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人権団体の「AV女優強制出演」報告書が各方面から非難される理由【4】

TABLO / 2016年4月22日 17時0分

人権団体の「AV女優強制出演」報告書が各方面から非難される理由【4】

 NGO団体・HRNの主張に関する連載も今回で(ひとまず)最後となる。前回と同様に、AV業界に対して厳しい内容になるが、それもこれもAV業界を滅ぼさないために必要なことだとご理解いただきたい。

■HRNはAV業界の反論し辛さをわかっている

 前回はヨゴレ仕事のリスクについて説明したが、現在のAV業界は深刻な売り上げ不振にあるからか、HRNの主張に対して「AV業界はクリーンで安全だ」などと反論してしまう。しかし、説明したようにセックスワーカーというだけで様々なリスクを負わされるのだから、クリーンで安全なわけがないではないか。それはAV業界による「騙し」であり、この点においては世間に「HRNの指摘の方が正しい」と受け取られても仕方がない。

 言ってみれば「業界はクリーンです」と言い張るのは、HRNの1を100かのように大袈裟に騒ぐという手法と同類で、「90はホワイトだが10はブラック」という状況を、どちらの側から見ているかというだけの差しかないのだ。AV業界は「90%はホワイトなんだから健全だ」と言い張り、HRNは「10%もブラックな部分がある」と大騒ぎする。

 これではそもそも世間からのイメージが悪い裸商売の方が分が悪くなってしまう。しかも今回は勝手知ったる対警察ではなく、対外圧(国際問題)というおまけ付きなので、審査団体経由で誰ぞ政治家にあたりが付けられても、それだけで身が守れるほど簡単ではない。TPP交渉など、外交上の理由から政府が譲歩してしまえばそこまでだ。実在する女性の人権が盾にされているだけに、"非存在児童"が争点となった二次元創作物と児童ポルノの問題よりも更に難しい。

 ここで前回の記事の冒頭に立ち返るが、AV業界はそもそも裏社会の人間の縄張りを手本として組み立てられた業界であり、真っ当な言論対言論の戦いをするには不利があり過ぎる。その上でどんな言葉を発すれば世間が納得するのか、AV業界人はとにかくそれを真剣に考えねばならない。

 今回のHRNの動きを甘く見てはならず、詳しくは言えないがこの流れに乗っかろうというそぶりを見せている別の属性の連中は、AVのプロダクションを資格制にして、AV女優を登録制にしてしまおうとまで画策している。今はまだHRNしか見えていないから「人権派が騒いでやがるよ」と呑気に構えているのかもしれないが、業界が何も手を打たずにいれば、近くどうにもならない状況に追い込まれる可能性はゼロではない。おそらく相手はAV業界のウソをある程度まで知っており、急所を知った上で仕掛けて来ているのだろう。

 今後も業界を守り続けられるかどうかは、そうした現実を踏まえた上で、危機感を持って動ける業界人がどれだけいるかにかかっている。

■AV業界の安全のために必要なこと

 そうは言っても、今のところ警察は国内のAV産業自体に手を入れる気はなさそうだ。なんせあまりにも大勢の人間が入り込み過ぎた業界なので、ここを乱暴に摘発だ取り締まりだとしてしまうと、かえって治安の悪化を招きかねない。そういう意味では、HRNのような団体よりも、警察の方が冷静で現実を知っているとも言える。このお陰で、多少の時間的余裕はありそうだ。

 では、そんな砂上の楼閣であるAV業界を、より安全にするために必要なものとは何か考えてみよう。とはいえ話はとても単純である。

・男女関係なく労働者の安全を守る(罰則の規定)
・男女関係なく相談に応じてくれる第三者窓口の設置
・性を縛る法律の改正

 取り急ぎ必要なのは前2つで、今までこれがなかったという点が問題である。とはいえ、それもこれも「だって有害業務なんだもの」というAV業界特有の事情が強く作用しているためで、AVという仕事が有害業務である限り、これらはどうやっても実現が果たせないとも言える。

 また、最後の法改正という点に対して、HRNの言い分と同じではないかと感じる方がいるかもしれないが、まったく逆である。HRNが言っているのは新法と監督省庁の設置であり、それは規制の強化だ。ここで言っているのは今あるややこしい法律を緩めろという緩和策である。もっと言ってしまえば「AVを完全に合法化しろ」という主張だ。

 どうしてAV業界がこうまでモヤモヤしているかといえば、散々説明したように「厳密に言えば違法」なものを売り捌いて金にしている業界だからである。だから至る所に法律の及ばない部分があり、それを取り仕切るのにアウトローのルールが必要となる。むしろそれがないと女性の安全すら満足に守れない業界なので、この点については現時点では必要悪であると言うしかない。

 よって、それをより世間が納得する形に直すには、わいせつ・有害業務・売春といった、相互に絡み合う性を縛る法律を解きほぐし、AVをハッキリと合法なものとする必要がある。合法なものでなければ、それを監督し、庇ってくれる行政機関など作れるはずがないからだ。それが済んだら、今度は業界をガラス張りにして、監督機関を通じて様々な部分を可視化していく作業が必要になる。

 ここまで状況を整えられれば、後は表の世界と同じ法律に従って活動すれば良いのだから、少しずつ業界から裏社会の臭いを消して行ける。だが、果たしてこんな話が可能なのだろうか。可能だとして、いったい実現までに何年かかるのだろう。

■どのみち最後に残るのは職業差別

 仮にAVの業界にこのような新しい仕組みが出来たと仮定してみるが、そうなったら「安全かつ収入もいい」と、一般企業に務めるよりも遥かに待遇が良くなってしまう。これもこれで大問題である。

 HRNは数千人の内の1%にも満たない哀れなAV女優の例を取り上げて、AV業界全体を悪し様に喧伝してくれた。では、世間でブラック企業と呼ばれ、社員にまともな賃金を払わず、酷い労働条件から精神を病んだり自殺にまで追い込まれる人間を生み出している会社が、今の日本にいくつあるのか。比率で言えばAVよりもそちらの方が高く、被害件数も桁違いに多いだろう。そのような状況で、AVやセックスワークの業界が今よりも安心・安全に金が稼げるようになったら、間違いなくセックスワーカー差別が加速する。

 つまるところ、今の日本が急務とすべきはセックスワーク業界をどうこうではなく、国民全体の待遇改善なのだ。どちらかというと、ヨゴレで当たり前で、それで一応の治安が守られている裸商売など、後回しにすべき案件である。これまでのようにある程度は自治に任せ、特にマズイ悪人だけをピンポイントで捕まえていけば、かかる予算も少なく済むし、何より具体的な救済に直結させられる。それが今すぐにできる最も現実的な方法論ではないだろうか。

 HRNが真にAV女優の身を案じてくれているのであれば、こうした複雑な事情をすべて把握した上で、セックスワーカーから職を奪う結果にならないように、そしていらぬ職業差別を生まぬように、是非とも尽力していただきたい。もしHRNに限らず本気で業界の改善に取り組んでくれる組織があるのならば、可能な限り協力したいとすら思っている。

Written by 荒井禎雄

Photo by Brett Jordan

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