「イヤだよ...連れていかないでよ」 朝起きたら冷たくなっていた夫と4ヶ月も部屋で過ごした妻の罪とは
TABLO / 2018年6月29日 12時26分
大場麻美(仮名、裁判当時49歳)は逮捕されるまで普段と変わらない生活を過ごしていました。
「あなた、買い物行ってくるね。」
家の奥のベッドにいる夫の清(仮名)に声をかけてから外出するのも以前と全く同じでした。
違っていたのは、夫が彼女の声かけに応えることがなくなったことでした。その時には、15年の結婚生活はもう既に終わりを迎えていました。
平成30年3月28日、夫婦の家を訪れた麻美の妹が清の遺体を発見し通報したことで事件は発覚しました。司法解剖の結果、死後3ヶ月から4ヶ月は経過していると判明しました。亡くなってからずっとベッドの上に放置されていた遺体は腐敗が進み、一部はミイラ化していました。彼女は死体遺棄の容疑で逮捕されました。
麻美の供述によれば、夫が亡くなったのは平成29年11月10日の夜から11日の朝にかけての時間でした。ガンで入退院を繰り返していて在宅介護を受けていた夫の顔色が悪く、処方されていた薬も飲んでいないことに彼女が気づいたのが10日の夜でした。心配になった彼女は
「どうする? 救急車呼ぶ?」
と聞きましたが夫は
「救急車はいい。大丈夫。」
と答えました。これが夫婦の最後の会話になりました。翌朝、彼女が目を覚まして夫の様子を見に行くとすでに夫は亡くなっていました。
「ねえねえ。」
布団をめくっても夫は何も言ってくれませんでした。
「どうしたの? ねえ。」
夫は何も言ってくれません。動いてもくれません。肩を揺さぶった時の冷たい感触に彼女は頭が真っ白になりました。何も考えることが出来ませんでした。何時間もずっと茫然としていました。ただ一言、夫の遺体に向かって呟くのがやっとでした。
「イヤだよ...。」
法廷で彼女は当時の心境を、
「朝起こそうとしたら死んでて...最期のお別れができてないんです。納得できませんでした。あんまりにも急で...『なんで簡単にそうなっちゃうの』って腹が立つような気持ちもありました。離れたくなかったし、気持ちの整理がつきませんでした。」
と語っていました。
あまりにも突然すぎる夫の死という現実を、彼女は受け入れられませんでした。通報や届け出をしなくてはいけないことは彼女もわかっていて、そうしようとは思ったそうです。しかし出来ませんでした。
「通報したら主人は連れていかれてしまうから、それがイヤでした。当たり前のことが全部イヤでした。『連れていかないでよ』って...、『私たち二人だけなんだからいいじゃない』って...、そう思ってしまいました。」
こうして誰にも夫の死を知らせることがないまま、遺体となった夫との生活が始まりました。
長年連れ添った夫の遺体と暮らす生活。それはどのようなものだったのでしょうか。検察官に、
「遺体の一部はミイラ化していたそうです。目も落ちて、日に日に姿が変わっていく御主人を見てどう思いました?」
と問われた彼女はこのように答えました。
「主人の姿が変わっていってるのは毎日見ていてわかってました。でも主人の顔を見て、やっぱり私の主人だから...。生きてた頃とそれは変わっていないので...。いつも普通に話してました。私にとっては普通でした。一緒にいるのが普通のことなんです」
とはいえ4ヶ月近くの間、遺体と一緒に生活していれば、やはり葬儀等について考えることもあったそうです。しかしそのたびに彼女は考えを打ち消しました。
「お葬式を済ませたら主人はお墓に行っちゃう...。そうしたらもう...。亡くなっても主人なんです。離れるなんて、悲しくて考えられなかったです」
今後どのように生活していくか問われた彼女は、
「これからは一人で自立して生きていこうと思ってます」
と話していました。
逮捕から裁判までの間に、大切な人の死を彼女なりに少しずつ受け入れていってはいるようです。
いつか、彼女の悲しみが癒される日は来るのでしょうか? 夫の親族は彼女に対して厳罰は望まない、という内容の書面を裁判所に提出しました。(取材・文◎鈴木孔明)
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