モハメド・アリ追悼『アントニオ猪木戦』を当時の著名人はどう評したか!?|プチ鹿島の余計な下世話!
TABLO / 2016年6月14日 17時5分
モハメド・アリ追悼特番として、猪木アリ戦(1976年6月26日)が12日にテレビ朝日でノーカットで放送された。あの試合を初めて見た方はどういう感想を持たれただろうか。
猪木がグランドからキックを出す展開がほとんどで「世紀の凡戦」「茶番」と批判された。総合格闘技がまだない40年前の観客の反応としては当然だったのかもしれない。
しかし、試合を観戦した著名人の当時のコメントをあらためて見てみると「さすが」と思える人や「なるほどこういう視点か」と興味深いものが多い。
ということで、前回の『モハメド・アリ死去で各紙は"アントニオ猪木戦"をどう報じたか!?』に続き、今回は『猪木・アリ戦を当時の著名人はどう評したか』を紹介する。年号を表記しないものはすべて1976年である。
まず渥美清。
『このアリ戦など、相手はピストルを構えているようなもの。それを承知で素手で決闘をやるなんて、猪木さんだからできること。全くこの人、やること、なすこと、けたが違うもんね。マイッタよ。』(大会パンフレット)
続いて寺山修司。
『大変楽しみにして二十六日を待っています。この対決は私にとっては一種のロマン、活劇、フィクションです。夢がありますね。ですからこの対決の興味は猪木が勝つか、アリが勝つかという単純な勝ち負けよりも、試合のラストシーンに至るまでのプロセスですよね。虚々実々のかけひきの面白さ、アリ、猪木側とも、どういうラストにしようか画策を練っていると思いますよ。』(スポーツニッポン6月22日)
エンタメの世界で生きる人は、勝ち負けより期待する軸が別にあることがわかる。似たような視点を続けよう。
『ショーマンとしても一流のアリに、猪木が口からアワを飛ばしキバをむいてもサマにならんでしょうに。どちらがショーマンシップを発揮して戦うか、その芸の差が見どころでしょう。勝敗は"けんとう"つかんですわ。』(フランキー堺・報知新聞6月25日)
『まぁ、二人共ショーマンに徹してそれぞれの"道"をリングでアピールすりゃいいんだ。どっちが勝ってもスッキリしないよ、この種のもんは。』(青木功・ 報知新聞6月25日)
『リングサイドが十万円だって?冗談じゃないよ。この試合がそんなに価値のあるものなのかネ。ボクには単なる金持ち階級の"つくりもの"としてしか受けとめられない。』(八代英太・内外タイムス6月1日)
そして試合後。『格闘技としてもショーとしても最低、ひどい話です。プロレスならもっと見せ場があったでしょうに。』(東海林さだお・毎日新聞6月27日)
『アリをリングにのせ、引き止めておけただけで"世界の猪木"になったと思う。』(三船敏郎・東京中日スポーツ6月27日)
世界のミフネは視点が違う。世界の王は試合前にどうコメントしたか。
『やっぱり興味ありますネ。いったいどんな戦いぶりになるのか。勝負は引き分けになると思いますが、猪木に勝ってほしいです。』(王貞治・報知新聞6月25日)
なんか、あっさりポイントをとらえてホームランを打つ世界の王。
『そもそも格闘技のプロが、本気になって喧嘩するのなら、それは見世物にはならぬ、一瞬のうちに決着がつくか、あるいはにらみ合って過ごすかどっちかであり、今回の場合、後者だったのだ。』(野坂昭如・報知新聞6月27日)
キックボクシング経験者でもある野坂氏のこの言葉どおり、後の総合格闘技は「見世物」として成立させるためにルール整備の重要性に気づいた。
試合直後ではないが、中島らも氏は1998年発行の「アントニオ猪木引退記念ファイト縮刷版」でこう述べている。
『まず試合が面白くない。そこに強烈なリアリティがあった。やらせでお膳立てした試合なら見せ場も山場もあるだろうし、あんなに面白くないわけがない。それともうひとつ。試合からはアリの「恐怖」が痛いように伝わってきた。そして猪木の恐怖も。その二人の恐怖の接点があのアリ・キックだったのだ。』
後年、アリと猪木は「あの試合は怖かった」と同じ言葉を口にした。
では最後はこの方、倍賞美津子。当時の猪木の奥さんである。
『私はアントンの妻だからこそわかるんです。一緒に生活しているからアントンの気持ちは痛いほどわかります。アントンはこの試合に命をかけていたわ。夜中に一人で起きて、じっと考えてるときが、よくあったのよ。』(デイリースポーツ6月27日)
『人にできない大きなことをやったアントンは本当の男だと思います。今度のことで、またホレ直しました。』(スポーツニッポン6月27日)
いろいろしみじみくる。以上、「猪木・アリ戦を当時の著名人はどう評したか」でした。
※参考文献「G SPIRITS・12号」(2009年・辰巳出版)
Written by プチ鹿島
Photo by モハメド・アリ かけがえのない日々
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