「簡単なバイトしない?」に要注意! 知らずに巨悪事件に加担して気付けば法廷 被告が証言台で語った後悔|裁判傍聴
TABLO / 2020年10月11日 8時30分
写真はイメージです
2019年末、東北電力は会員制ウェブサービス「よりそうeねっと」で不正アクセスがあり、顧客44人のポイント計14万1000円相当が小売店などで使える電子マネーや共通ポイントに交換されたと発表しました。
同社によると、2019年12月26日午後11時50分ごろから27日午前5時50分ごろにかけて、複数のネット上の識別番号から不審なログインを検知したということでした。
この不正アクセス事件について続報があったのは2020年5月のことです。
不正に入手した東北電力の会員ポイントを電子マネーに交換し加熱式たばこを購入したとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益処分の仮装)容疑で日本語学校生の曹晶容疑者(21歳)ら中国人2人を逮捕した、という内容の報道でした。
逮捕された2人のうちの1人、曹晶の裁判が開かれたのは報道から約2か月後の7月28日です。
関連記事:還付金詐欺の「出し子」が裁判で吐露した“逮捕されても抜け出せない地獄” こうして犯罪者は次の犯罪に手を染める | TABLO
どこにでもいそうな普通の女の子。
それが法廷に現れた彼女を見たときの私の感じた第一印象でした。
彼女の起訴された罪名は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪の収益等に関する法律違反」という、なんとも大仰なものです。
しかし犯行に至った経緯も、犯行自体も単純なものです。
きっかけは日本語学校のクラスメートから、「簡単なバイトしない?」と誘われたことでした。
仕事内容は、その知人から預かったカードにポイントをチャージして加熱式タバコを買ってくる、これだけです。
当時、彼女はアルバイト先がなかなか見つからず苦しい生活を送っていました。食べる物にすら困ることもあったようです。中国にいる両親に仕送りを頼みましたがこれは断られてしまいました。彼女は来日する際に、「日本ではきちんと自立して生活する」と両親と約束してきていたのです。
それでも自分の置かれている状況を説明してお願いすれば両親もわかってくれたかもしれません。でも彼女はそうはしませんでした。
「約束したんだから自分で何とかしよう」
そう思ってしまったのです。
そんな彼女はクラスメートの誘いに乗ってしまいました。
仕事は驚くほど簡単でした。ただタバコを買って、翌日に「池袋駅近くに車でやって来る男」にそれを渡すだけです。
彼女はその行為が犯罪であることも、自分のやっていることが組織的犯罪の中で「買い子」と呼ばれる役柄であることも初めはわかっていませんでした。
ただ、彼女もこの「仕事」には何かイヤなものは感じました。アルバイトが見つかったこともあって数回関与しただけで買い子は辞めてしまいました。
買い子はこの類の犯行に欠かせない重要な役割で、なおかつ最も捕まる危険性は高いです。彼女はこの仕事を1回4000円程度の報酬でやっていました。このお金はすべて家賃など生活費に充てたそうです。
この不正アクセス事件を起こした組織の中心にいるような人物が捕まったというような報道は2020年9月の段階ではまだありません。
「自分のしたことがこんなに重大なことだと思わなかったし、捕まるなんてまったく思ってなかったです。留学を続けたかったです」
証言台で泣きながらこのように話していた彼女は、罪を犯した犯罪者というよりは何かの被害者にも見えました。
裁判が終われば彼女は退去強制です。そしてもう日本に来ることは難しくなります。
最終陳述では彼女はたった一言、小さな声で呟きました。
参考記事:毎日どこかで起きている「プチ座間事件」 知らない男に着いていく女の深層心理とは? ナンパの最終目的は「性交」と語る被告人|裁判傍聴 | TABLO
「…とても後悔しています」
曹晶容疑者が逮捕されたというニュースに関して、SNS上では心ない言葉を吐く者が多数いました。
「また中国人…」
「中国人はやっぱり悪人が多いな」
「こんな犯罪者が多いんだもの。中国人や韓国人が嫌われるのも当たり前」
裁判を傍聴した身からすると、彼女の行為が法で裁かれることは当然としても、彼女が国籍を理由にしてその人間性まで貶められることなどあってはならないと思っています。
国籍が違っても、罪を犯したとしても、それでも彼女は尊重されるべき人格を持った1人の人間です。(取材・文◎鈴木孔明)
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