「もうどうでもいい」刑務所を出たばかりの宮崎(69歳)が速攻で食い逃げした令和という社会 ずっと真面目に生きてきたのに何故?
TABLO / 2020年11月10日 10時50分
写真はイメージです
この社会は悪夢なのか 「もうどうでもいい」 刑務所を出たばかりの宮崎(69歳)が速攻で食い逃げ
令和2年6月20日、宮崎嘉純(仮名、裁判当時69歳)は新潟から高速バスで東京にやって来ました。目的は特に何もありません。行く当てもありません。何故東京に来たのか、彼自身も言葉にして説明することはできないようでした。彼は同月17日に新潟の刑務所を出所したばかりでした。
東京に着いた彼はコンビニなどで酒を買って呑みながら東京の街を歩き続けました。その目に東京の街がどう映っていたのか、歩きながら何を考えていたのか、それもわかりません。しかしそうする中で頭の中では1つの言葉がずっと繰り返されていました。
「もうどうでもいい」
いつの頃からか、彼はこの言葉に支配され、全てを虚しく感じるようになっていました。どの時点からそうなってしまったのか、何故そうなったのか、何もわからないそうです。
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所持金は1円
彼には前科が3つあります。初めて逮捕、起訴されたのは平成29年、罪名は詐欺罪でした。もう少し具体的に言えば飲食店での食い逃げです。この時の裁判では執行猶予付きの判決がくだされました。
この約半年後、彼は再び食い逃げで捕まりました。執行猶予期間中の犯行なのでもちろん実刑です。令和元年6月に刑務所を出所しましたが、その1ヶ月後にはまた食い逃げで逮捕され刑務所に戻ることになりました。そして令和2年6月17日の出所の日を迎えました。
何かから逃げたかったのか、何かを変えたかったのか、、それとも他に何か理由があったのか…本人が説明できない以上わかりませんが、ともかく2度の服役を終えた彼は東京へ出てきたのです。
少しずつ暮れていく街の景色を眺めながら彼は思いました。
こうやって時間が経てば日が沈んで夜になって1日が終わり、そしてまた今日と何も代わり映えのしない明日が始まる…。
そんな当たり前のことが、彼にとっては先の見えない地獄のように思えました。それは耐え難いものでした。
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高校を中退して以来、彼はずっと飲食業界で働いてきました。
人から称賛され注目を浴びるようなことはなかったにせよ、後ろ指を指され蔑まされるようなこともありませんでした。地味ではあったかもしれませんが、彼なりに堅実に人生を歩んできました。それが人生の黄昏時に差し掛かった60代の後半になって、彼の中の何かが壊れました。初めて食い逃げで捕まるまでは、彼は警察に厄介になるような経験など1度もなかったのです。
池袋を歩いている時、彼は一軒のチェーンの飲食店の前を通りかかりました。
「もうどうでもいい」
彼はその店に入りました。バス代や酒代でお金を散財していた彼のこの時の所持金は「1円」でした。銀行に預金はありません。これがその時の全財産でした。
希望が見いだせない
何故、何度も食い逃げをしてしまうのか。
弁護人と検察官、裁判官もこの点を問いただしていました。原因がわからなければ再犯を防ぐ手立てもないのです。
犯罪だからやってはいけない。それくらいはもちろん彼もわかっています。それでもやってしまう自分について彼自身も持てあまし、悩み苦しんでいました。
「人を騙して…やっちゃいけないこと、なんですよね。私の気持ちの弱さというか、『いいや、刑務所行っちゃえ』と思ってしまいました」
「今回は3日しかもたなかったのは追い込まれたというか…だからってこういうことする自分が自分でも悔しいです。本当は犯罪なんてしたくないんです」
「自分だって、生活保護でもなんでも生活を建て直したいって思ってるんです。最低限でも貧乏でも、普通の生活がしたいですよ」
「社会のせいにするとかそういうことじゃないですけど、でもここ何年か、みんな急にまとまって悪くなったと思います」
彼はまた実刑判決を受け服役をします。
しかしそこで彼が反省や更正ができるでしょうか。生きることに希望を持てなくなった人間に反省や更正があるのでしょうか。
「急にまとまって悪くなった」と彼が評するこの社会は、彼が希望を見いだせる社会だとは思えません。(取材・文◎鈴木孔明)
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