味があった昭和のプロレス! 長州力のやられ役・ハル薗田を知っているか|中川淳一郎
TABLO / 2018年5月29日 11時15分
![味があった昭和のプロレス! 長州力のやられ役・ハル薗田を知っているか|中川淳一郎](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/knuckles/knuckles_3339_0-small.jpg)
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プロレス人気が復活しているという話もある。コアなファンが会場を満席にし、大いなる盛り上がりを見せているのだという。
実にめでたい。
だが、これは「深く狭い」ファンが形作るプロレスブームだ。昭和の時代、ゴールデンタイムに新日本プロレス・全日本プロレスが民放で放送されていたことから考えると、あの頃のプロレス人気は今よりも「浅く広い」状態で、スポーツ娯楽としては野球に次ぐものだったといえよう。
1980年代、新日本プロレスは金曜・20時からテレビ朝日系で放送され、全日本プロレスは土曜・17時30分から日本テレビ系で放送された。全日は後にロード・ウォリアーズ人気などもあり、日テレの土曜19時からの放送に移行した。しかも、フジテレビはクラッシュ・ギャルズと極悪同盟の争いを軸とした全日本女子プロレスを月曜19時から19時30分まで放送していたのである。
これらの中では全日本の17時30分時代が一番好きだった。朝、当日の新聞のテレビ欄を見て、カードを確認するのだ。そこには「ジャンボ鶴田・石川敬士×長州力・寺西勇」とか「テッド・デビアス×天龍源一郎」のようなカードが書かれていたが、学校に行く前にこれを頭に叩き入れ、その日の試合を楽しみにしていた。
1980年代中盤の全日本の何が良かったのかといえば、長州力率いるジャパンプロレス軍団がかき乱している感じが良かった。ジャイアント馬場を筆頭とする全日本の本体に対し、果敢に攻撃を仕掛けていくジャパン勢。全日本は御大の馬場を滅多に出すことはなく、層の厚さを見せつけるほか、往年の名選手(つまりプロレスにおいては強い人)も繰り出しドーンと構えるも案外ジャパン勢に負けたりもする。
そこに外国人選手も入ってきて入り乱れ、年末の「世界最強タッグリーグ決定戦」は毎年楽しみにするイベントとなっていた。全日本の若手はジャパンの若手よりもハングリーさが足りないぬるま湯育ち的な印象を与え、「次は頑張れ!」とガキの身分ながら親目線で応援したくなる。
そんな若手の中でも衝撃的だったのがハル薗田の突然の死である。南アフリカ遠征時に飛行機の墜落事故で亡くなったのだ。31歳だった。薗田といえば、6人タッグマッチの3番手に位置する若手の元気者的役割でやられることが多かったが。長いタイツが妙にダサく、若いのに腹が出ており「受けの美学」を持ったような選手だった。YouTubeをあさってたらこんな試合も出てきた。
長州力・谷津嘉章・小林邦昭×天龍源一郎・タイガーマスク(二代目)・ハル薗田
この組み合わせを見れば、異論は出そうだが当時の全日本プロレスの興行における序列としてはこうなるだろう。
長州→天龍→谷津→タイガーマスク→小林→薗田
明らかにジャパン勢の方が優位に立っており、これはカードを見るだけで「薗田がピンフォールを取られる」ことが分かる。試合はジャパン勢が大将格たる長州からまず試合をスタートさせる。「ここは下っ端のオレにまずは様子を見させてください」とばかりに全日本は薗田が登場。だが、序列1位×6位のため、ひたすら長州から投げられ、小林と長州から股裂きの技を喰らう。
長州と天龍、そして小林とタイガーマスクの因縁という別のテーマもあるこの試合、見どころは多数あるのだが終わらせ方が問題である。しかし見事なものだった。
天龍が谷津に対して必殺技のパワーボムを喰らわせる。レフェリーのカウントが入る中、小林と長州がリングに割って入ってきたため天龍はフォールをやめる。そこに長州・小林が天龍に襲い掛かるため、たまらず天龍は薗田にタッチ。タイガーマスクと小林は場外乱闘へ。谷津も長州にタッチしたが、コーナーポストでは必殺技・リキラリアットの機会を伺う長州が獲物を待つ。そこに現れたのが薗田。猛烈なスピードでリキラリアットをくらい、3カウントでジャパン軍団の勝利である。
なんとか薗田の活躍機会を待っていたのだが、「薗田! 長州を倒すのは無理だとは思うが、いつかは小林か谷津には復讐を果たしてくれ!」みたいな思いを抱きながら毎週全日本プロレス中継を見ていたのである。
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あの頃のプロレスは突然ザ・グレート・カブキという謎のレスラーがアメリカで大ブレークしたかと思えば日本に凱旋してきてそれなりの強さを誇ったりする。そして、『プロレススーパースター列伝』という漫画でそのレスラーに関する深掘りのストーリーが展開される。
今のプロレスも楽しいが、あんないい時間にプロレスを見られたことは、なんだかプロレスファンにとってあの時代は実に幸せな時代だったのでは、と思えるのだ。(文◎中川淳一郎 連載「俺の昭和史」第二十回)
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