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エンタメ作家・冲方丁の"DV疑惑"に隠された思惑(2)

TABLO / 2016年9月9日 18時5分

エンタメ作家・冲方丁の"DV疑惑"に隠された思惑(2)

 イベント中、私が知りたかった事件の真相について、冲方丁さんはまったく言わなかったわけではない。ほのめかすようなことはいくつか言った。それは司会のライターから、奥さんについて聞かれたときのことだ。

「金遣いが荒かったことへの不満はもちろんあった。本にも書いたけど、怒りが強すぎて記憶が書き変わってしまってて(よく覚えてない)。DVはしてません。してたらここにいないですよ」

「家庭円満に向けて夫婦関係を修復するだなんて気持ち悪いよ。できるはずがねえだろ! 妻本人からの連絡はその後一切ない。代理人を通してしか。子どもにも一度も会えてない。子どもに会えない寂しさはある。奥さんに会えない寂しさはあるかって? ないない。あれ以来、妻とは一度も会ってないよ。もし会ったらDVしちゃうかも(笑)」

「正直その発想はなかった。そのやり方がうまいと思った。お金が欲しいんなら(夫を)留置所に入れろと。(だけど)夏休みが終わる1週間前にやることかと思いました。子どもがかわいそうですよ」

 父親の事件が報道されることで、夏休み明け、子供たちがいじめられることを危惧しているのだ。気になるのは、ここでいう「その」とは何のことを差しているのかということだ。彼が殴ったのであれば「やり方がうまい」と話すはずがない。冲方さんはあくまで、はめられたのは自分だといいたげであった。

 その後、司会のライター氏は、冲方さんに率直なところを訊ねた。

「奥さんがいらっとして警察に飛び込んだというのが真相ですか」

すると冲方さんはとぼけたように、

「そうなの? 本人に聞いてよ」

と言って、それ以上は何も語らなかった。私の睨んだ虚偽告訴、冤罪DVという線についての言及はそれだけだった。

■書籍化によって消された部分

 イベントの後、私は『冲方丁のこち留~こちら渋谷警察署留置所』を読んでみた。すると、連載時に記されていた事件当時の夫婦関係や事件発生当時のアリバイといったことについてはすべて削除されており、私が知りたいと思っていた、この事件の真相がさらにぼかされた形で、書籍化されていることがわかった。

 離婚に向けて話し合いをしている彼は、妻側とのやりとりの中で、何か隠さねばならないことがあるようだ。それに該当するからこそ、アリバイ的な部分を書籍化の際、バッサリ削ったということらしい。

■彼が守ろうとしているもの

 では彼はいったい何を隠そうとしているのか。私が過去に話をうかがった、逮捕経験のある冤罪DV被害者の話が参考になる。

「接見に来た弁護士に言われて知ったのは、通報するだけでは留置所には入らないということ。診断書をとって告訴の手続きを取って初めて裁判所から逮捕状が出て逮捕されるそうなんです。どうするかを決めるのは嫁さんの胸先三寸。つまり、私を留置所に入れるための判断と書類の提出は嫁さんがしてるんです。私と一緒に留置所に入っていた男もやはりDV容疑で留置されていました。奥さんに頭蓋骨骨折という大怪我をさせた、正真正銘のDV夫なのに、彼の方が早く釈放されました。というのも彼、奥さんに反省文を書いたんです。そしたら処分の取り下げが奥さんからなされたというわけ。一方、私はやってませんから反省文なんて書けないわけ。だから10日間、余計に留置されていました」

 実際にDVをはたらいた男性がすぐに釈放され、DVを行っていない彼は20日間も自由を失われていたのだ。実際におかした罪よりも、奥さんが許すかどうかによって、身柄が左右されたことが彼の証言からわかる。

■表現と面会を天秤にかけた?

 奥さんへの怒りをあらわにしつつも、その理由をはっきり言わないのか。名誉毀損の相場である100万円ぐらいなら、彼は払えるだろう。だから奥さんの行為について開示することやその反応についてはへっちゃらなはず。

 そうではなく、彼が気にしているのは現在、会えないでいるお子さんのことではないか。

 子どもを奥さんに連れ去られた、当事者の男性たちがよく言うのは、「面会させるかどうかは全て妻の意向次第だ」ということである。奥さん側が会わせたくないと言えば、それが通ってしまうのだ。

 12年前、歌人の枡野浩一さんが週刊誌や月刊誌に「子どもに会いたい」とあちこちで書きまくったことがある。[『あるきかたがただしくない』(朝日新聞社)に収録]。その後彼は、子どもには一度も会わせてもらっていない。それは、子どもに会えない不条理をメディアで書きまくったことで奥さん側の態度が硬化してしまったのだ。

 表現と実生活のはざまで揺れに揺れた末、子どもに会えなくなることを避けるため、冲方さんは、苦渋の選択として、警察や検察、裁判所批判という線で手記を展開することにしたのではないだろうか。彼が今後、子どもたちとの絆を回復することを願わずにはいられない。

Written by 西牟田靖

Photo by 冲方丁のこち留 こちら渋谷警察署留置場

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