三十年の沈黙を破って刊行!加茂田重政著「烈侠」制作秘話
TABLO / 2016年8月18日 16時0分
本書を作り、加茂田の親分に話を伺おう、と話が持ち上がったのはまだ山口組が分裂する半年前の事である。
筆者の世代では加茂田重政という1人の大きなヤクザの名前は非常に大きいが、解散して30年近く経った今に、その名前が果たして一般の読者の方に通用するのかは、一抹の不安があったのは事実である。ただ、三代目山口組の最高幹部、一和会の最高幹部として、その話を伺いたい、人物像に迫りたい、という興味の方が先走ったような感がある。
色々なツテを辿り、加茂田重政氏に辿りつき、初対面にも関わらず必死に出版のお願いをした。正直、今では何を話したか、何をお願いしていたのかは思い出せない。それほど必死だった。
ようやく加茂田氏から承諾を得たのだが、実はその後も大変であった。ネットでは加茂田氏に関する様々な噂が飛んでいる。が、実際の加茂田重政氏は家族に囲まれて幸せな暮らしを送っている。その人を今更表に出すのは、というご家族の強い反対もあった。その心情はよく理解できる。それだけに出版のお願いするのは心苦しかった。その説得の前後に、六代目山口組の分裂が発生している。
しかし、こちら側はそういった話を聞きたいのではない。加茂田重政という人間の半生を、生き様を自伝として出したい。今回の分裂については反対にこちらも話を伺いたくない、という意向を強く出した。
読者の方が一番聞きたいのは、山口組の分裂に際しての過去の山一抗争に絡めて話だろうという事も正直わかる。
だが、過去に暴露話を書いた人間の処遇は果たしてどうだったのか? 復帰している組長もいる、ボディガードが付いている組長もいる、そして警察の保護対象になっている組長もいる。これはヤクザ暴露話だけではなく、色々な暴露話を書いた人間ほとんど全てがそのような結果をもたらしてしまっている。
現役を離れて30年近く経っている加茂田重政氏にその様な苦労は味合わせたくはない。ご家族の話も聞くと、今まで何人かの方が、本の出版とかの話を持って来たそうであるが、なぜか途中で挫折してしまったとの事(その理由も聞いているが、それは今回の書籍とは関係ないのでコメント等は控えさせてもらいたい)。
そして、加茂田重政氏への聞き取り取材が始まった。ヤクザについて、ご存知の方もいらっしゃるだろうが、知らない方への説明として、ヤクザ抗争、その他組事などは一々親分の意見を求めない、若頭、執行部が決めて、親分へは事後承諾の場合がほとんどである、という事を前提にお読み頂きたい。
そこで、親分の話の裏付けの為に複数の元加茂田組の幹部の方々へも取材、全体像を把握した。具体的には加茂田氏が懲役に行っている間の組運営、抗争の際の裏の話等である。親分への質問は聞き手としての私の個人的な疑問、世間が抱いている疑問を中心に聞いていった。
「なぜ一和会に行ったのか」「一和会会長山本広氏の評価」などである。その他で言えば、加茂田軍団と言われる人々の実態である。色々な書籍で一部紹介されている人もいる。
だが、例えば本書では「加茂田組の頭脳」と称されている山下実若頭の評価等は書籍には残されてはいない。その他まだまだ埋もれている方々も大勢いる。
加茂田重政氏は、山下氏以下数名の名前を挙げて高く評価していた。人を褒める事をしない加茂田氏が褒めるのは余程の事であろう。
本書とは別に、いつかその様な方々が加茂田組を支えたという事を表に出せれば、と今も思っている。
本書「烈侠」が出来上がった時に、加茂田重政氏の身内の方が経営されている喫茶店に数冊持って行った。そこにたまたまいた番町の方々が口を揃えて「本を出してくれてありがとう」と言われた。その感激は今も忘れる事は出来ない。
今回「烈侠」に、一部マスコミで話題となった様々な写真を掲載出来たのもご家族が保管されていたからである。神戸の震災で大部分の貴重な資料は失われたが、その被害に合わなかった素材を全て提供頂いた、誌面を借りて改めてお礼を言わせて頂きたい。
戦中からの神戸の裏面史を少しでも伝えられたとは思っている。それにしても港町には愚連隊がよく似合い、絵になると改めて思った次第である。
Written by 花田歳彦
Photo by 「烈侠」より
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