人権団体の「AV女優強制出演」報告書が各方面から非難される理由【3】
TABLO / 2016年3月28日 18時0分
過去2回、人権NGO団体『ヒューマンライツ・ナウ(以下HRN)』のAV弾圧としか受け取れない報告書や記者会見への反論を書いたが、今回はそれらを踏まえた上で「ではAV業界にはまったく落ち度がないのか」という点について考えてみたい。
■AV業界の元は映画界と芸能界
まずはじめに、この日本という国は表の世界は警察が、裏の世界はアウトロー(主にヤクザ)が目を光らせ、表の世界ならば法律を、裏の世界ならばしきたりを守らせることで、安全を維持してきた。この両輪が揃っていた昭和の時代には、ヤクザには芸事・文化の守護者という一面もあり、そういう時代だったからこそ、力道山の時代のプロレスなど、山口組の田岡組長や、昭和のフィクサー・児玉誉士夫氏の名前が、著名な代議士の名前と並んで登場するのだ。ところが、暴対法が成立すると警察がここぞとばかりにヤクザの弾圧を始め、ヤクザは社会の絶対悪とされた。
ここで問題なのが、ヤクザ組織に対する締め付けは強化されたものの、芸能・興行など裏社会の人間の領分とされたものがグレーゾーンのまま放置されてしまった点だ。これによって、どこがキレイな業界でどこがヨゴレの業界なのかといった基礎知識が欠落してしまったように思う。
なぜこんな説明から入るかというと、AV業界は映像作品の制作という面では映画界(後にTV界も)が、タレントの管理と仕事の斡旋という面では芸能界が、それぞれ元になっている。これらが昭和の時代にはどういう業界だったか、ある程度の年齢の方ならば言わずともご理解いただけるだろう。そもそもの手本とした業界自体が "キレイ" な世界ではないのだ。
ただ、芸能とAVが絶対的に違うのは、芸能界は裏社会との直接の繋がりさえ見えなくすれば、一応は「法律を守ってクリーンに活動しています」という言い訳が可能であるということ。対してAVの業界は、前回の記事で説明したように、新法など作らずとも何かしらの法律に抵触してしまう "ヨゴレ" だ。
だからこそ、システム的には同じことをやっていても、また裏稼業の人間が跋扈するという面で共通していたとしても、AVだけは助からない。これを基本として覚えておいていただきたい。
■裸商売のリスクに対する認識の甘さ
これまでの記事では、HRNの主張が業界の実情をまったく知らないのではと思わせる穴だらけの内容だったため、何より優先してそれに対する批判を行わせていただいた。だが、そもそも論としてAVやその他の裸商売が "真っ当" な訳がないだろう。セックスを売り物にしている時点で、いくら業界内部の人間が「我々はクリーンでございます」と言ったところで、世間の大多数は納得してくれまい。業界人がどう思うか、どう信じているかは無関係で、この場合は「世間の大多数がどう思うか」こそが絶対の価値観とされてしまう。
そういう商売だからこそセックスワークは一般の職業よりも金にしやすいのであり、それはリスクの大きさと引き換えなのだ。
繰り返すようだが、裸商売は様々な法律で雁字搦めにされており、それでも100%安全という保証はなく、結局は警察の都合次第にされてしまう。干渉し合う複数の法律の解釈次第では、現時点でAV撮影や所属タレントをAVに出演させること自体が違法とされて不思議ではない。むしろ法律を額面通りに解釈すれば、違法とされない方がおかしいとすら言えてしまう。
だが、今のところAVは何故か合法という扱いを受けており、AV女優らは堂々と地上波のTV番組にも出られている。そして数多くの業界人が生活の糧を得る場としている。こんなあやふやな土台の上に、何千人もの人間が(危機意識を持つことなく)乗っかってしまっているのだ。しかし、何かのキッカケで警察の思惑が変われば「業界の先輩達に教えられた通りに法律を守って活動していたのに、何故か逮捕されていた」なんて話がいつでも起こり得る。
また法律の面以外でも、社会的な信用が必要とされる場面で、セックスワーカーであるという事実は足枷にしかならない。例えば部屋を借りる際に、どれだけ金を持っていても、どれだけ保証人を揃えられても、職業がセックスワークという時点でハネられてしまうケースが多々ある。AV女優(風俗嬢や水商売も同様だが)は、人に顔を覚えられやすい職業だから、ストーカー対策などは万全にしておきたい。
しかしそうなるとそれ相応のお高いマンションを借りねばならない。だが、お高いマンションになるほど住民の質にうるさい場合が多く、正直に職業を明かそうものなら相手にもして貰えない。日本でも「職業差別は悪いことだ」と常識のように言われているが、実際は誰も声に出して差別発言をしないというだけで、より陰湿な形で職業の貴賎が社会のシステムに組み込まれているのだ。
より深刻な話では、何らかの犯罪の被害者として警察に相談しに行っても、職業がセックスワークと知れるやこっちが疑われるハメになるという実例もある。例えば性犯罪の被害に遭ったと親告しても「アナタにも落ち度があったのでは」といったお約束の暴言だけではなく、裏にヤクザでもいて美人局の類でもやろうとしているのでは的な疑われ方をした女性までいた。
このような状況のままで良いはずはないが、それでも今すぐに劇的に改善するのも不可能である。よって、酷い目に遭う女性を減らすためには「裸商売のリスクを背負う覚悟がないならば、安易な気持ちでやるべきではない」と言うしかない。入ってみて思っていたものと違ったと感じるのでは手遅れで、その前段階でブレーキをかけさせねばならない。
セックスワークの世界は「入るまでは厳しく、入った後は意外に優しく、出る時は自分の存在を忘れて貰える」が理想であり、これは先人達が女性を守る為に編み出した知恵でもある。だが、AV業界人はこのような当たり前の話をしたがらない。業界に入ってくる女性(商品)が減れば、自分達の収入の減少に直結するからであろう。
言ってみれば、AV業界は昭和の時代から引きずっている歪みを内包し過ぎており、抜本的な解決ができていない。それなのに産業として膨れ上がり、「そもそも真っ当ではない」という意識もないまま業界入りしてくる人間が増え過ぎた。その状況に危機感を持てず、「儲かればいいや」で何ら具体的な対策を講じられなかったことが、AV業界の最大の罪だと言える。それを考えると、HRNに好き放題言われても仕方のない土壌を作ってきたのは、他ならぬAV業界人なのだ。
※続く
Written by 荒井禎雄
Photo by Brett Jordan
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