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この状況で大会をやる事の意義とは RIZIN榊原CEOインタビュー

TABLO / 2020年8月28日 9時50分

この状況で大会をやる事の意義とは RIZIN榊原CEOインタビュー

RIZINバンタム級ベルトを賭けて戦った扇久保選手(左)と朝倉海選手。

コロナ禍でイベント、コンサートが軒並み中止に追い込まれたり、縮小したりしました。格闘技も同様です。3月22日、K-1がさいたまスーパーアリーナで興行を敢行し物議を醸しました。

その後、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫に緊急事態宣言が発出。これを受け、地上波で唯一放送をしている国内最大の格闘技団体RIZINが4月19日の大会を中止。

そして、8月9日、10日の2days。RIZINは「ぴあアリーナMM」で『RIZIN.22』『RIZIN.23』を敢行しました。客席を大幅に減らした大会でした。選手もコロナ禍のため外国人選手も呼べない中、全国的には無名の選手たちも奮闘。正直、盛り上がった大会でもあり、格闘家たちの「熱」を感じた大会でした。

前回同様、RIZIN代表(CEO)の榊原信行氏に、今後の格闘技界の展望と榊原氏の「熱」についてお伺いしてきました。(文・久田将義)

 

関連記事:コロナ禍で苦境に立つ日本格闘技界 「RIZIN」逆襲なるか 榊原CEOに聞く 「格闘技界は無くなってしまうのか」(前編) | TABLO

 

●「コロナ対策はやれるだけの事はやりました」

――前回のインタビューは8月の大会前でした。そこから8月までにいきなり感染者数が増えたときがありましたよね。榊原さんご自身に動揺などありませんでした?

「感染者数が増えた事に対してはあんまり動揺はなかったですね」

――関係なかったですか。

「もちろん数が増えたことは大変ですけど、僕は基本的に『正しく恐れるべき』だと思っています。現状を冷静に見れば、政府が再度、緊急事態宣言を出すとか、5000人の上限からまた無観客にするとかっていうことはよっぽどの事が無い限り大丈夫だと。その数字は冷静に分析していたので、不安はそんなになかったです」

――8月の大会でしたが、正直、無名の選手が多かったですよね。だけど非常に内容が素晴しかったと思いました。総評的にはどうでしたか?

「選手たちもホントに頑張っていましたね。お客さんにはここまで厳格に声を出してはいけないとか、常にマスクをしてくださいとか、この暑いなかでそういうことを求めながらではありました。けど、選手は戦うことに、お客さんはライブを見ることに飢えていたからだと思います。この観戦ルールが100パーセント守られていたかというと若干疑問はありますが、お客さんたちには、そういうストレスを与えてしまったにもかかわらず、会場もすごく熱気があって盛り上がりましたね」

――あの大会を見て、僕は「社会における格闘技の意義」みたいなことを考えたんですけど。つまり感染者を格闘技の大会から出さないという。

「リングに上がる人たちは全員PCR検査をやるということ。観客に協力してもらうのはマスク、検温、消毒ですね。あとは厚生省のアプリのCOCOAのダウンロードを呼びかけたり、事前に名前や住所を登録してもらったりして感染者が出た際になるべく追跡できるような態勢を整えました。リング上を抗菌し、光触媒の菌を殺すための抗菌を施したりもしました。このコロナ禍でやれる対策は最大限やってはみたっていうところですね」

――そろそろ大会から2週間なので、感染者が出なければいいですね。

「RIZINの会場で感染したかのか、それとも来る途中の電車で感染したのか…というのも正直わからないんですけどね。もちろん最大限のことをやって、それでも感染する……クラスターが起きる場合もゼロではないかもしれないけど、やるだけのことはやったんで仕方ないというふうに受け止めるしかないだろうな、と。それでRIZINがコロナに対してルーズだって言われちゃうと困りますけど」

――僕はスカパーで観ていたのですけど、会場は換気がしやすい風通しの良いところではなかったですか?  ドアを開けると幹線道路が見えて。

「そうですね、扉を開けて換気をしたんですけど、それで暑くて1日目はお客さんがうだっちゃって。だから難しいところです」

――これもしょうがないのかもしれないですけど、天心選手がリングに上がったときに大声を上げるお客さんがいました。そこは会場のアナウンスでと注意をうながして頑張るしかないですよね。

「そうですね。どうしても声が出ちゃうのは……」

(笹原圭一広報担当)「声が出ちゃう気持ちはわかりますけどね。場内アナウンスと係員が言って回るというのはやっていました」

●会見での「RIZINに命を懸けています」の本意

――ところで、大会前の記者会見で榊原さんが、「恥ずかしいんですけど50いくつにもなってRIZINに命を懸けているんです」という主旨の事をおっしゃってたのが非常に記憶に残ってます。僕は全く恥ずかしくないと思いました。コロナの時期だから、RIZINの火を、格闘技の火を消さないっていう意味での体を張る、命を張るみたいな発言だったんですか?

「2015年に再スタートするときに、『命懸けでやる』って宣言したんです。それは40代前半でUFCにバイアウトすると決めた後悔がすごくあったからなんです。PRIDEの営業権を譲渡したことに対して後悔と罪の意識と、自分たちで作り上げたPRIDEの10年間の軌跡が自分の判断によってそのあと続かなかったわけですから。だからこそRIZINは命がけでやりきる覚悟を、最初の会見で口にした。その思いは今も全然変わっていないです」

――なるほど。そういう事なんですね。

「もっと紐解くと2007年の3月27日にロレンゾ・フェティータとダナ・ホワイトと3人で六本木ヒルズで会見をした時。いわば自分の娘を渡すようなわけで、その娘を受け取ったロレンゾが何て発言をしたか覚えている人なんて少ないと思うけど、こうでした。

『榊原さんから受け取った娘は、自分の息子であるUFCと同じように愛して大切にします』。

ですから、ウェットなものだったんですよね、PRIDEというものは。PRIDEという生命体を今以上に育み、そして続けていってくれるという約束だった。ただ、自分が契約上甘かったこともあり、そのあとアメリカで2年間、泥沼の裁判になるんです。そういうことも含めてPRIDEは34を最後に開催されることがなかった。私は『船を高速船に乗り換えた』とかカッコいいことを言いましたが、続かなかったじゃないかっていう自責の念がありました。それはいつ、何をしていても常に頭から離れることがないくらい、自分の心を占めていたんです。

そのなかでも笹原(圭一氏)たちが頑張ってDREAMがあったり戦極があったり、そういうのを傍目で見ていることはできたけど。いや、ほとんど見ないようにはしてましたけど。そこの根っこの部分があるからこそ、そこから一念発起して2015年にスタートするときにはそれなりの覚悟をしました。

まあ、50にもなって何かに夢中になって、『人生懸けてやります』って胸張って言えるものがあることのほうが僕は生きている感じがしていいな、と(笑)。

PRIDEの営業権を譲渡したあとの喪失感は、お金は持っていたけど、お金を見ていても幸せにならないんですよね(苦笑)。何かに夢中になって命を削って走り回ったり、苦労したりしていないと僕には幸せは感じられないっていうことを体感したわけです。

だからこのコロナ禍であっても自分が持っている財産も体力も時間も全部RIZINというコンテンツに注いで、日本国内から世界に届くようなものに、それがなるかならないかは別として全部を捧げると決めてやっているので、揺らぎはないですね。それで自分が果てたとしても、RIZINを次の世代にバトンタッチするぐらいのものにしたいと思っています」

――……榊原さんて熱い人ですねぇ。

「熱いですかね?(笑)」

――熱いと思います。

「暑苦しくない?(苦笑)」

――僕もたまに熱くなるんで大丈夫です。

「でも、冷静になってみるとこのコロナ禍の危機っていうのは自分たちが努力したからとか、選手やお客さんに協力してもらったから越えていけるかどうかわからないような、戦後最大の危機でしょ、GDPも含めて。これは全世界レベルで起きていることでもあるし。世の中の経済が落ち込む中でRIZINだけ力強く右肩上がりで成長していくなんてことありえるのかなとは思いますけどね」

●「天心vs武尊戦はファンのためにも選手のためにも実現させてあげたいし、させるべきだと思います」

――話が飛びますが興行を打つことの一番の喜びってどこにあるんですか?

「月並みかもしれないけど、RIZINという戦う舞台を必要としてくれる多くの選手とかファンがいて、その人たちが大会のときにエネルギーの交換をするような空間が生まれるわけです。そのときに多くの感動とか興奮に突き動かされて、腹の底から絶叫しているファンの人たちの姿を見ると、それこそが自分たちがこの仕事を続ける原動力だと思うんですね。

そこをちゃんと作品として、『面白かったよ』とか『感動したよ』って言ってもらえることが醍醐味なんじゃないですかね。その繰り返しなんでしょうね。作り上げたもののなかで生まれる感動とか興奮は、オペラとか舞台とかにも当然あるでしょう。でも格闘技のなかで起こる奇跡は、我々の想像を圧倒的に超えることがある。これだけ格闘技イベントを作りましたけど、この先も自分たちもまだ見ぬ次の瞬間が必ずあると思っています。

例えば今回のメインの試合、扇久保博正vs朝倉海戦でもあの試合展開は、10ぐらい考えた試合展開のなかのひとつかもしれない。でもそれを引き当てるというか、そういう結果になるということを僕らはお客さんたちと同じように知らないわけじゃないですか。だからこそ、まさかというような空気感だったり、髙田vsヒクソン戦のような圧倒的な現実を突きつけられたりするような、ドラマを作り出せたときの喜びが忘れられなくてまたやろうって思っちゃうんでしょうね。

――朝倉海選手(第三代RIZINバンタム級王者。YouTuberとしても人気。兄はRIZINトップ選手でもありYouTube約140万人の登録をほこる朝倉未来選手)の名前が出たので、感想を言いますと2デイズの最後の朝倉海選手はバケモノみたいに強くなってると思いました。

「(うなずきながら)そうですね」

――あの状態でマネル・ケイプ(第二代RIZINバンタム級王者。前回、朝倉海選手にTKO勝ち。現在、王位を返上してUFCと契約)とやっていたら勝ったんじゃないかと思いました。プレッシャーのかけ方とかフェイントとか全部圧倒してましたよね。

「すごかったですね」

――そのへん成長みたいなものは感じられましたか?

「彼が言っているとおり、前回のマネル・ケイプ戦での敗戦が彼を強くしたんでしょう。格闘家って負けることに照れがなくなったら終わっちゃうんですよ。負けることに慣れちゃうとそれがなくなるんですよ、グッドジョバーになっていってしまう。格闘技は負けても金にはなりますからね。でもそこで負けるということが誰よりも恥ずかしかったり、悔しかったり、カッコ悪いという思いを痛感していられる選手はまだ強くなれます。

『まあしょうがないか。次頑張ろう』ってその負けを簡単に受け入れてしまって次に行けるようになると、『また負けちゃったよー』って照れ隠しも含めて、負けと正面から向き合えなくなっちゃう。負けは負けでいいやってなるとグッドジョバーになっていきますね。

――そういう選手は引退してしまう感じなんですか?

「引退はしないかもしれないですね。グッドジョバーとして負けることを求められる選手っているんですよ。たとえばAという選手を光らせようと思ったら、『こいつだったら勝てるんじゃないの?』っていう選手というか、いい仕事してくれるというか。

例えば昔で言えば、ゲーリー・グッドリッジ(トリニダード・トバゴ出身の総合格闘家・キックボクサー。『PRIDEの番人』と呼ばれた)とかは、そういう役割でした。勝っても負けても試合が跳ねる選手。一方で、海とかホベルト・サトシ・ソウザ(日系ブラジル人選手。ブラジリアン柔術家)は前回の敗戦が、彼らを大きく成長させたんだなっていうことが、この2デイズのなかでふたりのパフォーマンスを見て痛感しましたね」

――前回は海選手もソウザ選手も完敗でしたが、今回は逆に完全な勝利でした。そして扇久保選手があんな風に負けるとは思わなかったんですけど、どうでした?

「海が勝つとしたらああいうパターンなんだろうなっていう、予想はしていましたけど、そこに扇久保がつき合っちゃったのか、つき合わざるをえなかったのか。扇久保は堀口(恭司選手。初代RIZINバンタム級王者)との試合でも判定までいって、石渡(伸太郎選手。元バンタム級キングオブパンクラシスト)との試合も見ていても元谷(友貴選手。元DEEPバンタム級王者)との試合を見ていても殴られ強いというかスタミナがあるわけです。ですから、打撃であんなに一方的に追い込まれちゃうのは見たことがなかったですね」

 

おすすめ記事:あの「伝説の路上」で生まれた 決して逃げない覚悟 「天才」総合格闘家・朝倉海選手(YouTuber) | TABLO

 

――あと、K-1から「移籍」してきた皇治選手がリングに上がって那須川天心選手に対戦アピールしていましたけど、皇治選手は初めからやる気だったんでしょうか。ブーイングもありましたが。(9月27日さいたまスーパーアリーナ、RIZIN24にて対戦決定)

「皇治が違約金まで払ってK-1を出てRIZINに上がるテーマのひとつは天心と戦うことだと思うんで。これまでのインタビューとか含めていろんなところで天心の名前は出していたわけですから。ただリング上に呼び出して、ああいうことまでするとは思わなかったです。当然マイクを握って皇治が発言するところまでは段取りするけど、何を話すかというところは本人次第ですからね。事前に自分の思いをアピールしろと言っていたんですけど、それが暴走してしまった(苦笑)」

――最後に、前回おうかがいしたメガイベントみたいなものの構想をお聞かせ頂けますか。

「まだ全然諦めていないです。いずれにしても現状、日本政府は海外140何ヶ国からまだ入国拒否をしていますし、アメリカに行くことはできてもアメリカ人は入って来られない。世界的にも日本ぐらいなんですよ、こんな対応をしている国は。

いずれにしても日本が鎖国を解かないといけないですよね。だから日本も9月の声を聞いたらそうなっていかざるをえないんじゃないかとは聞いてますけどね。そういうなかでわれわれが必要とするブラジルとかアメリカとかロシアとか韓国の選手が入国できるようになること。あとは観客の上限がキャパの半分とか、結局9月いっぱいは5000人が最大っていうのがそのまま継続されることが決まったんで、何万人も入れての大会は開けない。この上限が外されれば、メガイベントに向けてより具体的に動き出せると思います」

――それには、格闘技のドリームマッチが必要だと思うんですけど。前回のインタビューで、『武尊の骨を拾ってもいいよ』とおっしゃっていて男らしいなと思いました。今の状況では「武尊vs天心戦」がメガイベントのメインになると思うんですけど、それに向けての働きかけをしてらっしゃるのかっていうのはどうですか?

「色んな角度で実現のためのアクションは変わらずに続けてはいます。ただ、やれることは限定的ではあるし。天心の周りとは状況は把握していますが、武尊サイドのことがわからないんで。もちろんK-1サイドの人たちともコミュニケーションを取るんですけどね。

ただ武尊という選手とは僕も話したことがないんです。武尊選手が今どう考えているとか、どうなることで実現に向かうのかっていうところは本人の声が聞こえてこないわけです。われわれが機能することで進むのであれば、ファンのためにも選手のためにも実現させてあげたいし、させるべきだと思います」

――格闘技史上に残ると思います。キックだと山本KID vs魔裟斗戦みたいな感じで。

「そうでしょうね。だから選手たちにとってはボクシングだと辰吉vs薬師寺もそうだけど、たくさんやる試合のなかでみんなの記憶に残る対戦をどれだけ現役の時代に積み重ねられるかということ。それが現役を終えたあとの財産としてはとても大きなものになると思います。そのときにみんなが観たい、自分がやるべきだと思うライバルなり目標がいるんであれば、いろんな山を乗り越えてでも実現をさせられるといいなと思いますね」

※「榊原CEO、熱い」。そんな想いで二回めのインタビューを終えて帰路につきました。格闘技専門媒体でいない本サイトに、このようなインタビューを掲載するのも、一格闘技ファンとして意義があるものではないかと思う次第です。また、あの格闘技ブームが来ないかな、世の中を面白くさせるためにも、と強く感じています。(文◎久田将義 写真提供◎@RIZIN FF)

 

参考記事:漢を見せた! K―1から皇治が違約金を払って参戦 魔裟斗が切り開いた道 天心VS武尊戦の実現への一歩か | TABLO

 

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