1980年代に起きた「山一抗争」 「部屋住みヤクザ」の少し可笑しい話
TABLO / 2016年11月29日 13時0分
六代目山口組と神戸山口組の抗争が続いている。そこからさかのぼること30年。1980年代に起きた最大の裏社会の抗争、山口組と一和会の争い、通称「山一抗争」があった。昼間から拳銃の音が鳴り響いた、戦後最大の暴力団同士の抗争と言ってよいだろう。
筆者はその、激動の山一抗争を経験したある両組織の「部屋住み」と呼ばれる、組に寝泊まりして組長の世話などをする、当時の若いヤクザ達と会う機会があり、その時の状況を聞いてみた。所属した組織名は明かす事は出来ないが、関東の同じ時期に部屋住みした人間の経験談と比較して書き出してみよう。
まずは、組織、部屋住みを経験した体験談。山口組側部屋住みの話だ。
「当時はピリピリしてましたわ、それは当然ですわな。大きな組織が割れて戦っているんやから。部屋住みが一丸となった時は大掃除の最中ですわ。当時は偽名での預金が普通に出来た時代ですよね。大掃除していたら偽名の数億の預金通帳が出て来たんですよ、女の名前やったから多分姐さんの預金やった、と思います。親分に内緒で。そりゃ、ごっつい金額でしたよ。部屋住みに人間6人おったんですけど、みんな必死になって印鑑を探しましたわ、半日掛けて。どうやっておろすのかは全く考えなかったですわ、そこがヤクザの単純さですよね。頭の中は南国での休暇ですよ。どうやって時間を過ごそうか、どうやってここを離れるのか、みんな同じ考えやった、とちゃいますか。無言で必死に全部引っ繰り返して印鑑を探してましたから」
また、他の有力組織の人間はこの様に語った。
「うちは四代目の代行の組です。当時の竹中の若頭補佐から『兄弟、二週間待て。悪いようにはせえへんから』とはっきり言われたのを記憶しています。それでやった『うちが当代や』と素直に喜びました。部屋住み所か組員一同まとまりましたわ。ところが渡辺(渡辺芳則五代目山口組組長)の五代目が決まった。それは色々な組織の伝達が当然ありました。うちもきちんと伝達されましたわ。それで負けた、と思って親父の顔を見たらシュンとなってる。それでわしも親父どうするんですか、と聞いたらしゃーないいやんけ、と言われて一同シュンとなりましたわ」
また、反対に激動の山一抗争を遠目で見ていた、関東のある組織の人間はその当時の事を思い返してこの様な事を語った。
「山一抗争の頃の話ですか。私は新宿でシンナーの売買を仕切ってましたね。その頃だったと思います。もう売れに売れて人が足りなくなって、本部の部屋住みの人間を使う程人が足りなくなったんですよ。当時シンナー遊びなんかは全盛でしたからね。それで普段厳しい部屋住みの人間が喜んじゃっていい歳してシンナーにはまっちゃったんですよ。それで本部で部屋住みしていながら夜な夜なシンナーの缶を加えてラリッた状態になっちゃって。電話も呂律が回らない状況になっちゃって、大変でしたよ。黒幕は私だとばれてて、本部の月一回行われる月寄りで本部長がしかめっ面をしながら、マイクで『最近本部でシンナー遊びをしている者がいる、分かっているだろうが、自分たちは歴史ある一家である。そこの本部の人間が新ナーを吸っているとは何事か、博徒はやる事はそれでは無いはずだ』と延々と説教ですよ、目は私の方を向いて。あれはきつかってですね。本部長は敵が多かった人なので、他の人間からシャブならいいのか、とか私がやっていると薄々感づいている人間からはその当事者を処分しろ、とか色々な罵声を浴びて、今ではいい思い出ですよ。関西の厳しさは私らには無かったですね」
さらに山口組と対峙した一和会側の有力組織の人間は「甘いわ(笑)。だけどヤクザの部屋住みは厳しいけど漫画の世界ですわ。緊張感の中にも必ず楽しみを見つける。そんなもんでっしゃろ」
と多くを語らず締め括った。
条例に縛られてヤクザの事務所を訪れる人は一般人ではまずない世界であるが、普段、強面のヤクザの事務所でも極々日常の風景は笑えるモノがあるのだ。
Written by 花田歳彦
Photo by manfred majer
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