【東松山市少年リンチ事件】かつて"不良少年"だった私が思うこと
TABLO / 2016年9月6日 16時1分
2015年2月に川崎市中一少年殺人事件が起きた。そして、また同じような事件が起こってしまった。埼玉県東松山市で井上翼さん(16)が兄弟を含む5人による少年のグループ五人による残虐な殺人事件(2016年8月29日現在、容疑者は殺意は否定)。五人のうち二人はその地域を根城とする不良少年グループに属していたようだ。
実名は少年事件の為に一切報じられないが、名前を聞いた筆者は「え?」と思ってしまった。一言で言えばキラキラネームである。ネットを通じて犯人の実名が上がっているが、間違っている部分も多い。川崎市中一少年殺人事件の時と同様、容疑者等がSNSをやっていた為の弊害であろう。
事件の残虐さはどんどん明らかにされている。容疑者5人は井上さんを全裸にして暴行、そして痙攣したので川に顔を付けて放置して逃げた。その暴行の際には動画を撮影した、というのだ。暴行の理由として「連絡が取れなかったから」「嘘を付いていたから」「バイクの売買による金銭のもつれ」等である。
『友人らによると、井上さんは少年たちと今年5月ごろに知り合い、今月17日には一緒に遊んだという。友人(16)は7月下旬ごろから、井上さんが「金を返さなきゃ」と繰り返しこぼし、「金を巻きあげられる」「万引をさせられる」と悩んでいた様子を覚えている。友人たちは「バイクのレンタル代として、翼の財布から1万7千円を抜き取られたこともあった」「万引を命令されて翼が渋ると、殴られていた」とし、「金や暴力の関係で(少年に)返信したくなかったんじゃないか」と話した。』(埼玉新聞8月26日)
少年による事件が起こる度に、他の様々な少年事件と比較されるが、それは大きな間違いだと筆者は思っている。「まだ社会的には当然成熟していない少年が起こした事件」という指摘は間違いではない。
だが、背景は全く違うと思う。今日の報道でもある評論家が「親に相談しなかったのか」と的外れなコメントをしていたが、この世代の親子関係は一番近くて遠い関係である。余程の事がない限り、また小学生でない限り親の出番はないケースが多い。
筆者の少年時代と比べてみよう。実は筆者も少年時代は数度の逮捕歴がある。少年時代の最後の逮捕は「虞犯」という逮捕で社会から隔離された。虞犯の意味だが、社会にいると周りに悪影響を及ぼす、との事。そして何もしていないのにいきなり逮捕されたのである。その様な悪い少年時代を送ったのだが、この様な残虐な事件を引き起こした事はない。
まず不良少年には先輩、後輩という上下関係には厳しいモノがある。だが、そこには当然「情」が一番上にあり、殺すとかの考えは、ない。喧嘩は自分の仲間以外にはとことん闘ったが、絶対に限度は知っていた。単車とか車は燃やしたりもした。しかし人は燃やしてはいない。
それは自分たちが身をもって培った経験ゆえ、だ。捕まる事は恐れてはいなかった。しかし、喧嘩の場合、「肉体的にこれ以上はまずい」というのを肌感覚で知っていたのだ。「知識」はないが「知恵」は持っていた。
筆者の少年時代は金属バットなども武器として使ってはいなかった。木刀だけであり、頭も当然狙わなかった(それは近年全く変わってしまったのだが)。
後輩にはヤキを入れた事もある。だが、人間は必然的に弱い部分を庇ってしまう。頭とか腹部である。そこを手で庇ったり体を丸めて防御する。
その庇っている部分を「これなら平気だろう」と、多少の手加減を加えて殴ったり蹴ったりする。筆者も経験した事だ。その後は言葉でも態度でもキチンとフォローするのは当たり前だ。
仲間がやられていたら体を張って守る。その姿は仲間、後輩に嫌でも見えるモノである。それが情であり仲間であり、信頼関係である。筆者の少年時代は携帯もなければポケベルもない時代である。
今回の事件は連絡が取れないという動機でリンチに及んだが、筆者の時代は連絡が取れなければ、まず心配をした。
そして一生のトラウマを背負わせるような酷い事はしなかった。筆者は今では地元に帰り、そこに住んでいる。昔の先輩に会えば頭を下げるし、後輩と会えば頭を下げられる。数十年経っていても仲間である。その様な関係が築き上げられなくなってしまったのであろうか。そう考えると非常に哀しい事件である。
Written by 花田歳彦
Photo by K-SAKI
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