1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

人権団体の「AV女優強制出演」報告書が各方面から非難される理由【2】

TABLO / 2016年3月20日 19時5分

人権団体の「AV女優強制出演」報告書が各方面から非難される理由【2】

 今回も人権NGO団体『ヒューマンライツ・ナウ(以下HRN)』が発表した報告書「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、 女性・少女に対する人権侵害」と、その記者会見の内容の疑問点について指摘する。

 前回は、HRNがまったく理解できていないと思われる「AV業界のヒエラルキー」や「村ルール」等について説明したが、ここで取り上げたいのはHRNの活動が、女性差別や女性の人権侵害に直結するという点と、HRNが犯したミスについてだ。

 誘導のようで申し訳ないが、私個人のHRNに対する印象を先に述べておく。

(1)HRNは女性の職業選択の自由を認めていない
(2)HRNは自分達にとって望ましい生き方の出来る女性しか認めない
(3)HRNは女性が多種多様な価値観を持つことを認めない
(4)HRNはAV業界がすでに法で雁字搦めにされている現状を知らない

 では、どうしてこのような結論に至るのかを説明していく。

■(1)~(3)について

 HRNの中心人物らが発した言葉の中で特に見過ごせないのは「AV女優は出演を強制されている」などで、AV女優らからの反論を受けて「彼女達はそう言わされている」などと発言してしまったことも、ここに含めて良いだろう。

 本来ならば、業界内部の人間(特に女性)の意見は、真っ先に聞き取りせねばならない重要な情報のはずなのだが、HRNは「AV女優を救いたい」と言っている割に、肝心のAV女優の言葉に耳を傾けようともしない。この姿勢がいかに差別的で、他者の自主性や価値観、すなわち人権を認めない行為かご理解いただけるだろうか。

 HRNが掲げている目的が本心からのものであるならば、まずやらねばならないのはAV女優達1人1人と向き合い、彼女達がどんな思いで、またどんな事情や経緯で、裸商売を選択したのか "知ること" である。当事者の声を聞いて回るという行為は、弱者問題や差別問題を扱う上での基本中の基本なのだから、これは至極当然の話だ。

 だが、他者の人生に触れれば、そこには様々な背景があって当たり前で、単純にお金が欲しいとか、有名になりたいといった動機の他に、中にはHRNが言うように騙されて仕方なく活動している子もいるかもしれない。お金が欲しいと一口に言っても、遊ぶ金欲しさの場合もあるし、家庭が片親で貧しいから家計を支えたいといった深刻な事情の場合もあるだろう。シングルマザーが子供を飢えさせないために仕方なくというケースも充分に考えうる。

 このように、100人AV女優がいたら100通りの答えがあり、自分達が立てた予測・憶測と全く違う現実を知らされることも覚悟せねばならない。しかし、それら全てが現実であり真実だと認めなければ、真の意味での救済には向かわないのだ。ひとまずそうした情報を蓄積し、欲求や願望を捨てて冷静に判断する。それが出来ないのであれば、ましてや自分達に都合の良い声だけを拾い上げるというならば、HRNの真の目的は女性の救済ではないと断言していい。むしろ、その真の目的のために、平気で自分達に都合の悪い女性を差別してのける集団だということである。

 では実際にHRNの主要人物やその支持者と思われる人々がどのような言動をしているかというと、残念ながらAV女優らの反論を受けてもマトモな受け答えが出来ていない。それどころか、SNSなどで罵声や差別発言をぶつけ出す人間までいる始末である。その様子を眺めるに、HRN界隈の人々はAV女優として活動している女性達の声など(自分達に都合が良い内容でない限り)必要ではないのだろう。

 反論を寄せているAV女優らは「自分の頭で物事を考えられないバカばかりで、悪辣なAV業界人に騙され、脅され、洗脳され、自分達に歯向かっているのだ」と思い込んでいるか、ハナからAV女優という職業の女性が嫌いなのだ。そうとでも考えねば、唱えているお題目とは真逆の、人を人と思わぬ対応は理解できない。HRNに最も必要とされているのは対話である。

■(4)について

 HRNは「法の整備や専門の省庁が必要」とぶち上げているが、HRNに言われるまでもなく、何十年も前からエロの業界は訳の分からない新旧の法律によって雁字搦めになっている。これはAVに限らずで、猥褻に関する法律、売防法、さらに風営法などが絡めば、大抵のエロ屋は(普通に営業しているだけでも)即座に逮捕・起訴される。これに労基法や職業安定法の"有害業務"を持ち出されたら、助かるエロ屋はいない。

 ではなぜAVやソープといった完全にアウトな業種が助かっているかというと、「性器の出し入れはしていません」「自由恋愛です」といった色々な建前を用意しているからというのもあるが、早い話が警察様の思惑で飼い殺されているというだけだ。この辺りは、どう考えても完全に賭博なのに、3店方式という謎の理屈で合法とされているパチンコ業界に近い。

 実例を出すならば、つい最近海外配信系の無修正サイトにコンテンツを提供したとして、監督や女優らが逮捕されたばかりだ。これまではどんな事件でも女優だけは助かるというのが通例だったのだが、この時は女優までもが「幇助」でヤラれた。このように、警察が本気になれば、AVは無修正だろうとモザイクが入っていようと、男だろうと女だろうと、いつでも違法な物として取り締まられるのである(この辺りの法律の詳細な解説については、当サイトの別記事で何度も述べているので省く)。

 このような書き方だけでは流石に偏りが酷いので、どうしてそれが必要なのかにも触れておくが、警察はAVやパチンコといったグレーゾーンを「性欲や金銭欲に絡むヨゴレ商売ではあるが、世に必要なものでもある」と認識している。だが、グレーゾーンにはアウトローが生息しているのが世の常なので、いざ何かあった場合にすぐに捕まえられるような状況を維持しておきたい。

 逆に言うと、そこまでの話でなければ、ひとまず自治に任せて放置しておく。それが警察の方針であり、そのためにもややこしい法律が必要なのだ。法律のこんがらがり方が酷く時代に合っていないという批判はしておきたいが、警察のやりようもごもっともなのである。

 HRNはこうした事情を知らないのか、もしくは知らないフリをしているのか、何故かAVメーカーやプロダクションが法の盲点を突いて悪さをしているかのように言っているが、それは事実誤認も甚だしい。現状の法律だけでも、警察さえその気になれば、いつでもAV業界はお取り潰しになる。そうならないことが気に入らないのであれば、HRNが戦う相手はAV業界ではなく、「当局からのお達し」によってAV業界を許している警察であろう。国連にまでご注進しておいて、戦わねばならない相手すら理解していないとは、もはやはた迷惑の域を超えている。

 裸商売の業界には、このような複雑怪奇な背景があるので、今さら新法ができたとしても全く意味がないどころか、これ以上ややこしい法律が増えれば事実上セックスワークが禁止されるも同然だ。そうなれば裸を売るしかない女性は路頭に迷い、そんな女性達に職を斡旋するアウトローが続々と集まってくる。そして全てが地下に潜って全容が見えなくなり、一線越えた事件が起きても捜査もままならなくなってしまう。

 それで潤うのは、ワケあり女性や男性の性欲といった、人の弱みにつけ込むヤクザ者だけであり、か弱い女性達の救済など遠のく一方となる。HRNは、世界史に名を残す悪法 "禁酒法" の時代を再現させたいのだろうか。少しでもセックスワークの道に進むしかない女性の事情を考えられたならば、そんな思考にはならないはずなのだが。

■HRNが犯した最大のミス

 ここまで書いておいてなんだが、HRNがこのように穴だらけのロジックを組み立てた理由は何となく理解できる。連中は「女性の味方である」というスタンスをアピールせねばならないため、AV女優そのものを非難・否定することを回避したかった。したがって、口から出て来る言葉はどうしたって極端に女性寄りになるし、何でもかんでもプロダクションやメーカーが悪いという結論にせざるを得ない。だから都合の悪い情報を削り、聞こえないふりをし続けている内に、こうまで業界のことを知らないとしか思ぬ内容になってしまったのだ。

 だが、これが世間一般の会社勤めの女性などが対象であれば騙しも効いただろうが、標的をAV業界にしてしまった点が失敗だった。AV業界に限らず、性を売る業界にいる女性は、どこかで男性的な視点を持っている場合が多い。彼女達は身体そのものが商品なのだから、男性視点が全くない子、言い換えると「自分の何がいいのだろう」と考えられない子では商品価値が維持できない。そのため、長く活躍を続けられている(長く商品価値を維持できている)女性ほどその傾向が強いと言える。

 また、長く業界にいる子ほど情報が集まりやすいのだから、AV女優がいかに過保護にされているか身に沁みて理解しているはずだ。そういった女性がHRNの偏った主張に対して強い違和感を感じたとしても何ら不思議ではない。

 HRNは当事者であるAV女優と向き合わなかったばかりに、マジメに聞き取り取材すればすぐに気付いたであろうこの特徴に気付けなかった。だから肝心のAV女優達から批判を浴びるハメになった。それが第一のミスである。

 そして何より最大のミスは「AVに需要があること自体が気に入らない」とぶちまけてしまったことである。それは即ち「男性の性欲が気に入らない」と同じ意味である。ついうっかり本音が出たのだと思うが、この失敗は致命的だ。これによってHRNの真の目的がAV女優の救済などではないことが満天下に示された。それどころか「男性の性欲を金に替える商売そのもの」を問題視しているのだから、セックスワーカーから収入源を奪い取ることが目的だと受け取られても反論の余地はない。

 そんな連中に対してセックスワークを生業とする女性が賛同するはずもなく、また世の大多数の男性も敵に回してしまった。現に、この記者会見や報告書が引き金となり、HRNとの決別を宣言した男性弁護士がいたほどだ。

 こんな無様な失敗をするくらいなら、無理に大きなパイを取ろうとせず、最初から堂々と本音を叫び、ごく少数の狂信者だけを集めて活動した方が良かったのではないだろうか。その方がHRNに振り回される "被害女性" も少なく済んだだろう。(続く)

Written by 荒井禎雄

Photo by Brett Jordan

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください