裁判傍聴 飯塚幸三被告は歩くのもままならないのに「なぜ」車を運転したのか 道交法裁判の被告が共通して口にする言葉
TABLO / 2020年10月20日 8時30分
写真はイメージです
先日、飯塚幸三被告人の公判が始まりました。被告人が無罪を主張したことが世間を大きく騒がせましたが、それよりも気になったことがあります。
被告人は初公判では車椅子で入廷していたと聞きました。また、ワイドショーなどで実況見聞の様子が報じられた時の映像では松葉杖を手にしていました。事故発生当時の被告人は87歳と高齢でもあります。
客観的にはとても自動車を運転できるような人には見えません。
しかし彼は自動車を運転しました。自動車に欠陥があった可能性がある、という主張の真相はわかりませんが結果的に9名の方が亡くなる痛ましい事故を起こしてしまったことは間違いのない事実です。
そもそもなぜ彼は自分でハンドルを握ってしまったのでしょうか。
そう考えた時、過去に傍聴したいくつもの道交法の裁判の被告人の顔が浮かびました。
無免許運転、飲酒運転、スピード超過、ひき逃げ、当て逃げ…その犯行態様は様々ですが、そのほとんどの被告人が同じような言葉を口にしていました。
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「自分は大丈夫だと思ってました」
澤村侑弥(仮名、裁判当時46歳)が二輪免許を取ったのはまだ彼が10代の時のことでした。
この免許は平成9年に更新を忘れて失効してしまいます。しかし、バイクがなくても特に不自由もなく生活できていたため免許を再び取ることはありませんでした。
そんな彼が再びバイクに興味を持ち始めたのは平成30年になってからです。
そのきっかけは前年の平成29年に起こしてしまった軽い脳梗塞です。命に関わるようなものではありませんでしたが仕事はしばらく休まざるを得なくなりました。
「また社会に戻って仕事をするためのモチベーションアップというか、一種のリハビリのつもりでまたバイクにでも乗ってみようと思いました」
そんな理由で平成30年8月にバイクを購入しました。
それからというもの彼は「教習所に行って免許を取り直す前に少し練習をしておこうと思いました」という理由で自宅周辺で無免許のままバイクを運転するようになりました。
若い頃には日常的にバイクに乗っていた彼はすぐに勘を取り戻しました。この「練習」もバレればもちろん行政処分がくだりますが
「バレなければいいと思ってました。ちゃんと運転できていたからバレないと思っていました」
という彼の思惑通り、彼の無免許のままの「練習」がバレることはありませんでした。
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バイク購入から2か月後の10月のことです。
その日、彼は昼から自宅で缶チューハイを呑んでいました。
夜になり空腹を覚えた彼は空腹を覚え、自宅から約1キロの距離にあるラーメン屋に食事に出かけようと思い立ちました。
歩けば10分ほどかかります。バイクで行けばすぐに着きます。
いつもの「練習」ではちゃんと運転はできていました。事故さえ起こさなければ無免許も飲酒もバレることはない、この時もそう考えてしまいました。
「自分は大丈夫だと思ってました」
彼は家を出てバイクにまたがりました。
わずか1キロの道程です。しかし昼から呑み続け、さらに家を出る直前に500ミリリットルの缶チューハイを3本も空けていたという彼が事故を起こさずに運転できる距離ではありませんでした。
前方の車に追突したという事故でしたが幸いなことに怪我人は出ませんでした。しかし状況が違えばもっと大きな事故になっていた可能性もあります。
交通事件の被告人には過失はあっても犯意はありません。わざと交通事故を起こそうとする者などいないのです。
「自分は大丈夫」
その思いがあるからこそ運転をするのだとは思います。ですが、それは本当に「大丈夫」なのでしょうか。自分を客観視することは非常に難しいことです。ですが、それをできない人は車を運転してはならないと思います。
2019年の交通事故による死者数は3215人です。年々、人数は減ってはいますがそれでも単純計算で1日に約9名の方が交通事故で命を落としています。(取材・文◎鈴木孔明)
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