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AV業界は自滅する?大規模なガサ入れをした警察の"真の目的"とは【3】

TABLO / 2016年6月20日 21時0分

AV業界は自滅する?大規模なガサ入れをした警察の"真の目的"とは【3】

 前回はAVに関する基礎知識編として、性を縛る法律の基本や原則について解説した。今回は直近の出来事などを交えて、より踏み込んだ内容にしていく。

■AV女優の実態について

 まず大前提として、AV女優にも裏方の男性スタッフにも、他の業界と同様に様々なタイプの人間がいる。これが一般企業などであれば、皆が守らねばならない最低限のルールがハッキリしているため、社則や法律を元にしてやっていい事わるい事を決められるのだが、何度も繰り返しているように、AVとはそもそもが「逮捕までは諦めねばならない業界」だ。逮捕までというのは、逮捕はされたけど不起訴とか、罰金で済んだとか、そういう話である。

 したがって、そんな業界で十人十色な性格の人間を管理するためには、一般的なモラルや法知識だけでは足りない。なんせ不法行為によって成り立っている仕事なのだから、中にはとんでもない悪党や一般常識の欠落した者もおり、「法律は守りましょう」という普通のルールだけに頼る訳にはいかないのだ。だからある意味で法よりも厳しい"村の掟"が必要とされる。

 だが、この厳しい"村の掟"が暴力や恫喝という形で具現化されるのは主に男性に対してで、女性に対してはどこまでも緩い。AV村の掟は「AV女優を守るために発動するもの」と考えて良いだろう。ただし、それは「AV女優=金」だからだという事情がある点は否定しない。だが、それと同時に情や矜持という要素が多分に含まれている事も併せてご理解いただきたい。

 AV女優に対する緩さやピンキリさについて実例を挙げると、まず仕事が決まってもその日時を守れないとか、手癖が悪すぎて楽屋で共演者の金品を盗むとか、事務所に顔を出した際に金を盗んで行方をくらましたとか、果てにはそんな経緯で事務所にいられなくなったのに、整形して名前も変えて他の事務所の面接を受けに来たなんて女性がいた(※複数の人間の例をまとめています)。

 他には承認欲求が強すぎる上に虚言癖でも抱えているのか、方々で自分の非や落ち度を完全に無視して「こんなはずじゃなかったのに!」と事務所の悪口を吹いて回り、挙句に事務所を通さずにファンから直接金品をせしめるようになった子もいた。私が知っている例では、とある元AV女優はファンから貢いでもらう度にあれこれ理由を付けていたので、両親が最低でも7人は死んでおり、10人近くの父親がそれぞれ会社を潰している。

 最悪の例では、どこかで悪いヤツにクスリを覚えさせられ、AV女優仲間にも勧めて回り(売り先が欲しかったものと思われる)、マネージャー達からの再三に渡る「いい加減にしろ」という声も無視し、遂にはプロダクションも庇えなくなって契約を切られた人間もいる。

 それ以外でも、何らかの形で前科が付いた子や、揉めに揉めて業界を出て行った子であっても、気付いたら戻って来ていたなんて話はザラにある。AV女優という立場であれば、ここまで酷い場合でもギリギリまで庇って貰える業界なのだ。

 そうかと思うと母子家庭で親に苦労させたから、家を買って楽にしてあげたいとオーバーワーク気味に仕事をこなし、コツコツお金を貯めて本当に親に家をプレゼントして業界を去って行ったなんて子もいるし、男に貢がされて騙されて捨てられて衝動的に自殺したなんて子は、私が知る限りでも何人かいる。また、自分自身が元AV女優で、色々な事情で働いている女の子達にそれ相応の待遇をしてあげたいと悪戦苦闘している女性のプロダクション経営者もいる。

 このように人間性も背景もバラバラなのだから、迂闊に「AVプロダクションなんて」「AV女優なんて」と、乱暴に大ナタを振るおうとするのは勘弁願いたい。セックスワークとは、今の時代にあって様々な問題を抱えた女性にとってのセーフティネットであるという面を忘れないで欲しい。

 AVに限らず、セックスワーカーに本当に必要とされているのは、悪い事をヤラかす人間をピンポイントに捕まえる手段や、何か困った事が起きた際に安心して相談できる団体・窓口の設置などであって、大ナタを振るって業界自体を立ち行かなくさせる事ではない。

 それをやっては食えなくなって、かといって他に居場所もなくて、路頭に迷う女性が大量発生するだけである。プロダクションの庇護が無くなれば、そうした弱い女性がどんな目に遭うか想像に容易いはずだ。あれこれ問題があるのは事実だが、それでもプロダクションの存在がなくては女性が守れない業界なのである。

■セックスワーカーは労働者なのか個人事業主なのか

 そもそもの話になるが、先ほど述べた「AV=有害業務なのか」以前の問題で、セックスワーカーは労働者なのだろうか。警察は「実質上の雇用関係だ」と看做してはいるが、彼女らの大半は常に個人事業主として契約しているから、雇用者に与えられて当然の権利がない。多少困る事があっても法的なバックアップをしてもらえず、確定申告など解らないからしていないという子も大勢いる。

 これがメーカーなどのスタッフ・社員であれば労働者としての権利を認めてもらえる分だけマシで、業界内で最も優遇されているはずのAV女優は、労働者なのか個人事業主なのか、その時々によって都合よく解釈を変えられてしまう。今回のような事件が起きた場合だけは「被害に遭った労働者」として扱われ、労働者派遣法や職業安定法などが適用されるが、実際の契約内容は個人事業主なのだから、社会保障の類となると話は別となる。

 この矛盾をまずは解決して欲しいのだが、仮にプロダクションがAV女優を「雇用者」として契約してしまうと、すべてのAVプロダクションが問答無用で有害業務うんぬんで滅多打ちになる。それに出演する作品の内容次第では、下手をすると管理売春の罪に問われる可能性まで出てしまう。

 このように、労働者派遣法などの文面が今のままである限り、セックスワークに従事する人間にとっては、退くも進むも同様に地獄でしかない。業界の改善、セックスワーカーの待遇改善のために今すぐ何かするというなら、まずはこの「労働者なのか否か」について国と掛け合う事なのだが、おそらくそれに対して警察は意地になって抵抗するだろう。

 裸商売に限らず、アウトローなど治安を乱す要因となり得る属性の人間が多くいる場所に対して、警察はこのように「いつでも簡単に逮捕できる」という状況を作ろうとする。それが確かに悪者を監視・抑制するのに役立っている面もあるので、一概に否定はできないのだが、その代償として罪もない末端のセックスワーカーらが生活できない状況にされるというのでは非難せざるを得ない。こうした警察の都合まで加味して落としどころを探る事は、果たして可能なのだろうか。

Written by 荒井禎雄

Photo by StephaniePetraPhoto

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