病原菌の国・東京から田舎へお盆帰省した話 義母の開口一番「東京差別ギャグ」に動揺
TABLO / 2020年8月13日 10時50分
写真はイメージです
8月13日から、いよいよ暦の上でのお盆が始まりました。すでに今月頭から盆帰省に関して国や各知事、そして世論と様々な声があがっていますが、筆者は8月8日から9日にかけて、一足お先に帰省してきました、
“夜の街”擁する東京都某区から、夫の実家がある東海某県へ。
果たして練馬ナンバーの筆者一家の車は、石を投げられてしまうのかーー!?
ビビる義父、自粛を促す報道
帰省から遡ること2週間、義母から豪華なハムが届きました。
「今年は帰れんやらあ? 無理せんでええんやからね。わたしも孫たちもあんたらに会いたいけど、お父さんがビビってますよ」
その頃、東京都の感染者数は300人の大台に乗りつつあったことで、さすがにわたしたちが帰省をしないと踏み、先回りして気を使を使ってくれ“お土産”を送ってくれたのです。
義父は介護施設でパートをしており、施設長から「くれぐれも迷惑をかけないように」と、毎日口すっぱく言われていると言います。高齢者ばかりの介護施設でそうしたアナウンスが行われるのは当然でしょう。だから、筆者は夫を通じ、義母にこう伝えました。
「ずっとマスクもしているし、ソーシャルディスタンスも守るから。顔を見せに行きます」
なんでも受け入れる精神の義母は、「ほうか。なら遠いので気をつけて来てね。みんな待ってます」と、やはりここでも受け入れてくれました。
しかし、日を追うごとになにやらマスメディアが物々しくなってゆきます。帰省に関するアンケートを取り「帰省しない派70%超」と、圧倒的多数決を見せつけマイノリティをひるませたり、「各県知事が、帰省を控えるようにアナウンス」と報じ、そうこうしているうちに当の東海某県が緊急事態宣言を出すではないですか。
さらに8月6日、東京都知事の小池百合子も、帰省予定の人たちに二の足を踏むよう後押しします。帰省前日、わたしたちはすでに夫の実家には宿泊しないことを決め、実家から2時間の距離にある宿に予約を済ませた直後のことでした。
「この夏は特別な夏。コロナに打ち勝つのが最優先の夏。都外への旅行、帰省についてはお控えいただきたい。離れて暮らす家族、親族とは電話などを通じて話してほしい」
時同じくして、義実家で同居する義兄から夫あてに、きっと百合子の報を見たのでしょう、こんなメールが届いたのです。
「東京民であろうか、おまえの実家はここや。症状がないなら堂々と来てくれ」
“東京民”って強めのカテゴライズがちょっと気になるものの、た、頼もしい……! ですが、まだ続きがありました。
「でも、やっぱりここは田舎だし、東京ナンバーは目立つ。うちの市はまだ一人も感染者が出ていないから敏感になってるしな。だから、新幹線で来るなり、こっちの移動はうちの車を使うなりすれば、余計なトラブルは回避できると思う。みんな楽しみにしてるから、気をつけてきてな」
以前話題になった、岩手に住む実父とラインのやりとりをしたというツイッターユーザーの件が、頭をよぎります。余計なトラブルって……一体なんだ……すごく……気になる……!
でもまあ、みんな楽しみにしてくれているし来てくれと言っているので、行かない選択肢はありませんよね。とはいえ4月に購入したばかりの車(中古車)に石を投げられるのもイヤだし、本当に東京差別の実態があるのかという筆者の好奇心のせいで義実家が村八分にされてもイヤなので、こうした計画を立てました。
1.車で行き、実家から1時間離れた高速ICで降りる。
2.その最寄駅に駐車して電車に乗り、30分かけて実家最寄駅へ。
3.マスク着用で墓参り後、だだっ広い居間でマスク着用でお茶。
4.1時間後に来る電車で、乗車駅に戻る。
どうですか、つけ入る隙のないソーシャルディスタンス。これを義母に伝えると呆れ気味で、「そんなことするなら無理して来なくていい」と言いましたが、「子どもたちがそっちの遊園地に行くのを楽しみにしているから、帰省はむしろついで」と伝えると、
「ほうか、なら気をつけてきてね」
と、やはりあっさりと受け入れてくれました。さらに受け入れるだけではなく、「どうせならお昼ご飯一緒に食べよう」となあなあになりそうになってきたので、ぴしゃりと断りました。きっとこのとき「じゃあ、せっかくだから……」と緩み、一緒の食事をして家族間クラスター……といったパターンは、きっとこれまでの感染者の方々のなかにあったのだろうなと思います。
参考記事:「コロナはただの風邪!」と叫ぶ変な人がいつの間にか集団化!? “山手線ジャック”でマスク客を威圧 見て見ぬふりをした警察の責任は大きい | TABLO
いざ、東京から東海某県へ
さて、あらためて気を引き締めた我々は、夜が明けたばかりの8日早朝、いざ東海某県へ。首都高を抜けると、たしかに東京ナンバーが少ないような気がします。柏に奈良など、無傾向にバラバラ。途中のSAでも仲間の練馬ナンバーは1台も見つけられず、ちらほら足立ナンバー、多摩ナンバーがある程度。さらに東海某県に入ると、見事に同県のナンバーにしか会いません。まあ例年の帰省時もそうなのかもしれませんが。
実家への電車の出発時刻までは、近辺の有名観光地を散策。路駐した車から降り、おだんごを買いテラス席で食べても「これも食べやあ。サービスやで」「スプーンいるやらあ? みたらしすくってな」と、ものすごい親切にしてくれる。あっったか〜……。
そして電車に30分揺られ実家に到着すると、義母が駅まで来てくれていました。もちろん、マスク姿。そして開口一番、
「車にペンキ塗られんかったか?(笑)」
と、東京差別ジョークをかましてきます。さらにビビっているはずの義父も同席し、義弟一家も来てくれており(義兄は不在)、お互いの心身の健康状態を確かめ合うことができました。電車の時間になると総出でホームまでお見送り。電車がトンネルに入り見えなくなるまで、手を振り続けてくれたのです。あっったか〜……。
「いやー、みんな優しいねえ。帰省してよかったねえ」
宿への車中、夫に言うと、実は義父が、いつになく真剣な表情でこんなことを漏らしていたと教えてくれました。
「だいぶ最初の頃、X市で夫婦が感染して死んでしまったんや。夫婦は感染後に人の多い場所に出歩いていたとかで、その家の娘がずいぶんな中傷にあったらしいんや。で、娘さん、自殺したらしいぞ。だからうちも、コロナが出たら引っ越さなあかんのや」
調べると、たしかに感染したX市在住の夫婦がともに死亡した報道はありました。ですが、「その娘が自殺した」という事実まで追うことはできず。義父は自分の姉から聞いたといい、ツイッター上には義父と同じように「そういう噂を聞いた」というひとが、数人ほどいることが確認できました。
その日の夕方、宿に着き現住所を記帳しても、宿の大将は顔色ひとつ変えず筆者らの子どもを見て、「この子、トイレ行きたいんやないかい? あっちやぞ。早く行ってあげな」と親切に促してくれます。隣県には「東京都民お断り」と掲げる宿も見つけましたが、ここにはそうしたピリピリムードは一切ありません。
都民に対して抱くイメージに感じるギャップ
夜はタクシーで地元の焼肉店へ。運転手と世間話をしてみると、
「今年は壊滅的やね。ここらの花火大会もなくなったし、ほら、あそこに見えるホテルあるやろ? あそこ、軽症感染者の受け入れホテルにしたんやて」
すると子どもが、急に核心をつきます。
「とうきょうのひとはくるの〜?」
筆者は「ちょ!」と思いましたが、気になる運転手の反応はというと。
「と、東京かあ〜……あはは(苦笑)おらんなあ(苦笑)」
明らかに戸惑いが感じられます。ここで子どもが「おれたちとうきょうからきたよ」と言わなくてよかった、と安心してしまいました。
翌日、近辺の遊園地で遊ぶことに。数年前のGWに来た際に、客が20組ほどしかおらず心配になるような遊園地でしたが、プール開催中のこの時期、駐車場が半分以上埋まっているようで、ほっ。スタッフのおじさんに話を聞くと、「去年のこの時期は3000人来たでな。今日は300人や」と、照りつける太陽に目を細めながら教えてくれるので、思わず「乗って応援!」と拳をあげ、アトラクションに散財しまくり。
十分に東海某県を満喫したところで、帰路へ。車中、こんな報道を目の当たりにし、思わず「マジで!?」と声をあげてしまいました。
<玄関先に“中傷”するビラ 青森の実家に帰省>
FNNプライムオンラインによると、「帰省したことを中傷するビラが置かれていた」といい、被害を受けた男性は、「ニュースの中でも取り上げられてはいたので、まさか青森でもそういうことが起きてるとは思ってもなかった」とコメント。ビラには、こう書かれていました。
関連記事:東京都民よ、岩手県民のリテラシーを見習え 新型コロナ感染者ゼロの理由「岩手県第一号になっていはいけない」 | TABLO
「なんでこの時期に東京から来るのですか? 知事がテレビで言っているでしょうが!! 知ってるのかよ!! 良い年しい、何を考えて居るんですか? この辺りは小さい子どもも居るのです。そして高齢者もでる。さっさと帰って下さい!! 皆の迷惑になります。安全だと言いきれますか??」
すぐに夫が義兄に、「そっちにこういうビラ貼ってない? 大丈夫?」と身の安全を確認するメールを送ると。
「うちは真っ当なご近所付き合いしているし大丈夫やろ(笑)」
「それだけ東京は未知の国ってことやね。田舎からすると。東京行ったら100%かかると思われてるから」
この言葉に、1月末から現在までまったくの無感染ですごしている都民の筆者たちと、報道でしか東京の姿を知ることができない人たちとの間に、とてつもないギャップが生じていることがわかりました。
でも、筆者たちは差別に合わなかったし、実家の人たちからの感染したという報告は今のところなし。「東京は100%感染する」「田舎は100%差別する」という他人が作った空気に乗らず、自分の目で確かめることができて、よかったのかもしれません。
実態は掴めないけれど、空気はたしかに漂う、感染者や疑わしき地域の人間への差別心。それは、新型コロナウィルスを含んだ飛沫が空気に乗るように。感染するなら、差別心には感染したくない、コロナだけで十分だな、そう思うに至った、特別な、2020年・夏。(文◎春山有子)
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