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また授賞できなかった村上春樹ファンの聖地に行ってみた|プチ鹿島の余計な下世話

TABLO / 2017年10月11日 17時0分

また授賞できなかった村上春樹ファンの聖地に行ってみた|プチ鹿島の余計な下世話

「ノーベル文学賞発表 カウントダウン パブリックビューイング」を見るためだ。千駄ヶ谷は村上春樹が創作活動を始めた地。

ハルキストが静かにそのときを待つ、いったいその現場はどんな雰囲気なんだろう。すると、鳩森八幡神社でイベントがおこなわれているという情報を2年前に知る。

 初めて行ってみたら、思っていたのと違った。ふつうのおじちゃん・おばちゃんで境内はいっぱいだったのだ。

 それもそのはず、このイベントは千駄ヶ谷の商店街の人たちが仕切っていたのである。テレビカメラを向けられたおじさんが「よくわかんねえけど今年こそとってほしいよ」と陽気にしゃべっていた。

 クラッカーがたくさん入ったビニール袋を持ったおじさんが近づいてきて「受賞したら鳴らしてね、今はダメだよ」。

 横を見れば、すでに一杯ひっかけてるおじさんも。ゴキゲンに商店街の仲間らしき人としゃべっている。その横では、ヤクルトのユニフォームを着たおじさんがクラッカーを握りしめるのも見えた。完全に地域の祭りと化していた。

 中継がはじまる。ベラルーシの作家スベトラーナ・アレクシエービッチ氏の名が言われたとき、会場中がポカン。

「え、え?」「なんて言った?」「なんか違うぞ」。

 去年もそうだ。

「ボブ・ディラン」という名前が聞こえたあと、商店街を代表してラーメン屋「ホープ軒」のおじさんが「来年がんばりましょう。どうもすいませんでした」とスピーチ。思い出したように境内に笑いが起きた。

「では、来年への期待を込めてクラッカーをみんなで鳴らしましょう」

 夜の神社に鳴るクラッカー。

〝文学のことはよくわかんないけど、オラが街にいた村上さんをみんなで応援しようや〟

 この雰囲気に思わず親しみを感じてしまった。

 村上春樹がノーベル文学賞の騒ぎに巻き込まれるたびに「ファンが騒ぎすぎ」「村上春樹は賞を欲しいなんてひと言も言ってない」という声も目にする。

 でもこの地に2年間通ううちに「もし村上春樹が受賞したら、このおじさんおばさんたちはどんな表情をするのだろう」と、いつの間にか興味の主役が移ってしまった。

 これ、ホントにノーベル文学賞をとっちゃったらどうなるんだろう。だから今年も行ってきた。

 誰に頑張れと言っていいかわからないけど、誰かを無性に応援したい感じ。そんな気分を従えつつ、その時を待った。

「カズオ・イシグロ」

 去年より、おととしより、耳になじみやすい発音だったが今年もあの名前ではなかった。淡々と片づけをはじめる皆さん。残念さはたしかに漂っていたけど、毎年恒例の近所の祭りが終わったという雰囲気だった。

 でも、いつかおじさんおばさんたちの狂喜乱舞する姿も見てみたくなった。うっかり始まる謎の胴上げとか見てみたい。というわけで来年も見に行くつもりです。

文/プチ鹿島

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