「ホームレスの方がマシ」 施設を飛び出し、万引きで逮捕 男が裁判で語った生活保護施設の実態とは?
TABLO / 2020年6月16日 10時55分
写真はイメージです
傍聴席から見た小柄で細身の西巻秀平(仮名、裁判当時54歳)の姿は、どこか神経質そうな雰囲気が漂っていました。
彼はコンビニでスポーツ新聞とタバコを万引きしたという窃盗罪で裁判を受けていました。スポーツ新聞でタバコを包み隠して精算せずに店外へ出たところを、防犯カメラで犯行の一部始終を見ていた店長によって現行犯逮捕されたのです。
捕まった当時の彼の所持金は177円。近所の公園で寝泊まりするホームレスでした。4ヶ月前までは生活保護を受けて施設で生活していましたが、その施設を飛び出してホームレスになってしまっていたのです。
このような裁判はとても頻繁にあります。あまりにもありふれた話です。
ですがこのありふれた話から考えていただきたいのです。「健康で文化的な最低限度の生活」とは何なのか、人間1人が生きていくとはどういうことなのか。
彼は国が保証している「健康で文化的な最低限度の生活」を棄ててホームレス生活を選びました。その方がマシだと判断したからです。
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彼は北海道の高校を卒業後、上京してきて建築関係の会社に就職しました。玉掛け、ユンボなど資格も多数取得しています。平凡に見えるかもしれません。それでも堅実に人生を歩んでいました。
彼の順調だった人生が暗転したのは49歳の時でした。糖尿病を発症したのです。喉の乾き、手の痺れ、倦怠感…もう働き続けることは出来なくなりました。
それ以降、生活保護を受けながら施設で生活することになりましたが、彼は施設での生活に耐えられず何度も飛び出して失踪しました。そして困窮し万引きで捕まるということを繰り返しました。今回のタバコの万引きは4回目の逮捕です。
「あの日は公園のベンチで寝てました。やることも予定もありませんでした。ラジオで天気が悪くなると聞きました。普段は落ちているタバコを拾って吸っているのですが、雨が降るとタバコが拾えないので盗もうと思ってコンビニに行きました。その後、雨がしのげる曳舟親水公園に行くつもりでした」
先述したように、彼は糖尿病を患っています。施設にいる間は毎日インシュリン注射を受けていましたが、施設を出てから一切の治療を受けていません。
彼が施設を出たのは逮捕される4ヶ月前です。逮捕後の検査では「血糖値500」という数値が出ました。こうして数値を書いてもピンときませんが、調べてみると「吐き気や嘔吐、あるいは意識が遠のく、昏睡に陥るなどの危険な状態に至る」可能性もある数値だそうです。
なぜ彼は命の危険を冒してまでも施設を飛び出すのでしょうか? 被告人質問からわかるのは、そこは彼にとって施設が耐え難い場所だったということです。
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――前にいた荒川区の施設はなんで出ちゃったんですか?
「人間関係がうまくいかなかったのと、ルールが厳しすぎて…。横断歩道を渡らないといけないルールがあるんですが、それ以外の道路を横ぎっただけで罰金とか…」
――じゃあ、今回の足立区の施設は?
「ちょっと、南京虫がひどすぎて…」
――南京虫? えっと、そういうのは施設の人とか役所に相談しなかったんですか?
「相談しました。しましたよ。でも足立区に言っても苦笑いされるだけで何もしてくれなくて」
――それは我慢できませんか?
「そりゃ少しくらいなら我慢しますよ。でも少しローラーかけたら50匹も60匹もくっついてくるんですよ」
そんなことか、と思われるかもしれません。ただ人には我慢できるものと我慢できないものがあり、その基準は人それぞれです。
そもそも、これが人間の住む環境とも思えません。相談をしても「苦笑いされるだけ」です。
元はと言えば、彼は病気が原因で働けなくなって生活保護を頼りました。そこには何の罪も咎もないはずです。それなのに何故、このようなまるで罰のような環境におかれなければならないのでしょうか?
これが「健康で文化的な最低限度の生活」とは、私にはどうしても思えません。(取材・文◎鈴木孔明)
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