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"Tor無敵神話"が日本でも崩壊? アダルト宣伝サイトで大量逮捕事件を考える【後編】

TABLO / 2016年1月6日 20時0分

"Tor無敵神話"が日本でも崩壊? アダルト宣伝サイトで大量逮捕事件を考える【後編】

 前編では警察発表の内容を解説し、必要な部分にツッコミを入れる形にさせていただいたが、今回はより深く「いま警察は何をしようとしているのか」について考察したいと思う。

●警察はすでに狙いを変えている

 まず初めに、前編が警察をおちょくるかのような内容になってしまった点を深くお詫びするが、日本の警察は今許されている可能な限りの方法で "ネットを悪用する者" を逮捕しようとしている。 その努力だけはお世辞抜きで認めるべきだ。

 しかし、何をするにも法の整備が間に合っておらず、コレという決定的な方法論を見出せずにいるのも事実であろう。 だから中途半端なIT技術と旧時代的な人海戦術を組み合わせてみたり、ターゲットにしたアダルトサイト本体に手が出せないから、そこが金を生む要素になっている小さなパーツを一生懸命に潰して回っているのである。

 こう書くとさらにおちょくりに輪をかけたように感じられるかもしれないが、決してそうではない。 こうした手法を続けて行けば、最後に勝つのは絶対に警察だからだ。 腐っても公務員、国家権力なのだから、地道な作業でも手数の多さと粘り強さを活かしてひたすら成果を積み重ねて行けば、兵糧攻めにギブアップするのは悪徳業者の方である。 警察は、言ってみれば豊臣秀吉が得意としたような、大規模な兵糧攻めによる攻城戦をやろうとしているのかもしれない。

 例えば、無修正系のアダルトサイトをターゲットにするとして、そのサイト自体はあの手この手で完璧に日本の法の網をすり抜けていたとしよう。 しかし、そこに利用者を誘導するバナー広告などを潰して回れば、いくらかは入り口が減らせる。 また金欲しさに無茶をやるコンテンツ提供者(撮影者・アップロード者)を潰して回れば、そのサイトのコンテンツ数と、それが生み出す金を減らせる。 これを相手が音を上げるまで続ける事が可能というのが、警察の真の強さなのだ。 この戦法には誰も勝てる訳がない。

 実際に、FC2の場合は実質的な経営者とされる人物が逮捕されはしたものの、特に罰を受けた様子はなく、実際に摘発・逮捕され有罪判決を喰らったのは、無修正のエロ配信をしていたようなコンテンツ提供者だけだ。 だがメディアの報道内容が警察発表のままだった事もあり、一般にはFC2本体が大打撃を受けて滅亡寸前といった受け取り方をされただろう。 それによってFC2の利用を止めた人間も多かろう。 こうした萎縮効果も警察の作戦の内と考えるべきなのだ。

 これもまた私個人の勝手な解釈・判断ではあるが、警察は明らかにターゲットを変えて来ている。 これまではムキになってFC2なり大手無修正サイトなりといった大元を直接叩き潰す事を目指していたようだが、結局それは失敗だったのだ。 だからこそ、その周辺の "ガードの甘い素人" を徹底的に根絶やしにする作戦に変更したのだと思う。 こうしたターゲット変更に伴う見せしめとしてヤラれたのが、今回の無修正バナー広告を掲載していたサイトの運営者達なのだろう。

●直近で狙われる最も危険な立場の人間とは

 こうした考察をしていくと、今最も危険なのは大手無修正サイトの運営者やインフラの提供者ではなく、その末端で "仕事" をしている人間という結論に至る。 仕事とは、警察がターゲットにしているサイトやインフラを通して、何らかの手段で金を得る事を指す。

 日本の法律を隅々まで学び、警察に逮捕されない体制を整えるには、それ相応の資金力と人員が必要だ。 専門的な知識が何より必要とされるのだから、人を雇うにもそれなりの金を掛けねば集まらない。 よって、末端のコンテンツ提供者の全てがそれを備えている訳がない。

 こう考えると、警察がこの手法でゴリ押しを続ければ、無修正映像ならば 「動画素材をどこからアップしたか」 や、AVの違法アップロードならば 「どのように作られた素材なのか」 がポイントとなり、他にも無修正アダルトサイトの場合は 「被写体が誰か」 ないしは 「誰が斡旋した被写体なのか」 といった点からも、国内の法律が適用され、国内での逮捕が可能になる。

 被写体(例えばヌードモデル) の逮捕は考えづらいと思われる方がおられるかもしれないが、FC2騒動の逮捕者の中には、公然わいせつで挙げられた女性がいた。 裸商売は様々な法律で雁字搦めになっているのだから、何らかの正犯というには厳しくとも 「キミが出演しなければ、この商売は成り立たなかった」 「この事務所が女性を派遣しなければ~」 と言われれば、幇助ならば成立してしまう可能性がある。 警察がどこまで本気かにもよるが、もし理屈を選ばない、正犯にこだわらないようであれば、それ相応の人数が逮捕される事になるだろう。

 そうした実績が積み重なれば、法知識に疎い人間は怖がってコンテンツの提供、そこでの仕事を諦めるしかなくなり、結果として大元への商材の供給源を、いわば兵糧を減らして行ける。 大袈裟に言えば、いずれそうしたインフラやサイトに商品が置けなくなり、ただ開店休業中のページがあるというだけの、堀を埋められた裸城が残る格好となるのだ。

●海外サーバ系のエロ、児童ポルノ、JKリフレ&児童買春が三大ターゲット

 結局のところ、全ては警察の思惑次第という言葉に集約されてしまうのだが、ここまでの流れを見る限り、警察は取り締まりに本気だ。 別件での取材の際にも 「海外サーバのエロ、着エロ含む児童ポルノ、JKリフレ系含む未成年者の援交・売春の3つは本気でやる」 といった言質を取っている。 今やそうした違法商売には何らかの形でインターネットが使われているのだし、このままの方針で行くとすれば、おそらく海外サーバを使ったエロコンテンツを中心として、2016年は大騒動の年になるかもしれない。

●すでに "2016年問題" の兆候は現れている

 最後に、直近で起きた事案を元に "2016年問題" がいかに信ぴょう性の高い話かをご説明する。 一部で驚きの声があがった事件なのだが、海外の無修正系のサイト用に動画を撮影していたAV業者が、プロダクションや女優まで含めて逮捕されているのだ。 これまではいかなる事情があっても 「女優は被害者」 というお約束が守られており、彼女達が直接逮捕されるというケースは(よほど悪質と見られない限り)稀だった。 ところが、このケースでは撮影者(制作者)はもちろんのこと、女優を派遣したプロダクションや、出演した女優まで逮捕されている。 容疑は 「幇助」 であり、FC2のエロ配信をした素人らと同様に、「アナタが出演しなければ、この違法な動画は世に出なかったでしょう」 という理屈である。

 過去には 「内偵されているのも知らず、喫茶店で無修正AVに出演するという同意書にサインをした現場を押さえられて逮捕された女性」 という、冗談かと思うような事件もあったが、今回のケースは出演している事実だけを元にヤラれたのだから、そのさらに上を行く厳しさだ。

 ただし、刑法の趣旨として、対象を可能な限り絞るという点があるため、逮捕されても女優が有罪になる可能性は低い。 だが、安心・安全だと思って活動している女優やプロダクションを萎縮させる効果は充分だ。 この件から解るように、警察は大手無修正サイトや、FC2のようなインフラを、兵糧攻めにする方針で動いている。 そしてこのように逮捕実績が作れたのだから、今後も何件も同様の摘発を繰り返すだろう。 それが "2016年問題" なのである。

 今はあまりに潮目が悪いので、くれぐれも安易な気持ちで国内法を無視し、警察を舐めた真似をしないように。 持久戦になったら誰も国家に勝てる訳がないのだ。

Written by 荒井禎雄

Photo by Chris Halderman

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