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エンタメ作家・冲方丁の"DV疑惑"に隠された思惑(1)

TABLO / 2016年9月8日 18時5分

エンタメ作家・冲方丁の"DV疑惑"に隠された思惑(1)

『天地明察』や『光圀伝』などのベストセラーで有名な売れっ子作家、冲方丁が逮捕・留置されてから1年。事の顛末を記した『冲方丁のこち留~こちら渋谷警察署留置所』(集英社インターナショナル)の出版を記念するイベントが新宿のロフトプラスワンで8/29に開催されるというので行ってみた。事件の真相について、どれだけ語ってくれるのか――。

■事件の第一報と冤罪DV

 2015年夏、作家の冲方丁は奥さんに暴行をはたらいたという容疑で容疑で逮捕され、そのことが大きく報じられた。

「署によると、逮捕容疑は21日午後7時ごろ、東京都港区南青山のマンション敷地内で、妻の口付近を殴りけがをさせたというもの。マンションは自宅兼事務所として利用していたという。妻はあごなどを打ち、翌日、署に相談した」(朝日新聞2015/8/24WEB版)

 これを読んだとき、私は二つの理由から冤罪DVを疑った。誰にでも見ることが出来るオープンスペースで暴力を振るうことの不自然さ。それに加え、私がこれまでに聞いてきた冤罪DVに苦しむ父親たちのケースと経緯がよく似ていると思ったからだ。

 冤罪DVは主に子どもを持つ夫婦間で起こっている。ありもしないドメスティックバイオレンスを主に妻側が行政や警察に相談したり、中には虚偽被害で配偶者を逮捕させたりした後に、子供たちを連れ去ってしまう。行政や警察はしっかりと調べもせず、DVがあったことを前提に女性や子どもを保護したり、公的な手続きなどにおいてその後の生活を優遇したりする。

 一方、DV加害者だとレッテルを貼られた配偶者(主に夫)は大変だ。役所から相手側の居所を教えてもらえなかったり、場合によっては自宅からの退去を命じられてしまったりすることのほか、会社からクビを命じられたり、苦しんだ末に自殺してしまったりするケースすらある。それどころか、連れ去った妻が子どもを殺害したケースも過去にはある。

 そうした深刻な問題が、家庭という、誰しもが持つ可能性のある舞台で起こっている。冲方さんもその犠牲者になるのかもしれない。私は、第一報を読み、そんな予感がしてならなかった。

■連載の開始

 冲方氏のことに話を戻そう。逮捕された後、彼は渋谷署に9日間にわたって留置された。自由を奪われ、警察で取り調べを受けたり、検察に送られたり。情報が遮断された中での留置場での日々を過ごし、処分保留で釈放された。10月に不起訴になると、早速彼は年内のうちに集英社の『週刊プレイボーイ』で、留置場での様子を手記として連載を開始した。

 連載の第1回目で彼は、長年連れ添ってきた妻との、どこの家庭にもあるごくありふれた衝突の理由について記していた。逮捕の前日一緒にランチをして生活や仕事の状況を確認し合うといった話し合いをしたこと、保育園へ子どもを迎えに行く途中、彼の仕事場のマンションの前で立ち話をしたこと。妻を殴ったという容疑については「相手の顔を殴るには、手にした荷物を捨て、自転車の前部に設置されたシート越しに手を伸ばさなねばなりません。物理的に不可能とまではいいませんが、私と彼女の間に障害物があったことは確かなのです」と明確に否定している。

 トークイベントが開催されると聞いたとき、私は期待した。事件発生から1年経ったことで、事件当時の夫婦関係や事件発生当時のアリバイといったものについて、連載時よりもさらに踏み込んで話してくれるかもしれない。私の読み通り、虚偽告訴による逮捕だということを何か示唆するような発言があるのかもしれないと。

■イベントで語られたこと

 午後7時半、イベントがスタートする。冲方さんの他に彼と非常に仲の良い司会役のライター、そして彼の弁護を担当したまだ30代といった感じの若い弁護士が二人登壇した。

 わかりやすくそして冷静な文章とは違って、冲方さんは非常にエモーショナルな語り口で、事件について語っていった。

「腹立ちますよ。よっぽどたまってるんだなって思います。今やもう渋谷署のウォッチャーですからね。何か不祥事がないかと思いますよ」

 そう言って、警察への怒りを表明し、警察、検察、裁判所の不条理について、そのやり口を述べていった。イベントの途中、冲方さんは変なテンションで一人、ウケていることが多々あった。

「(留置所内で着るねずみ色のトレーナーの上下に)留QLOって書いてあるんですよ、笑」

 そうした話に興味のない私は、爆笑の渦といった様子の会場で、「言わなあかんことは、それちゃうやろ」と一人でつぶやいていた。

 イベントの後半には映画『それでもボクはやってない』の監督、周防正行が登場し、痴漢冤罪について語られ、DVから話題はさらに遠ざかっていった。トークは時折、クロスするも、痴漢冤罪と一般的な犯罪と冤罪DVをごっちゃにしてのトークであった。

「起訴されたら有罪とされる確率は99%です」と弁護士が話すと、冲方さんは「有罪率99%か。こわー」と言って、冤罪DVのケースとごっちゃにしてリアクションしているような気がして、すごく違和感があった。私が話を聞いた限りでは、冤罪DVによって逮捕され起訴された当事者はひとりも一人もいないからだ。全員、処分保留により釈放され、その後、不起訴になっているのだ。 

 結論にしてもどうだろうと思った。一般犯罪や痴漢冤罪、そして冤罪DVを一緒くたにして、「いきなり犯罪の被疑者として捕まることは、誰にでも起こりうること」と言われても、ケースが違うから、別に考えた方がいいのではないかと思わざるを得なかった。

 そうして、連載時に記されていた事件発生当時のアリバイ的な話を補足する具体的な話は一切ないまま終幕し、なんだか肩すかしを食らってしまった。

Written by 西牟田靖

Photo by 冲方丁のこち留 こちら渋谷警察署留置場

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