裁判傍聴人が考える一連のオウム事件についての「もし」 私が死刑囚たちと同じ道を歩んだ可能性
TABLO / 2018年7月7日 11時56分
オウム真理教・松本死刑囚ら7人が死刑を執行されました。執行のタイミングやその是非について様々な議論が交わされていますが、まずは亡くなられた7人の方のご冥福を祈りたいと思います。
地下鉄サリン事件が起きた時、僕はまだ小学生でした。衝撃は受けたものの、事の重大さをきちんと認識できてはいなかったと思います。オウムの一連の事件についての知識もあまりありません。ですが、罪を犯して被告人として裁かれている人達を何年も見てきた裁判傍聴人として、今回の死刑執行について思うことを書いてみたいと思います。始めに断っておきますが、オウム関連の事件の裁判を傍聴したことはありません。
裁判を受けている被告人は当然みんな何かしらの法に違反した犯罪者です。このように言うと凶悪な理解の及ばない人間のようなイメージを思い浮かべてしまうかもしれません。もちろんそういう人も中にはいますが、僕が見てきた被告人は孤独で傷ついていて疲れ果てているような、そんな弱々しい人の方が多かったです。
手錠を掛けられて法廷のバーの向こうにいる被告人と、傍聴席に座っている傍聴人では大きな壁があるようにも思えます。それでも同じ世界の人間です。同じ世界の人だから、様々な事件の被告人たちが背負っている哀しみや怒りを理解し共鳴することもできるのです。
どんな裁判を傍聴した後でも、僕はいつも「もし」を考えます。もし、自分が被告人と同じ境遇に置かれていたら...。
自分も同じ罪を犯してしまうかもしれない、と思うことが多々あります。
お金が全くなくて三日間何も食べてなければコンビニでおにぎりを万引きしてしまうかもしれない。辛いこと苦しいことばかりが続いて心を病んでいるときに覚醒剤を渡されたら使ってしまうかもしれない。職場で理不尽な仕打ちを受け続けたら上司を殴ってケガをさせてしまうかもしれない。
裁判所で僕が観ているのは、見知らぬ他人の人生の物語です。しかしそれは同時に自分が歩んでいたかもしれない、もしくはこれから歩むかもしれない自分の人生の物語でもあるのです。
オウム関連の裁判を傍聴していても同じように「もし」を考えていたと思います。
今回死刑執行された人達の境遇に自分が置かれていたらどうなっていたでしょうか。地下鉄でサリンを撒いている自分の姿はすぐにはなかなか想像ができません。しかし、彼らだって事件の起きる数年前はそんなことをするとは想像もしてなかったはずです。
もし自分がオウム真理教に出会っていたら...。
もし自分の居場所を教団内に見つけていたなら...。
もしそこに歓びや幸せを見いだしたなら...。
彼らと同じ経験をし、価値観や考えを分かちあっていたら...。
こうやって考えていくと、僕もサリンを撒いていたのかもしれない、と思えてきてしまいます。少なくとも「絶対にやらない」とはとても断言はできません。
裁判が行われる意義は二つあります。真実を明らかにすることと、被告人の人権を守ることです。この二つが守られた上でなければ正当な判決をくだすことはできないはずです。
松本智津夫死刑囚に関して言えば、異常な団体の教祖である麻原彰晃という面ばかりピックアップされ、一人の人間としての松本智津夫がどんな人間だったのかは誰も何もわからないままです。これでは彼の人権が守られたとはとても言えないですし、真実が明らかになったとも言えません。
今回、死刑の執行をしたことは本当に正しいことだったのでしょうか?
詐病だとも言われていますが、彼は精神に異常をきたしていたようです。裁判でも他の場所でも、彼が何を思い何を考えてきたかを話すことはなかったと思います。しかしそれでも、彼がどんな人生を歩んできたかを彼自身の口から聞きたかったという思いは捨てきれません。
そして考えてみたかったです。
もしも、自分が松本智津夫と同じような境遇の人生を辿っていたら...。もうその機会は永久に失われました。(文◎鈴木孔明)
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