AV業界は自滅する?大規模なガサ入れをした警察の"真の目的"とは【7】
TABLO / 2016年7月26日 12時25分
一連のAVプロダクション摘発に関する記事は今回を最終回としたいのだが、またも連載中に大きな動きがあった。問題となっているAVプロダクションの経営者らが略式起訴され、100万円~60万円の罰金という結論になったのだ。ここで注目して欲しいのはその罪状で、予想通り強制わいせつ罪も強要罪も強姦罪もまったく無関係で、単に労働者派遣法違反である。いわゆるションベン刑だ。
これにより、今回の件についてはHRNらが主張する「出演の強要」はなかったと断言すべきである。もし仮に強要があったならば、以前にも書いたように「簡単に強制わいせつ罪や強姦罪が成立するから」というのがその理由だ。それらが成立しなかったという事は、このケースに限ってはそうした背景が「なかった」のである。これを間違えないように記憶して欲しい。
また、この事件について「AV出演強要で罰金」といった見出しを躍らせているメディアがすでにあるが、そうした媒体は無知か腹にイチモツ抱えているかのどちらかである。
だが、これでAV業界が安心するのは早い。事態は業界人が思っているよりも深刻で、今回の逮捕劇など単なる予兆に過ぎないのだ。それを説明するために、まず直近で起きたAV業界に関係する出来事を並べ、警察の思惑について推測してみる。
■AV強要被害の実態把握につとめると閣議決定される
HRNらが政府に対して働きかけた結果、6月に「AV出演被害の実態の把握につとめたい」という内容の答弁書が閣議決定された。現時点ではまだ「実態の把握」という言い方になってはいるが、こうした動きは法律や条例による規制への第一歩と考えなければならない。
■あらゆるジャンルに及ぶ警察の"わいせつ取り締まり"
AVプロダクション摘発事件が話題になっている中で、着エロの分野でも摘発者が出た。これはAVではなく、モデルに性器が見えるか見えないかギリギリの衣装を着せる、いわゆる着エロビデオの制作者・販売者が逮捕されたというもの。
性器そのものは見えていないものの、わいせつ物と看做されての逮捕なので、これは内容としては力武氏が逮捕された際と同様のものである。法律面などの詳しい解説は、過去に寄稿した記事を参照していただきたい。
■警察の真の目的とは
こうした流れを踏まえつつ、警察の真の目的について推測する。まだ表に出ていない情報が多すぎるので、コレが目的だと断言するのは危険なのだが、警察がやりたい事はパチンコ業界の歴史を思い出せば理解が早いのではなかろうか。
パチンコは法律を正直に解釈すれば明らかな賭博で、同じ手法を他の業種(例えば金スロなどのカジノ)が使えば立ちどころに摘発される。にもかかわらず、パチンコだけはよほどの違法行為(三店方式を崩す、確率に手を入れる=遠隔・出玉制御など)がバレない限り絶対に摘発を受けない。その理由は、業界全体が巨大な警察利権だからである。
警察はAV業界を含めたエロの業界に、このような「あえて弱みを作っておいて首根っこを押さえ付ける」という利権構造を作ろうとしているのではないか。この場合、おそらく既存の審査団体的なものではなく、エロ業界全体に対する監視団体や、何かしらの免許や資格を発行する団体になるかもしれない。(現に去年の段階でプロダクションを免許制にして、AV女優を資格制に出来ないか算段していた、とある立場の人間がいた事を明かしておく)
どうしてこのような推測になるのかというと、警察の動きは明らかに「AV業界を中心としたエロコンテンツの業界を脅かして萎縮させる」事が目的と見受けられるからだ。その先に何があるかと言うと、何が良いのか悪いのか解らず萎縮した業界に対し、「指導しますよ」と言いつつ団体を設けるというのが、歴史が証明している鉄板のオチなのだ。
ついでに言っておくと、次に摘発を受ける可能性が高いのは、ネットのダウンロード販売を中心にしている、いわゆる"同人AV"であろう。最近になって流行り出している新しい方法論なのだが、個人またはごく少人数で撮影・編集した映像素材を集め、それをダウンロード販売するサイトがある。そうしたサイトで売られている作品には、コスプレイヤーのコスROMもあれば、着エロもあり、ほぼAVと言って差し支えない性行為を映した作品もある。ただ、審査団体などなく、素人仕事なのでモザイクが妙に濃くて大きかったり、それでもズレて大変な事になっていたりと危険度が高い。警察が次に狙っているのはコレではないだろうか。
他にも様々なエロコンテンツがやり玉に挙げられるとは思うが、去年辺りから続いている一連の摘発劇により、海外サーバを使った無修正のエロ動画サイト、表AV、着エロ、同人AVといった主なエロコンテンツは、「軒並み現行法でヤレる」という事実を、警察がハッキリ見せ付けて来た。となれば、次に控えているのは監視団体や免許発行団体などの設立しかない。これとマイナンバーとを組み合わせれば、脱税を見逃さない仕組みも作れるし、そうなれば警察だけではなく国税にとっても美味しい話となる。
またそれ以外にも、オリンピックへ向けたエロ浄化の一環という考え方もあるし、過去に不完全燃焼で終わってしまった暴力団や不良連中の再度の締め付けという面もあろう。現在、陰謀論的に囁かれているような「○○を××する」という1つの目的があるのではなく、こうした複数の流れがたまたま1本になったと考えておかねば、何が起きているのか見誤る事になる。
ここで注意して欲しいのは、これはあくまで警察が勝手にやっている事であり、HRNらの外圧まで使ったパフォーマンスや、政府の閣議決定などは別の話であるという点。エロ業界をどうにかしたい複数のルートが、それぞれの判断で動き回っていると見なければならない。この四面楚歌かつサンドバック状態になるしかない状況を、エロ業界人は自覚せねばならない。
■AV業界に激変が起きた場合の懸念
仮に日本でもエージェント制が根付き、新しいルールで業界が動き出し、警察等とも上手い具合に折り合いが付いたと仮定しよう。となれば、法律面では遥かに安全になるし、AV女優も制作会社もプロ意識の高い人間しか生き残れなくなるので、必然的に作品のクオリティが上がり、ユーザーが"掴まされる"可能性は低くなるだろう。
だが、気掛かりなのは「AV女優にすらなれなかった女性がどこに行くのか」である。現状のAV業界は確かに問題が多く、世間に通用しない村ルールに頼り過ぎな部分が大きい。だが、それによって「誰でもカメラの前でセックスすれば金になる」という状況を生んでいたのだ。
ところが、ここまで風向きが悪くなってしまうと、プロダクションも制作会社もそう易々と誰とでも契約する、AV女優ならば誰でも庇うという訳には行かなくなる。後になってからAV女優に話をひっくり返されてはたまったものではないから、リスクと天秤に掛けて金銭的に渋るようになる。そうなれば、今でも思ったより稼げないAV女優という職業が、さらに食えなくなってしまう。
またHRNらが強く主張している話のひとつに「違約金を請求される」というものがあるが、これにしたって違約金を請求されても仕方のないヤラかしをするAV女優だっているのだ。それなのにAV女優だけを一方的に庇うというのであれば、"違約金"という文言が"損害賠償金"に変わるだけである。この部分についてはエージェント制になったとしても避けられず、AV女優も最低限の法律の勉強をする必要に迫られるだろう。
より最悪なのは、ハナから逮捕上等のアングラセックスワークの世界が拡大する事だ。最初から逮捕覚悟ならば、例えば風俗であれば良心的なサービスなどする必要もないし、ぼったくりや、美人局や、後になってから強姦で訴える(示談金目当て)といった、無法地帯になる事が予想される。
近く強姦罪が厳罰化されるので、悪人は脅しやすくなる分だけ"ビジネスチャンス"だと考えるに違いないし、金に目が眩んで浅はかな判断をする女性が減る訳ではないのだから、後は何が起きるか想像に容易いだろう。この点だけは特に注視しておかねばならない。
以上、大変長くなってしまい恐縮だが、AV含む性産業の実態と今後について解説させていただいた。
最後に、日本のセックスワーク業界が、今後も弱い立場の女性にとってのセーフティネットとしての役割を果たしてくれる事を。また、多少の苦しい事や辛い事があったとしても、セックス(裸)を売る覚悟を決めた人間が、せめてまとまったお金を手に出来る業界であり続けてくれる事を願う。
Written by 荒井禎雄
Photo by StephaniePetraPhoto
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