「灼熱のマンホールでザリガニを焼いて食べた」 足立区で夏を満喫する子どもたち 環七開通前夜
TABLO / 2020年8月20日 10時50分
写真はイメージです。
原稿依頼は「昔、足立区で真夏にマンホールで目玉焼きを作ったって話を」ということだったが、さすがに目玉焼きの記憶は自分にはない。まぁ、自分が育った昭和30年代前半の足立区なら、ありえなくはない話だけど……。
こういう記憶はある。釣ったアメリカザリガニ、通称マッカチン(これは足立だけでなく多くの地域でこう呼ばれていた)を時にフライパン代わりに灼熱の道に置いたという記憶。ただ、それを食べたかどうかは定かではない。
マッカチンは、もともと大正時代、アメリカが食用として輸入したということだから食べられなくはない。食材としてフレンチに使われているので、味もかなりいけてる。食糧事情がまだ十分でない昭和30年代の足立区なら夕飯にマッカチンが並んでいてもおかしくはないし、事実自分も食べたことはある。面白くない話にはなるが、誰かの家のフライパンで焼いてだが。
味はよく覚えていないが、不味くはなかった。身が小さく腹の足しにはならず、頻繁に食卓に並んだということはない。
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こういう自然の食材を食べることは当時珍しくなかった。足立区は、東京オリンピックが開催された1964年以前は少なくとも北千住から川向こう側はいたるところに東南アジアに匹敵するかのような自然の宝庫があった。自分が育った、島根、平野、淵江、中央本町あたりは、環七が開通する前はまさにここはカンボジア? と言ってもおかしくないくらい。
夕飯の味噌汁の具材によくお袋に頼まれて家の裏の草っ原からセリを取ってきたのをよく覚えている。たまのご馳走は近所の釣り好きのオヤジが釣ってきたふなや鯉などの川魚だ。近所中が集まりみんなで分け合った。今考えたら、川魚でよく食あたりしなかったものだ。
こんな話をすると嘘だろうと言われてしまうが、おそらく同時代で育った足立区民は皆共通の体験があるだろう。台風が来ると荒川が氾濫して、ボートや手作りのイカダで移動したものだ。台風後の家の庭にはカメや雷魚が流れ着き、我が家ではカメを飼っていた。
楽しみだったのは足立区民プール、確か今の足立区役所のあたりにあったはずだ。夏はほぼ毎日ここに入り浸って遊んでいたが、ここの鬼門は知らない奴らとの小競り合い。歳が一つ違うだけで、大人と子供ぐらい力に差があったので、何回も他の地域のでかいガキに脅かされていた。それでも大きな喧嘩にはならなかったから可愛いものだけど。
ちなみに自分は夏になるとよくオデキができてしまい、このオデキはプールに飛び込むとその勢いで破裂してすっかり帰る頃にはオデキが治ってしまっていた。思えば、自分のウミはきっと誰かの口に入ったんだろうな……。
そしてプール帰りに駄菓子屋でかき氷を食い、そしてチャリンコで池や原っぱに出向き、マッカチンを釣り、バッタやカエルを取りに行く。カエルは皮をむいて遊んだり、2B(花火で爆発する)で生きたカエルを爆破して遊ぶ。足立区のガキは残酷だった。
また、夏の道端でよく野良犬が交尾していたのを思い出す。何をしているかわからず、よく石をぶつけて遊んだものだが、いい所を邪魔していたようだ。
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足立区は自然も豊富なら町工場もいたるところにあり、クソ暑いこの時期でも日がなガチャンゴチョンと機械の音が常にBGM。子ども心に大きくなったら、こういう工場で働くのだけは嫌だと思っていた。
夜はテレビのある家でよく海外ドラマ「ララミー牧場」「ミステリーゾーン」「コンバット」「チビッコギャング」そして「プロレス中継」を他人の家族と大喜びで見た。大人も一緒だったので、足立区の大人の知能程度も窺い知れる。
テレビで震えたのは「恐怖のミイラ男」これは怖くて、これを見た後、自分の家に帰るのがマジ怖かった。これはフリーライターの本橋信宏氏も同じ体験を話していた。彼も自分と同じ1956年生まれ。
こうして楽しい夏は終わる。宿題した記憶は全くない。宿題出てのかな足立区は?
思い返すと、今年のコロナ禍に似た夏があった。確か昭和37~38年頃の話だと記憶しているが、夏のある時期ほとんど外に出れなかったのだ。アオバアリガタハネカクシという羽虫に刺されると瞬時に死んでしまう、という噂が出回り、恐れおののていたからだ。それらしき羽虫が家の蚊帳に入ろうものなら大パニックになった。
この恐怖の都市伝説は後に泉麻人氏がコラムで書いていた。「B級ニュース図鑑」だったかな。泉麻人氏も1956年うまれ。彼は中野育ちらしいから、大都会中野でも自分と同じような体験をしたと思うと、これは東京中の都市伝説だったのだろう。
ちなみに、この羽虫全く害も何もなかったとは後年明かされた。ネットがないこの時代ならではだけど、何かほのぼのすると思うのは自分だけだろうか。
夏は楽しく面白く、毎日が好奇心に満ちていた記憶しかない。そういう意味ではこのクソ暑い時期にマスクをする子どもを見ると、辛いもの感じてしまう。(文◎比嘉健二 元雑誌『GON!』『ティーンズロード』等編集長)
あわせて読む:元ミリオン出版社長・比嘉健二(「GON!」など元編集長)市ヶ谷第5ミナミビル ミリオン出版回想記 | TABLO
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