AV業界は自滅する?大規模なガサ入れをした警察の"真の目的"とは【5】
TABLO / 2016年7月14日 18時0分
過去数回の解説でご理解いただけたかと思うが、AVや風俗など性器が絡む仕事は、複数の刑法(例えば売防法)や行政法(例えば風営法)などで雁字搦めにされており、業態ごとに適用される法が違う。そのため、一見すると同じ裸商売に思えても、実際は意識すべき箇所がまるで異なる。
セックスワークを大分類として考えた場合、その下には「コンテンツビジネス」「ショービジネス」「性風俗店(射精ビジネス?)」の3つの中分類がある。その下の小分類に、例えばコンテンツビジネスならばAVが、ショービジネスならばストリップやSMショーなどが含まれる。
大まかに言うと、これらは同じセックスワークであっても、中分類ごとに法の管轄が変わると言っていいだろう。
■業態による法律の違い
同じ性器が絡む商売であっても、ストリップなどのショーには原則として性行為も準性行為もないため、それをセックスワークに含めるべきか否かには異論がある。昔はともかく今は"本番まな板ショー"などやる恐れ知らずはいないだろうから、ここでは性行為や客との接触行為がない前提で考えたい。とすると、裸商売の代名詞とも呼べるストリップは、仮に踊り子を労働者と看做された場合でも、有害業務で挙げられる可能性は低い。という事は、気に掛けるべきは公然わいせつと、店舗型の宿命である風営法くらいとなる。特に注意すべきは公然わいせつで、これは女性(労働者)を被害者として扱う労働者派遣法などとは違い、踊り子自身も逮捕までは覚悟しなければならない。ついでに言うと、客も公然わいせつ幇助で逮捕されるリスクがある。
では性風俗店の中でも特に危険度の高いソープランドはどうかと言うと、こちらは警察がその気になったら「お風呂屋さんでたまたま知り合った男女の自由恋愛である」といった建て前を一切無視され、店舗型であるからまずは風営法、そして不特定多数の客を相手に性行為が行われるのだから売春防止法が適用される。この場合、経営者や従業員は確実に逮捕されるが、風俗嬢と客は売防法違反ではあるものの、罰則がないので(ほぼ)逮捕はされない。むしろ、ソープよりも安全と思われるであろうピンサロが摘発を受けた場合は、嬢も客も公然わいせつで挙げられる可能性がある。客の立場に限って言えば、ピンサロやハプバーの方が万が一の危険があるのだ。
それではAVはどうかというと、まず店を構えている訳ではないので風営法は関係なく、不特定多数の客を相手にする訳でもないので売春防止法にもあたらない。ただし、どこかのメーカーが「ガチ素人男優物」を企画して男優を公募し、さらに参加者から金を取るといった信じられない大失敗をすれば、売春防止法が適用され、制作会社やプロダクションが逮捕される可能性がある。とはいえ、そこまでマヌケな事をする人間はいないだろうから、野外露出物の撮影中に捕まって公然わいせつといった辺りが定番の罪状であろう。
また、女優が望まぬ撮影を強行した(という親告があった)場合は、その内容次第で強姦・強要・強制わいせつといった容疑になる。この場合は女優が被害者として親告するケースが殆どだろうから、制作会社と男優が逮捕され、プロダクションはその事実をどの段階で知ったかによって容疑者にも親告する立場にもなり得る(かのバッキー事件を例に出すと、プロダクションは親告者で、制作会社の代表に強姦致傷で懲役18年という判決が下った)。
これらは、原則として現場を組む制作会社(AVメーカー)がブレーキを踏めば殆どを回避できるのだが、AV女優が実質上の労働者であり、AVが性行為・準性行為をする限り、どんなやり方をしても逃げられないのが、労働者派遣法の有害業務である。これで摘発を受けた場合、容疑者の立場になるのは(ほぼ)AVプロダクションのみという特徴もある。
このように、裸商売とは業態ごとに差はあれど、複数の刑法・行政法の上を綱渡りさせられている。そこから一歩でも足を踏み外せばすぐに逮捕されるし、警察様の機嫌が悪ければ「綱の上を歩いていただけなのに!」と、ルールを守っているつもりでもアウトになる場合すらある。それがセックスワーク・法律・警察の関係性なのだ。
話は変わるが、つい先日、大阪府警の警察官ら数人に監禁・暴行・強姦された女性が、警察官らが不起訴になった事を不服として検察審議会に審査の申し立てを行ったが、これなどAV業界の人間がやったらどんな事になるだろうか。事件のシチュエーションはバッキー事件と大差ないというのに、加害者が警察官ならば「抵抗がなかったから合意だと思った」で不起訴になるというのだから、この国には法の平等の概念がなさすぎる。バッキーがもし警察官が経営しているメーカーだったなら、あれだけ凄惨な事件を起こしてもお目こぼしされたかもしれない。
■AVを便利に使い倒したメディアの無責任さ
少々話が横道にそれるかもしれないが、AV女優(=セクシー女優)の扱いに関するメディアの罪について考えてみたい。
出版社やTVなど、過去に何度もAV女優を掲載また出演させていたが、誰も危機感を持つ人間はいなかったのだろうか。例えば、某有名週刊誌などAVどころか「海外無修正エロサイトの使い方指南」をコンテンツとして掲載していたが、そこまで行くとモラル崩壊レベルの話ではない。そして、そんな彼らが今回の騒動でAV業界を非難する事はあっても、庇う声は殆ど聞かれなかった。AV業界の方法論自体は良くも悪くも何も変わっておらず、法的にグレー(むしろブラック)なままだったのだから、それを承知でコンテンツとして消費していた各メディアにまったく罪がないとは言い切れまい。
各メディアがAVの致命的な弱点・欠陥を無視し(または知らず)、不用意にグラビアアイドル的な扱いで露出させ続けた結果、まるでAV女優が普通のタレントかのようなイメージになってしまった。それ自体は喜ばしい話ではあるのだが、すべては「AVが完全に合法ならば」の話である。どんなにキレイに見えたとしても、性を取り巻く法律が何も変わっていない以上、彼女達は常に逮捕リスクを抱えたまま活動する事になる。そうした背景を誰も知らせず、次々と若い女性が危機意識もないまま業界に入り込んでしまったのだから、グラビア誌や深夜のTV番組などには「負の広告塔」と化してしまった責任があるのではなかろうか。彼らには、いまさらAVを非難して正義漢ぶる資格はない。
今後、AV業界は「完全合法化」ないしは「逮捕リスクの軽減」に向けて動くと思われるが、その際にTVや雑誌は責任の一端を感じてキャンペーンに協力してくれるだろうか。それとも安全が確認できるまで高みの見物をするのだろうか。その辺りを興味深く見守ろうと思う。
Written by 荒井禎雄
Photo by StephaniePetraPhoto
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