絶対に見に行くものか「死刑囚表現展2020」と社会の声 津久井やまゆり園19人殺害事件・植松聖死刑囚の身勝手な優生思想も展示
TABLO / 2020年11月2日 11時21分
死刑囚表現展2020(筆者撮影)
刑の執行を待つ死刑囚達の書いた、絵画や詩などを展示する「死刑囚表現展2020」が開催されました。このニュースに対し、開催への批判的な声が集まっています。何かを感じることができるのか、果たして無意味なのか、実際にいってみました。
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会場となった松本治一郎記念館の会議室には「絶対に見に行かない」というネット上の声とは裏腹に、少なくない観覧者が集まっていました。
入口付近に並んでいたのは、福岡県大牟田市で母子とその友人4人を殺害した井上孝絋死刑囚の「叶わぬと知るも追いたる夢半ば」という書がありました。これについては、夢半ばで殺されてしまった被害者の心情を語ったのか、夢がありながら死刑が確定している自身の状況を語っているのかは定かではありませんが「人を殺すのは蚊を打つのと同じ」と話す様から想像すると前者であり、被害者感情を逆なでするようなものであることは間違いありません。
また、多くの方の記憶にも新しい、津久井やまゆり園で19人もの人が殺害された事件を起こした植松聖死刑囚の書も展示されています。そこに書かれているのは、植松死刑囚がこれまでにも繰り返してきた、障がい者への差別的な主張。私たちには理解の及ばない狭隘な優生思想に溢れていて、これについては、被害者家族もはっきりと「贖罪の気持ちがない」と失望を示しています。
この展覧会を主催しているのは死刑廃止を訴える「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」という団体。展示作品の中には、大阪で中学一年生の男女が殺害された事件を起こした山田浩二死刑囚のイラストがあり、そこには、絞首台と自身の姿が、率直に死を恐怖している描かれ方をしています。これは、廃止論の拡大を狙ってのことだと考えられます。
また、東京五輪やポケモンのキャラクターを描いた上で、そこに「2020年までに死刑廃止だ!」とキャプションをつけるなどした山田死刑囚の作品も。さすがに、これには筆者でさえも「お前がいうな」という感情が湧き上がり、こうなると主催団体の狙う死刑廃止論の拡大には逆効果ではないかと思えるのです。
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ここまで見てくると、同展は批判の通り「被害者感情を逆なでするだけの無意味なもの」であるようにも感じられます。確かに、起こってしまった事件に対しては無意味かもしれません。しかし、目の前に展示されている作品が肉筆であるという事実が、見る者に突きつけてくる何かはあります。
例えば、前出の井上死刑囚の絵画「小野櫻乃精薄墨」は、月岡芳年の絵を元にして描かれ、黒を基調としながらもバランスの良いカラフルさで、線にも迷いがなく技術的に高いものがあることが見て取れます。また、魚や昆虫・鳥などを薄墨で描いたのは、館山で放火殺人を犯した高尾康司死刑囚。誇張も無理もなく、対象と静かに向き合ってありのままに描いたことの伝わる作品からは、死刑囚が「あちらの世界」の人間ではないことを感じさせます。その他にも、知人に報酬を出して実弟を殺害させた長谷川静央死刑囚の作品は、ピカソの影響を感じさせるキュビズム的な描き方や、ヴァロットンのような大胆な画面構成が見られ、美術が好きであることがわかります。一方で、子供用の布団や衣類にあるような柄をパステルカラーで描いてはいるものの、稚拙な表現であることが否めない作品は、鳥取で6人もの不審死に関わったとされる元ホステスの上田美由紀死刑囚のもの。どれも「その辺にいる人」が描いたように感じられるのです。
肉筆から伝わってくる、死刑囚の息遣い。私たちは、自分が被害者(またはその家族)だったらという想像は、いくらでも逞しくできますが、その息遣いから「誰しもが加害者(またはその家族)になる可能性がある」ことを感じることができました。悪人が悪いことをするのではなく、誰もが「縁」によって悪人にも善人にもなるのだということが見えてくる部分については、意味のある展覧会であると思います。
ただ、それを被害者感情を越境してまで開催すべきかは、議論の余地があるようです。(取材・文◎Mr.tsubaking)
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