【てるみくらぶ騒動】旅行会社の詐欺はよくある?返金交渉の実体験
TABLO / 2017年3月30日 17時24分
格安メニューで業績を上げていた旅行会社『てるみくらぶ』の破産騒動が大きな話題となっている。破産申請の直前まで新聞広告を載せていたり、すでに海外に飛び立っている客(約2,500人)に対して「ホテルが予約できているかわからない、自力で対処して欲しい」といった無責任極まりない言葉を発するなど、まともな神経をしているとは言い難い対応には呆れるよりない。大袈裟ではなく、事件に巻き込まれたり、最悪の場合は死に繋がる可能性すらあるというのに。
だが、こうした旅行会社のトラブルは今に始まった事ではなく、「騙された」「説明と違う」といった声が常にネットのあちこちに散らばっているのが現状だ。しかも、今回のような格安をウリにした旅行会社だけではなく、超大手であってもニュースになるような悪質なトラブルが発生しているので、名の知れた旅行会社を使えば安全という訳でもない。
中でも記憶に新しいのは、JTBの社員が巻き起こした「偽装事件(2014年)」だろう。これは、修学旅行のバスの手配を忘れた男性社員が、生徒のふりをして学校に「修学旅行を中止しなければ自殺する」といった内容の手紙を送りつけ、警察の捜査によって真実が発覚したという事件だ。偽計業務妨害の容疑で逮捕された男によると、学校側の都合で修学旅行が中止になれば、旅行会社のミスが明るみにならずに済むという、実に軽率な考えだったという。
こうしたニュースになった出来事だけではなく、私自身にも旅行会社と揉めに揉めた実体験がある。何かの足しになるかもしれないので、少々長くなるがその時の経緯を書いておこう。
今から約10年前、私の妻が旅行会社(以下A社)の計画倒産とも言える悪質な手法の被害に遭った。妻がネットで見かけたメキシコ旅行の案内に興味を持ち、友人と女2人で海外旅行をしようと申し込みをした。ところが、旅行代金30万円を振り込んだ矢先にメキシコをハリケーンが襲い、TVで連日報道されるほどの大被害を出す。そのタイミングで何故かA社と連絡が取れなくなり、その間に航空機のキャンセルチャージ100%(出発日の3日前)になってしまう。
この時点で私は妻に警察に被害届を出すよう提案したが、その直後にA社から連絡が入り、「メキシコは飛行機が飛ぶかわからない」「ホテルが泊まれる状況かわからない」「なのでハワイ旅行ではどうですか?今からでも旅券が確保できます」と、メキシコからハワイへの目的地変更を打診して来た。
「長い休みが取れるのはこの先もうないかもしれない」という想いから、妻とその友人は疑いながらも、本当に天災のせいかもしれないとハワイ行きを承諾し、新たにメニューを組み直して貰った。だが、一度返金して新しく契約するのではなく、すでに振り込まれた1人30万円の旅行代金をそのまま流用し、別のメニューを組むのだという。いまどきハワイで30万円なんてどれだけのお大尽旅行なのかと言いたくなるが、この話も途中でA社と連絡が付かなくなるという展開に。
そこで流石に私も完全に黒だと断定し、妻と共にA社の所在地を確認しに行った。すると、雑居ビルの郵便受けに社名は書いてあったものの、不在通知やチラシの類がぎゅうぎゅう詰めになっており、明らかに営業している気配がない。
帰宅してA社のサイトを調べてみると、近畿日本ツーリストの特約店であるB社が親会社だという。B社は神奈川県の旅行業組合に所属していたので、万が一知らぬ存ぜぬで逃げを打たれた場合のために、まず組合に連絡をし、そこからの通達という形でB社に連絡を回してもらう事にした。結果的にこれが大正解だったようだ。
旅行業組合は非常に親身になってくれ、組合の担当者はA社に対して他にも同様の苦情が入っている事や、返金に向けた具体的な手順などを指南してくれた。そうこうしている内にB社からせっつかれたのか、失踪同然の状態だったA社の代表者から連絡が入り、旅行代金の返金を約束して来た。
その時のA社代表の言い分はこうだ。
「業績悪化により破産の申し立てを行う事になりました。つきましては、旅行代金は分割で支払わせていただきます。返済の方法は、私が働いて、その給料から月1万円程度を30回に分けてお支払するつもりです」
これを読んだ私と妻の感想は「30回払いって、それで時間を稼いで逃げる気だろ?」である。なんせこんなやり取りをしている間にも、旅行業組合には新たな被害者からの相談が続々と寄せられて来ていたというし、そもそもA社はこの期に及んでサイトの閉鎖などはせず、新規の申込みを受け付けていたのだ。そこまで厚顔無恥な人間なのだから、集めた金を返済にあてるとは考え難く、どちらかと言うと夜逃げの資金に回されると考えた方が現実的である。
そこで、まず旅行業組合に連絡をして情報を共有してもらい、続いて親会社であるB社にも連絡をし、「子会社の不始末なのだから親会社が弁償してくれないか」と交渉を開始した。これに対してB社が即答してくれず、逃げ腰の姿勢を感じ取ったため、最後の手段を使う事にした。
週刊誌記者の友人知人のツテを使い、B社に対して「詐欺事件の情報が入って来たので取材させて欲しい」と、複数の有名週刊誌の名前で電話をしてもらったのだ。
我ながらたちが悪い事はお詫び申し上げるが、ここまでしてやっと妻とその友人の旅行代金60万円が一括で返金されたのである。こんな大手メディアの名前を悪用したチンピラのような手段を使わねば、返金すらままならないのだ。
後からわかった話だが、A社は資金繰りが悪化して以降、後の客の入金を、その前の客の旅行費用に回すといった自転車操業を続けていたらしい。この辺りは『てるみくらぶ』と全く同じやり口だ。
という事は、私の妻が入金した金は、それより前の客の旅行費用にあてられていた訳で、ならば妻が返して貰った金は、どこの誰のお金だったのだろうか。それを考えると心苦しいが、当時の私にも妻にも、とりあえず30万円(友人分を入れたら60万円)を取り返す事で頭が一杯だった。
もしA社の被害に遭ってお金を取り返せなかった方がおられたら、その方々には深くお詫び申し上げたい。
このように、完全に被害者であるはずなのに、金を取り返したら取り返したで心が痛くなるのが、この手の旅行会社が巻き起こす詐欺事件の最も悪質な点ではないだろうか。
なお、今後似たような被害に遭った場合は、まずその旅行会社が何らかの組合に所属していないか、親会社がいないか調べ、そこを窓口にした方がいい。また、自転車操業で現金を回しているケースが多いだろうから、今ならばSNSなどを使って同様の被害に遭っている人がいないか情報を募り、なるべく大人数で返金の交渉をすべきだろう。
逆説的になるが、万が一の時に返金交渉できる相手(逃げ場のない有名な親会社など)がいない旅行会社には、申し込みなどしない方が無難かもしれない。
Written by 荒井禎雄
Photo by konstantin.tilikin
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