャーナリスト安田さん、シリアで「拘束」 国境なき記者団が見解 : スポーツ報知』

 ニルス・ビルト氏が勝手に犯人に接触し、国境なき記者団に伝えたことや「真っ赤なデマ」だと断定している。そうした上記のつぶやきを12月23日に、常岡がツイッターで記したところ、翌24日になって、ビルト氏から直々にメールが届いたという。

『たったいま、ニルス・ビルト氏がぼくにメールしてきた。「身代金要求が嘘であるかのように語っているようだが...」こちらからは、お前は日本政府の代理人でも安田くんの家族の代理人でもなく、お前の行動は犯人グループを誤解させている可能性が高い。安田くんの生命を危険に晒す、と伝えました。』

『その後、ニルスは3回メールしてきて、こちらに反論してきたんだけど、しまいに「お前にんなこといわれる筋合いはない!」とブチ切れてきたので、「いや、メールしてきたの、おまいじゃん」と返信して終了。ニルスが掻き回した状況をどう収拾したものか、収拾が可能なのか、こちらが泣きたいよ。』

 これらのつぶやきを読むと、ビルト氏の動きや身代金要求説の信憑性がいかに怪しいものか、ということが充分にわかる。焦って常岡にメールしてきたことからしても、身代金要求説はビルト氏のでっち上げたデマだと断定して間違いない。

 一方、報道に対しての日本政府のリアクションはというと、24日時点での菅官房長官が記者団に語ったコメントだけだ。

『邦人の安全確保は政府の重要な責務でありますので、さまざまな情報網を駆使して全力でいま対応につとめているところであります』

 そう答えるだけで、デマだということを認め火消しにつとめたりはしていない。そんなわけで、今のところは、国境なき記者団のサイトで報じられた「身代金要求説」が否定されることなく、まだ一人歩きしている状態である。こうした流れは、2008年に降ってわいた「辻出紀子さんは北朝鮮にいる」説(http://n-knuckles.com/case/doubt/news002139.html)の報道を彷彿とさせる。

 あのときは、北朝鮮の政府筋だかが彼女の名前を口にしたことから、わっと広がり、当時の官房長官がコメントするまでの騒ぎとなった。しかもそれが火消しされることはなく、特定失踪者としてリストアップまでされる事態となった。そうした状態は僕やこだわりジャーナリストさんが「デマだ」ということを紹介した現在もなお続いている。辻出さんは特定失踪者リストから除名されることなく、今も載せられたままだ。

 あと、これは余談だが、常岡浩介と辻出紀子と筆者は1998年当時、辺境系のメーリングリストでやりとりする仲であった。そのことは安田純平の事件とは関係がないが、因縁めいたものを感じたので紹介した。

 さて。話を常岡の書き込みに戻そう。今回は常岡浩介がデマだと言うことを素早く突き止めてくれて、本当によかったと思う。これを受けて日本政府がデマだと認めるべきなのだが、「全力で」というなら常岡にもコンタクトすればいいのに、そうした動きはない。というか、全力で対応していれば半年もたっていないはずではないだろうか。

 もうこの際、プライドとか沽券とかどうでもいいから日本政府は、デマだということを一刻も早く認めてほしい。そうしてくれないと、シリア側の武装勢力がへんな動きをみせ、安田さんの命が危険に冒されかねない。

※常岡の情報によると、12月初旬の時点で安田さんの生存を確認しているとのこと。(文中敬称略)

Written&Photo  by 西牟田靖

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