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【五年目の3.11】それぞれの道を踏み出した福島第一原発作業員

TABLO / 2016年3月11日 13時0分

【五年目の3.11】それぞれの道を踏み出した福島第一原発作業員

 既に五年が経ってしまった。2011年、福島第一原発事故が起きてから半年後、僕はある人を介して、福島第一原発で事故に遭い、そして復旧作業に体を張っている人間たちを紹介してもらった。当時の月を思い出せないのだが、いわき駅で作業員たちと待ち合わせをしていると夕方なのに半袖のポロシャツの背中が汗ばんでいたのを思い出す。それを鑑みると八月、ないしは九月くらいだったと思う。その話をまとめたものが拙著『原発アウトロー青春白書』(ミリオン出版)。

 それから何回も作業員たちが拠点にしているいわき市及び、仙台市に通った。最初はなかなか心を開かず(今も開いていないかも知れないが)、口を閉ざしていた彼らだが一緒に酒を飲み、帰りの上野行きの常磐線の中では二日酔いになりながら取材をしていくうちに、段々と赤裸々な話をしてくれるようにになった。

 彼らは原発の街に生まれ、原発で育ち、原発で働き、原発の中で事故にあった。そして友達を津波で喪い、自分の故郷を(町の名前は伏せる)、またある人は祖父をストレスから亡くしている。

 それほどひどい事故状況を聞いていると、僕などはリスク回避の立場から「原発は止めた方がいいのでは」と思い、彼らにぶつけてみるのだがそれでも「俺らはそれで飯食っているんですよ」と意見を異にする。当事者性の大事さを思い知った。 

■当時の作業員には現在連絡が取れない人物も

 しかし、放射線を浴びる事を「食う」と表現していた彼らは「お前、今まで何ミリ(シーベルト)食った?」「俺は○○くらいじゃない?」と言った会話をしているうちに、「もしかしたら俺ら20年後生きられなくなんのかな」とふとつぶやいたりした。僕はまだ若い彼らがそんな心配をする状況に耐えられず、涙ぐんだりもした。

 東京においても、東日本大震災、特に福島第一原発事故の影響は大きかった。メディアは放射線の脅威を伝えた。あるいは「大メディアは伝えていない、自分こそが真実を伝えている」といったジャーナリストも世間では喝采を浴びた。水の買い占めが行われ、ガソリンスタンドは車で長蛇の列が出来ていた。一種のヒステリー状態だった。たった5年しか経っていない2016年現在では考えられなかった状況だ。大事故の際、冷静になる事が大切なのだとつくづく思い知らされた。

「福島第一原発事故では直接亡くなった方は一人もいない」。かつて、そう言った有識者がいたと記憶している。

 が、とんでもない。直接は亡くなってはいないかも知れないが、前述のように作業員の祖父が避難所でストレスであろう原因で亡くなったり、また復旧作業中の作業員が熱中症で亡くなっている。

 福島第一原発で事故に遭い、その後約数週間原発内で復旧作業に携わっていたいわゆる「フクシマ50」と呼ばれている人間のうちの一人に話を聞けた。許可は出ていないので、あえて曖昧に書くが彼は復旧作業に向かう途中、爆発に遭い、瓦礫が飛んできてあやうく当たりそうになった。もし直撃していたら大けがを負ったか、最悪「死」を覚悟した。つまり「直接亡くなった方」も出ていたのかもしれなかった状況なのだ。

 僕が取材した、作業員たちは皆若かった。「地震が起きた時、僕は建屋の中にいたのですが、真っ暗になり『どこかで観た映画のようだった。ああ、俺はこうして死ぬんだな』と思いました」と言った青年はまだ20代前半だった。彼も原発の街で生まれ、そのまま原発で働く事になった。その後、除染作業に加わり、それから街を出て今度は飲食店を開きたいと、全く原発とは別の仕事を始めている。

 他の作業員たちの中では、連絡が取れなくなった人間もいる。若いので親が原発内で働く事を心配して、親元に戻ったりした。しかし、未だに原発内で働く人間もいる。「夏場は地獄」と表現された防護服を着なくてもよい、状況にはなった。

 が、彼らの生まれた街はいまだに、人が住めない地域がある。僕はその街の彼の家に連れて行って貰ったのだが、ラジオをあえてつけっぱなしにして、誰かが住んでいるかのような状況を作っていた。家は崩壊し、人が住める状況ではなかった。「もう住めないですね」と呟く。五年前は「故郷なんか何とも思っていなかったけど、一時帰宅が許された時、普段見ていた神社、街。誰もいないのを見て何か涙があふれてきたんですよね」と言っていた。が、現在は別の街への居住を考えているらしいと昨年あたり言っていた記憶がある。

 原発がある限り、そこで働き、そこで放射線を「食い」ながら生活をしている人たちがいる。五年経った現在、彼らもそれぞれ、色々な道を模索している。けれど、まだ原発で働いている人間もいる。忘れてはならない。

Written Photo by 久田将義(東京ブレイキングニュース編集長)

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