無理やりAV出演させられた女優たちの証言|ほぼ週刊吉田豪
TABLO / 2016年5月28日 12時0分
人権団体による「アダルトビデオ強制出演」問題アピールに対して、AV女優や業界側が「無理矢理AVに出されてる人なんて見たことない」「そんな業界じゃない」と反論したりの展開になっているわけですけど、AV業界の外側にいるタレント本好きとして、ボクもちょっとコメントしてみます。
自伝を出すぐらいまでの存在になったAV女優の数はそれほど多くない中で、ボクがそれらの本を読んだ限りで言うと、AV出演強要みたいなケースは確実にあるわけですよ。
たとえば麻美ゆま『Re Start』(14年/講談社)には、彼女のAV入りの経緯がこう書かれています。
当時、群馬から上京してグラビアアイドル・麻生由真として活動していた彼女が、交際中の彼氏にグラビアの仕事に反対されたときのこと。
「そこで、『グラビアの仕事を辞めさせてほしい』と、事務所の社長に相談しに行きました。
その時です。突然、事務所の社長から信じられない話を持ち出されました。
『契約してるんだし、無理だよ』
『でも私、群馬に帰りたいんです』
『えっ、なに言ってんの? 由真ちゃん、AVやんなきゃ辞められないよ』
〈えっ、何を言っているのこの人は? AV? どーいうこと? そんなのできるわけない。早く高崎に帰りたい!〉
何を言われているのか意味がわかりません。
『AVなんて、そんな話聞いてません。無理です。私は高崎に帰りたいんです!』
『AVやれば月に何日か東京に来ればいいだけだし、何も問題ないじゃん?』
『そんなの聞いてませんから!!』
泣きながら事務所を辞めたいと言っても、『AVに出なければ、辞めさせない』の一点張り。『やります』と言わなければ、その場から離れられないような状況で、本当に怖かった。私の気持ちを少しも理解しようとしてくれず、『なんで泣いてるの?』とまで言われ、〈この人は人の心を持っていない〉と、思ったほどです。
〈大人って汚い〉と思った瞬間でした」
......AV出演強要なんて有り得ないとか業界一丸となって主張する流れになってますけど、これはどう考えても強要ですよね? 彼女自身も「誤解を招くといけないので言っておきますが、この業界で、こんなひどい話はそうそうあるわけではなりません」とフォローを入れているとはいえ、確実にこういう事務所も存在するわけですよ。
もっとすごいのが穂花の名著『籠』(10年/主婦の友社)に出てくるエピソード。
歌手になりたくてボイストレーニングに通っていたときスカウトされた彼女は、「歌手になりたいのなら曲は実費で自主制作で出せるから」「じゃあ、まずは写真の仕事から」「雑誌の写真の仕事が入ったよ。しかも巨匠のカメラマンだよ」と言われ、水着グラビアだと思ってスタジオに向かうといきなりヌード撮影。
さらにはAVのメーカーが決まったと言われて当然のように断ると、「だって、契約したよね。口約束でも契約は契約だから。イヤだと言うなら、600万円払ってもらうから」と脅されてAV業界入りしたわけですよ。
それでも歌手になれるならと思って我慢したら、「次々と事務的にAVの仕事の連絡だけは入ってくるけど、せめてもの心の支えだったCD制作の話はいっこうに聞こえてこない」。
「CDを自主制作するにはAVを最低3本、つまり300万円を作れば出せるという話だった。社長の知り合いだという音楽レーベル会社と契約する予定になっていて、そのレーベルの担当者とは何度か打ち合わせをしていた。しかし、AV撮影をした直後に、その担当者が私のカラダを求めてきたことで、その話は頓挫してしまう」
「『今は音楽が売れない時期に入ってきてるから。歌なんて有名になったらいつでも出せる。まずはAVで頑張って芸能界を目指そう。飯島愛さんの例もあるし、始めたからには1番をとらなきゃ意味がない。もう3本もやったんだし、6本まで頑張ろう』。その間に芸能界デビューの方向性を考えるという社長の言葉を信じて、3本の延長を渋々承諾した。しかし、ラストのはずの6本目が終わったときに、実は最初の段階で12本もの契約を勝手にされていたことがわかり、私の怒りは爆発した」
そんなしんどい思いをしなくても、CDぐらいもっと安い値段で簡単に作れるはずなのに!
さらにはAVが原因で彼氏と別れることになり、「とてもじゃないけどつらすぎて、ひとりで自分のことを支えられなかった。そして、彼と別れた数日後から、私はそのAV女優としての穂花を担当する事務所のマネージャーと、意志とは裏腹に『つき合う』ことになってしまった。(略)でも、それがDVの始まりだった」とのことで、マネージャーの暴力による管理もスタート......。
さらには極悪事務所から逃げ出そうとしたら、こんな事件にまで巻き込まれるわけです。
「AV時代、どうしても忘れることができない、許すことができないエピソードがひとつある。それは結果として私がAVの世界でナンバーワンを目指すきっかけにもなった事件でもあったし、人に対しての信用や距離感を改めて考え直すことになった出来事でもあった。ある、同業者の女優さん、そして彼女の周囲の大人たちがグルになって私を騙したあの事件......。事務所を移籍する、しないで彼女の優しい言葉に甘え、信じきってしまった......でも......それは初めから仕組まれたことだった。『事務所をやめる意志がバレた以上、家に帰れば拉致されるぞ』。そう言って、私はマンションらしき一室に連れていかれた。こういうのを『拉致』『監禁』って言うんだろうか」
その同業者の女優に何度電話してもつながらなかったことで、彼女はようやく騙されていたことに気付いたらしいんですけど、これでもAV出演強要みたいなものは存在しない、クリーンな業界なんですかね? 2人とも、ここまで有名になったから「実は騙されてデビューしました」と言えるようになっただけで、立場的に本当のことを言えずにいる人も多いんじゃないのかなあ、と。
芸能界にも真っ黒な事務所もあればちゃんと事務所があるように、AV業界にもちゃんと事務所があるから、全部真っ黒だと思われたくないということはわかるんですよ。でも、あまりに「そんなものは有り得ない!」的な反論をしていると、いま本気で困っている女の子の逃げ場すら奪うことになりかねないわけで。
穂花も「今思えば、逃げようと思えば逃げられたかもしれない。誰かに相談していたらはねのけられたことかもしれない。口約束で印鑑を押したわけでもないし、弁護士を立てたりすれば事務所も面倒くさくなって諦めたかもしれない。だけどハタチそこそこの田舎から出てきた小娘だったあの頃は、そこまで考えが及ばなかった」と書いていたんですけど、それを思うと人権団体がAV強制出演問題について動き出したのは、いいことだと思いますよ。業界としても「一部に存在する悪質な事務所を駆逐してAVの世界をクリーン化するためにも協力したい」的なスタンスになればいいのになと、業界外の人間としては勝手に思っています。
Written by 吉田豪
Photo by Re Start ~どんな時も自分を信じて~
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