川崎市中1男子生徒殺害事件 新聞が触れない「川崎という土地」が抱える"ストレス"|八木澤高明
TABLO / 2018年6月28日 12時27分
「えっ、ウソでしょって、まったく信じられなかったんですよ。あの子はそんなことをするはずないって」
2015年2月、神奈川県川崎市で起きた中学一年生男子殺害事件で犯人として逮捕されたのは、18歳の少年A、同級生で17歳の少年B、一学年下の少年Cの三人だったが、そのうちのひとり少年Cの幼いころを知る平沢バネッサさんは、今も彼が犯人だとは信じられないのだという。
「私とCのお母さんは知り合いで、彼のことを小さい時から知っていたんですよ。いつもニコニコしている子でした。なんでこんなことになったんでしょうか。おそらくAに強制されて断れなかったんじゃないでしょうか」
平沢さんはフィリピン人で、事件を起こしたAとCの母親もフィリピン人で、彼らは日比のハーフだった。
13歳の少年を、同じ少年三人が殺害するという事件は、2015年2月20日未明に発生した。日頃から溜まり場となっていた多摩川の河原に被害者の少年を連れ出した三人は、工業用のカッターナイフで顔などを切りつけ、全裸にして真冬の川で泳がした後、さらに殴る蹴るなどの暴行をし、虫の息となった少年の首をナイフで切り、出血多量の致命傷を追わせ、殺害した。
遺体をそのまま放置し、着ていた衣服は河原から七百メートルほどの場所にある公衆便所の女子トイレで、証拠隠滅を図るため燃やしたのだった。さらに少年が死んでいないと見せかけるため、携帯電話のアプリLINEからメッセージを発信するなどして、さも生きているように工作したのである。
私には事件の加害者が日本人とフィリピン人のハーフということが気にかかった。
事件が起きた京浜工業地帯の埋め立て地である土地は、元々工場労働者としてやって来た朝鮮半島や沖縄の人々が多かった。明治から戦前にかけては、安い労働力としてそうした人々が必要とされたのである。明治国家が立ち上がり、近代資本主義が産声をあげると、労働者だけでなくそれを目当てにした女たちも、この街に集まりはじめ、川崎には色街もできた。売防法によって赤線が消えたが、今現在、川崎の駅前周辺の繁華街にはフィリピンパブなどが軒を連ねている。
資本主義というものは常に安い労働力を使っていかないと、利益を生み出すことが難しく、時代の移り変わりとともに、経済的な成功を求めて常に移民たちがやってくる。戦前から戦後すぐにかけて経済を下支えしたのが、朝鮮半島や沖縄の人々であり、その後日本経済が上向くと、フィリピン人の女性たちが夜の繁華街などで働くようになった。
日本やアジアの各所からやって来た人々が築いたのが、事件現場周辺の風土なのである。この土地の洗礼を受けて生まれ育ったのだが、加害者のAやCだった。
川崎在住で日本人男性との間にこどもを持つフィリピン人女性たちに話を聞いてみると、どの女性もこどもたちが学校でイジメを受けたと告白した。冒頭の平沢さんが言う。
「小学校までは、あまりイジメはないんです。中学に入ったぐらいですかね。いつも元気で学校に行っていた子が行きたくないと言い出したんです。問いつめてみたら、フィリピン人だからとイジメを受けたと言うんです」
ハーフのこどもたちは、日本人のこどもたちとは違ったストレスを感じながらこの日本で生きていることは間違いない。結果的に日本社会と馴染めず、孤立してしまう。主犯の少年Aも高校には通わず、街を徘徊し続けていた。Aは事件前から、同年齢の友人がほとんどなく、年下の少年たちとばかりつるんでいたという。
どんな理由があれ、人を殺めるという許しがたい残虐な罪を犯したAは、罪を償わななければならない。事件の背景には、日本人と今後増えるであろう外国人やそのハーフの子どもたちの軋轢が見え隠れするのは気のせいだろうか。(取材・文◎八木澤高明)
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