「那須川天心vs武尊戦は実現させなければいけない」 RIZIN榊原CEOに聞いた

TABLO / 2020年7月18日 5時30分

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世間を驚かせた堀口恭司Vvs朝倉海戦(朝倉選手のKO勝利)

 

※こちらの記事はコロナ禍で苦境に立つ日本格闘技界 「RIZIN」逆襲なるか 榊原CEOに聞く 「格闘技界は無くなってしまうのか」からの続きです。

 

前編では、日本格闘技界の頂点のRIZINがコロナ禍で苦境に立たされながらも、何とか道を切り開く努力をしているという事を榊原信行CEOに伺いました。それでは、この苦境下で格闘技界は何をすべきなのか。榊原CEOのインタビューを引き続き掲載していきます。

 

堀口恭司参戦の意味の大きさ 「桜庭和志を彷彿させた」

――堀口選手の参戦で一気にRIZINの流れが変わった気がします。

「世界と戦える選手ですし、階級は当時フライ級ではあったけども、世界中から戦いを挑んで来られても、向き合えるファイターですね。PRIDEの時代の桜庭和志をイメージしていた部分もあったんですけどね。

髙田延彦で始まったPRIDEを大きく飛躍させたのは、世界を向こうに回してスカッとするような勝ち方をし続けた桜庭という、彼のキャラクターとイマジネーションがその時代のファンの心をつかんだわけじゃないですか。恭司に桜庭の魅力がすべてあるという事ではないけど、逆に桜庭が持っていない魅力を持っている。だったら堀口恭司を口説いて、日本の格闘技を盛り上げるために戻ってきてほしいっていう交渉をしたのが2016年の2月ぐらいからなんです」

――そこからRIZINっていうのは、よりファンに浸透したと思うんですけどね。

「そうですね。僕らの方向性を変えた、その象徴が堀口恭司。でも軽い階級で実力測定の場にすることが僕らの終点ではなく、本当に僕らが届けたいのは、格闘技の魅力とか堀口恭司の魅力をわかった人の、『その先』に届けたいんですよね」

――格闘技を知らない人に届けるということですか?

「そうです。野球とかサッカーに興味がある人たちにも支持されなければメジャースポーツになっていかないわけだから。格闘技村に住んでいる人たちに届けることももちろん重要です。そこが地熱を作るわけですから。でも地熱だけでは、ビッグバンは起こせない。

コアファンたちをないがしろにするんじゃなくて、その人たちが観たいものを実現させていくためには外側の人たちに興味を持ってもらい、渦を大きくしない限りは、いつまで経ってもコナー・マクレガーとかメイウェザーは海の向こうで、世界中の全然違う団体で戦う選手で、遠い存在でしかありえないわけだから。僕らの目標としてはそういうところに置いてありますから」

――夢がありますよね。

「何年かの計画で考えたときに、まずは堀口恭司に軸になってもらい日本の人たちが熱狂するようにする。日本というマーケットは、言っても世界で二番目に大きなスポーツマーケットだと思っているんで。ただアメリカが10とすると日本は1ぐらい。それでも日本のマーケットを僕らがベースとして持てれば、アメリカのビッグプロモーションと戦うことはできるかな、と」

 

――榊原さんの「向こう側」というのはなるほどと思いました。僕はラグビー部だったんですが、今回のラグビーワールドカップ日本開催で、もしかしたら初めて「向こう側の人」に届いたと思うんですよね。

「僕もラグビーが好きで昔から観ているんですけど、無茶苦茶面白いスポーツだし、やるのも面白いし、でも日本には受け入れられないスポーツだなってラグビー界の人たち自らほとんどがあきらめていたじゃないですか。けれど、今回のワールドカップで『向こう側』に届いた。バスケットボールでも八村塁選手が出てくると、日本人もイケるじゃん、みたいな。ラグビーがあんなに盛り上がるとは思わなかったけど」

――思わなかったですね。10年前の成績を見ていると。

「やっぱり強いってことだよね」

――今回のワールドカップで榊原さんがおっしゃった「向こう側」に届いたんだなっていう感じがしたので、格闘技もその向こう側に届くような突破口があれば、と思います。

「そうですね、それが堀口だったり那須川天心だったり選手が出てくることで、普段は格闘技を観ない人にも興味が湧くような流れを作らなくちゃいけませんね。ボクシングでいうと井上尚弥のような。やっぱり圧倒的な強さ、それを絶対的なものとして持っている選手がひとつ、勝てる可能性のある武器にはなるので」

 

格闘家とYouTube

――そういった「普及」という面で言うと、格闘家でYouTubeをやる選手が多くなりました。朝倉未来選手、朝倉海選手が代表的だと思いますが。

「YouTubeでの圧倒的な支持というか登録者数を持っているというのはとても大切なことではあると思います。他のメジャースポーツと比べても格闘技の選手たちのフォロワー数とか登録者数って多いんですよ。
そういう意味でいうとチャンスはあるのかなという気はするんですよね。興味がある人も実はたくさんいるけど、興味はある、認識はしている、でもわざわざ観に行こうとか、「今日RIZINだよ!」ってみんなをワクワクドキドキハラハラさせるだけの期待感を持ってもらえているのか、もらえてないかっていうのが大きなポイントなんです。

舞台だけではできないし選手だけでもできないので、そこは選手とともに作り上げたいですね。ようやくRIZINにもそういう熱がつきつつあるので、そのなかで求心力を持っている選手たちを送り出しつつある、というのがいまのフェーズ。コロナの影響でいったん立ち止まってしまっていもますが、この2020年、オリンピックも含めてスポーツに注目が集まるタイミングでもあるので、いろんなことを考えてはいたんですけどね」

――スポーツや競技が市民権を得ることは興行上、大切だと思うんですけど、そのへんは何かお考えになってますか? 例えば「このコロナ禍で格闘技やるの?」みたいなことを言う人もいると思うんですけど。それは市民権がまだ得れられていないからだと思うのですが。

「市民権を得る、メジャー感を持ってもらうためにも絶対に必要な事。それは地上波で放送する事ですよ。それが格闘技の再生・復活にとって大切なファクターだし、そういうことをわかりやすく象徴するのがフジテレビのゴールデンタイム。そして大晦日に『紅白歌合戦』『ガキの使いやあらへんで!』の裏で5時間の放送枠を持っているっていうことが、ここが担保できたことでいまの格闘技の熱なり、もう一回格闘技が復活に向けて動き出したということのわかりやすい象徴だと思うんですね」

――大晦日はデカいですね。

「選手たちも、今、地上波ゴールデンで放送されるっていうのがRIZINだけなんで、そういうことでいうとRIZINに上がりたいという大きなモチベーションというか理由にはなっていますよね」

――地上波放送でやる格闘技はボクシングとRIZINだけですし。

「そうですね。それとこれはみんなの生活習慣のなかで大晦日という特別な日に『紅白』の裏にまた格闘技が戻ってきたということは僕らにとっては大きなことだし、それが僕らをメジャーにするうえではどうしても欠かせないファクターではあるっていうことです」

 

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「夢のカード」の実現は

――格闘技ではいまだに語り継がれる試合があります。ボクシングだったら辰吉丈一郎vs薬師寺保栄とか、畑山隆則vs坂本博之とか、山本“KID”徳郁vs魔裟斗みたいな。ファンがなぜ格闘技を見るのかと言うとそういった何年経っても語り継がれる試合を見たい、その目撃者になりたいというのが視聴動機だと思います。それが格闘技の地位をアップさせるものでもあるとも思います。そういう夢のカードは実現できるものなんでしょうか。

「実現はできるんじゃないですか。実現させなくちゃいけないし。そういうのって磨いていって作り出せるものでもないので、いろいろな流れがそれぞれの選手にあったり」

――しがらみの事を仰っているのでしょうか。

「しがらみもあったり、そこまでの対戦の中でいろんな選手たちとの勝ったり負けたりっていう歴史があって作り出される熱なので、これもやるタイミングですね。僕からすると桜庭と田村潔司なんていうのはもっと早くPRIDEのなかで実現しておけばホントに伝説的というか、語り継がれる、記憶に残る総合格闘技の試合になったはずなんだけど、遅かった。やっぱり旬のタイミングでカードを切れるというか、やらせる機会を作ることは大事だし、そういう意味ではこの3~4年はたとえば武尊と天心とかは、みんなの記憶に残って語り継がれていくチャンスがあると思います」

――やれば間違いなく格闘史に語り継がれる試合になると思うんですよ。

「ファンが観たいと思っている、みんなの中でわかりやすくマッチメイクが成り立って、観たい試合っていったらそれ(天心vs武尊)じゃないですか。そこはね、ここまでファンの人とか、本人たちもやりたいと思っていることだから実現させてあげられないかな、実現させる方法はないかなっていうのは常に僕も考えてはいるんですけどね」

――選手はやりたいに決まってますもんね。あとは事務方の努力だと思うのですが。でも以前は、武尊選手ってRIZINに上がってましたよね。

「上がってくれていたときもあるんですけどね。その当時と比べて、K-1とRIZINに距離ができちゃっていますから、そこをどう埋めるのか。ただ現実的には団体間の、K-1とRIZINだけの問題だけでもないんでね」

――どの媒体で放送するとか、ですか?

「当然、放送局がどうなるんだとか、いろんな大人の事情がありますね。」

――やっぱりファンは格闘技に夢を見たいですからね。

「みんながいろいろ難しい調整を乗り越えてそれを実現させたということで、K-1もそうだしRIZINも団体に対しての評価も上がるはずだし」

――ホントにそう思いますね、日本の格闘技すごいんだっていうのが世界にも広がる気がします。

「広がると思いますね」

――ぜひお願いします。

「頑張ってやっていきます」

 

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「オリンピアの参戦と国立競技場開催を狙っていく」

――近々の試合というのは8月の9日、10日ですか?

「そうですね。もっと前にいろんなことも考えながら準備や企画をしていたんですが、結果リスタートとして旗を立てるのは8月の9日、10日にぴあアリーナさんで。ぴあアリーナさんも今年満を持して4月にオープンするはずだった最新のアリーナなんです」

――盛り上がって欲しいですね。リスタートを切るRIZINにとってこんな選手が必要だとか、いまこの選手がいいよね、みたいなのはありますか?

「ポイントは東京オリンピックですね。柔道やレスリングのトップアスリートが、総合格闘技に転向してくること、もっと言えばメダルをひっさげて転向してくれるようなことが実現できれば、RIZINがもう一歩上のステージに上がることができるチャンスかなと思います」

――つまり、オリンピア達ですか。

「そうです。実際そういうところの選手たちとは水面下で交渉はしていますから。ただできればオリンピックを今年やって、爆発的に国民のヒーローになった選手が電撃的にRIZIN参戦するっていうのが理想だったですけどね」

――それは楽しみですけど、来年もオリンピックやりそうもないですからね。

「うーん。厳しいでしょうね。ある人が日本のオリンピックは2032年だって言ってましたよ。パリに行ってアメリカ行ってそのあとですよ。大陸ごとの開催の順番の問題もあるんで、ヨーロッパ行ってアメリカ行ってアジアに戻ってくるっていうところで」

――コロナ禍で言えばブラジルの選手とかアメリカの選手は出国は難しいと思いますね。

「自国での予選ができないじゃないですか。秋から始めないと、来年の夏にその国の代表選手として選ばれた人が来るっていう選考会ができないですから。そこは早くハッキリ言ったほうがいいですよ、往生際が悪いことしてないで。国立競技場も有明に作った施設もほかの形で使うっていうことに割り切っていかないと」

――世界の雰囲気から、それどころじゃないという感じですもんね。

「オリンピックにかぎらず、次の年の世界陸上にしても各競技の世界選手権も難しいんじゃないですか」

――ワクチンが開発されないかぎり無理だと思いますね。

「無理ですよね。逆にそれであればオリンピックに出るはずだったアスリートが、オリンピックもないしプロの世界に行こうっていう選手が早く出てきてくれるといいなと思っています」

――そうかもしれませんね。それであれば、RIZINにオリンピアが出るという感じでいいかもしれません。

「そうですね。人生一度きりのタイミングがあったとして、東京オリンピックという自国開催なんて、「どれだけ俺たち運がよかったんだ」というのができなくなったわけでから。だったらプロのリングで世界を向こうに回して戦ってくれたらいいな、と思っています」

――つまり、オリンピックの代わりにはならないにしろ、それに近いような大会にしたいという事でしょうか。

 

「ですから、来年は国立競技場は、使わないんだから貸してもらうとか、ですね(笑)。維持費だけでも年間大変な額がかかるわけじゃないですか。だったら僕らが『格闘技の祭典』をしますよ(笑)」

――ホントですね。国立競技場開催は、めちゃめちゃ夢があるので頑張っていただきたいです。

「そういう将来に向けたリスタートが8月9日、10日です。そこは最大限の感染予防対策をしたうえで」

――やらないとまた世間が(苦笑)。

「はい。ただ7月の10日からはJリーグもプロ野球も5000人入れてスタートしますから」

――半分は入れるんですよね。

「いや、ドームでいえば3~4万人入りますからそれ以下ですね。でも、5000人で採算取っていくのは無理ですから。われわれだって「ぴあアリーナ」で、1万人の会場で1日5000人しか入れられないわけだから、そうすると売上は半減じゃないですか。チケットの収入が半減することを担う、さらなる新しい事業の収入の柱を立てないといけません。選手のファイトマネーも半額、プロダクションコストも半額、何もかも半額にして大会やっていくのかっていうことになりますから」

――原価率を下げざるを得ない?

「原価率を下げるか、チケットセールス以外の収入項目を立てる。それかチケット代を倍にする。今まで1万円だった平均チケット単価を2万円にするとか、そういうことでもしないと今までの環境は維持できないわけですよ。当然、経費の削減に向けて最大限の努力はしますが、エンターテインメントでみんなにワクワクドキドキを売る仕事ですから、『めちゃくちゃチープで貧乏くさっ!』みたいになるのは違うと思うので」

――演出の有無によって大会のブランドが下がりますからね。

「そう。あとはネットの配信とか新しい形での事業モデルを作り出すっていうことだと思います」

 

榊原CEOが求む色気のある選手とは「最近はナルシスト選手が多い。ナルシストって見たいですか?」

――入場から試合をやって、最後にマイク、あるいはマイクをしないまでも退場していく姿をファンに印象づけるのがアマとプロの格闘家の違いだと思うんですけど、榊原さんから見てそういう選手ってどなたかいらっしゃいますか?

「(即座に)昔でいえば圧倒的に桜庭和志じゃないですか?」

――やっぱりそうですか。

「プロとして見せる魅せるという意識においてはそうでしょう。だって、公言した技を毎試合披露するんですよ。そんな選手は後にも先にもいないですよ。それも自分の開発した技を。「炎のコマ」「恥ずかし固め」「モンゴリアンチョップ」とかね。ホイス戦でモンゴリアンチョップをやるって言ってやるんですよ。そんな選手はこれだけ格闘技が進化しても出ないですよ。オリジナル技を持っている選手はいますけど、それが有言実行できた選手は僕が記憶するなかでは桜庭だけですね」

――入場も入場曲(SPEED TK RE-MIX)もカッコよかったですよね。

「そうですね。魅せるということに関しては、毎回マスク被ってきたり、常にファンを喜ばせることを考え、それをリアルファイトの場所で実現する才能やユーモアのセンスを持っていたってことですよね。

そこと比べちゃうと、現状でRIZINに出てきている選手っていうのは、ナルシストはいっぱいいるんですけど、ナルシストなんて見たくないんですよ(笑)。そこを勘違いして、『俺は魅せているんだ』て言われてもね。そうではなく、仮に自分を落としてでもお客を楽しませるのがエンターテイナーなんだから。カッコつけで、キメた曲にノリノリで長い時間をかけて出てきても、それでファンはノレないっていう(苦笑)」

――……それは痛いですね。

「まぁ、誰もができることではないですけどね。色気があって、確固たる世界観を持って、その選手が出てくると、会場の空気が変えられるみたいな選手って、一握りですから」

―ーそういう選手は今、誰ですか?

「やっぱり天心はそこに近いものがありますね」

――矢沢永吉さんの曲がかかると、会場のお客さんの空気が変わりますね。

「天心にはそういうところがあるのかなという気がしますけど、ここからの那須川天心の男としての色気とか、戦う男の哀愁とか、どう転がしていくか、昇華していくかっていうのは見ものですね」

――まだ20代前半ですもんね。

「22歳ですからね。今までは若さと弾けるようなエネルギーを前面に出すことでよかったんだろうけど」

――少し以前とは言え、去年リングに上がった五味隆典さんの入場シーンが好きで、曲がかかった途端に会場が変わります。あの曲は毎日テンション上げるために聴いてます。本サイトでインタビューした中では朝倉未来選手もすごくいいですね。色気があるなと思いました。

「そうだね、未来とか(朝倉)海はどっちかというと、飾らない姿で自分の世界観で曲と雰囲気が合っていますよね」

――合っています。あるいは堀口選手がニコニコしてハイタッチするのもいいですし。

「プロである以上はそういうところまでエンターテイナーとして最高であることを求められるので。簡単なことではないですが、RIZINのリングに上がる以上は、その意識を持ってもらいたいなと思います」

と、いう事で榊原社長には率直に胸の内を語って頂きました。このコロナという逆風の中、いかに格闘技界盛り上るのか、苦心と熱を感じました。盛り上げるにはやはりの単独の団体だけではこの、厳しい現実を乗り越えるのは難しい。そこでインタビュー中に名前が出た、もう一つのメジャー団体K-1に取材を申し込んでみました。次号にて。(文◎久田将義  写真◎©RIZIN FF)

 

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