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私は1文字1円のクソwebライターではなく、綿菓子の記事を書く「タレントwebライター」になりたい|春山有子

TABLO / 2018年7月11日 11時56分


 昨今、名乗れば誰でもなれる職業の代表として「アイドル」があげられますが、もっと間口が広く、老若男女、いつでもどこでも誰とでも、どんなときでもできる職業が、「webライター」です。
 ブログを開設し、プロフィール欄に「職業:webライター」と自称するだけで、今日から立派なwebライター。クラウドソーシングサイトにもwebライター案件は山のように溢れ、

<未経験OK! スマホで簡単!>
<主婦の在宅ワークに!>
<5分で200円〜!>
<あなたの恋愛体験談をお金に! 1文字0.5円から!>

 といった文言が並びます。
 わたし自身も、紙媒体とweb媒体の仕事の割合は半々。
 webライターとしての仕事は、紙媒体でのやり方と変わらぬ、芸能記事やインタビュー記事、そしてルポもの。

<人気スタイリストが教える。2018SS指名買いのトレンドニットキャミをチェック★>といったファッション記事。
 指定されたURLを参考に、「参考URLと文章がかぶらないように300文字でまとめよ」という、いわゆる1文字1円仕事。

<子連れレジャー情報! 思いっきり楽しめる動物園5選>などの、動物園やアミューズメントパークに行った主婦が書いた記事のリライト。

 ーーなどなど、これまでやらせていただいた仕事内容は、とにかく多岐に渡りました。

 このようにわたしのような、"名前のないwebライター"は、誰でもなることができますが、しかし一方で雲の上の存在として鎮座していらっしゃるのが、「タレントwebライター」のみなさまです。


【筆者の独断と偏見による、タレントwebライターになるための厳しい条件】


・ツイッターのフォロワー数が10万人規模の、いわゆるインフルエンサーであること。
・自身の拡散力やブランディング力のみで、記事をバズらせることができること。
・顔がいい。
・年齢は30代前半までが望ましい。
・自然光、そよ風にスカートがゆるやかにたなびくなかで、あたたかい紅茶を飲みながら目を細めて微笑む......などの淡い風合いの宣材写真をあらかじめ持っていること。またはそうした写真が似合うこと。冬はマフラーで口元を覆うのが望ましい。
・自己啓発系の言葉が好き。
・アヒージョが好き。


 2017年10月5日、フリーライターの宮崎智之氏が、「ライターが"読モ化"している件について」という記事を幻冬社plusで配信。

 同記事によると、ライターの定義が揺らいでいる昨今、<「ネットやSNSの出現によって、ライターの仕事が『読モ(読者モデル)』みたいなものに近づいている」という補助線を引くと、現状がクリアになる気がする>とわかりやすく解説。彼らは<「知」ではなく「共感」を拡散している><従来のライターが「物書き」の中に位置付けられるのに対して、読モライターは広い意味での「芸能」ジャンルの文脈に位置付けられる>などと分析し、同業のライターをはじめとする多くの読者から反響があったようです。

 わたし自身も「なるほどそういうことか! 宮崎氏すごい! とても生まれ年月が同じとは思えない!」と腑に落ちたひとりです(腑に落ちがてら、たくさん引用しちゃいました。てへへ)。

 そうした宮崎氏の説に基づき、とあるまとめサイトが「読モライター」を一覧化していました。そこにはヨッピー氏やはあちゅう氏、塩谷舞氏が名を連ね、個人的に解釈した「タレントwebライター」とは少し違うのでは、と異議を唱えたくなるものでした。

 まず、「オモコロ」等で活躍するヨッピー氏は「名物ライター」に分類されそうだし、いわずと知れた作家のはあちゅう氏は「ブロガー」がしっくりきます。「milieu」編集長の塩谷舞氏は、「しおたん」という甘い通称を持っていることや顔がいいことで「タレントwebライター」と混同されがちですが、単に「仕事がとてもできる人」です。以上のような、長く積み重ねた実績や実力がある方々を、「タレントwebライター」とは呼べません。

 そんななか、前述【タレントwebライターになれる条件】に見事当てはまる女性がいるではありませんか。


 1990年8月生まれで青山学院大学出身。出版社の編集アシスタントや株式会社LIGを経て、独立。ツイッターのフォロワーは約13万人。好きなものは、雨と紅茶とやわらかい言葉。特技は、何気ない日常にストーリーを生み出すこと。冬はマフラーで口元を多い、夏は自然光の元、そよ風にスカートをたなびかせ目を細めて笑います。そして顔がよさげ。文中にアヒージョが出てくる。その名も、夏生さえりさん。

 すごい、ここまで条件まんまの人間がいるなんて。これ以上ない「タレントwebライター」ではないですか。また、宮崎氏が指摘する、<「知」ではなく「共感」を拡散>について、本人もこう自覚しています。2016年8月3日配信の「AdverTimes」でのはあちゅう氏、塩谷氏らとの対談(すごいメンバー!)にて。はあちゅう氏が、さえりさんの「燃えなさ」に水を向けると、

燃やさず「共感」を広く作れたらいいなと思っています。強めの主張は他の方にお任せして、私ができるだけリアルな世界に近いやわらかい空気をネットでも作ってみたい

 と発言しているのです。それにはあちゅう氏は、

「わたがし」みたいな記事を書くイメージ><好みでない人がいたとしても、嫌いな人は絶対にいない。わたがしを愛でる私、って可愛いじゃないですか。だからリツイートしたくなる

 と分析すれば、塩谷氏も、

それをシェアすることで自分がきれいな心を持っている乙女であることをアピールできる

 と応戦。え、これ悪口だよね......? こんなに公でフルボッコでディスって大丈夫......? と心配になってしまいますが、さすが両氏、さえりさんのツイートや記事がなぜ拡散されるのかを、鋭く簡潔に解説してくれます。

 なるほど、わたがし。1文字1円ライターのわたしも、そろそろ「タレントwebライター」になりたいと思っていたところでした。昨日あった出来事を、わたがしライターに倣い、綴ってみたい(もうはじまっている)と思います。

*  *  *  *  *  * 

 15年という月日は、私たちを大人に変えたようで、子供に戻ることをまだ許容してくれる、懐の深さを持っている。

 今日は、20歳以来の小学校の同窓会。スカイツリー効果で真新しくかわった駅前に立つ、少しだけ寂しそうなビジネスホテルの地下1階の階段を、私はこつこつとヒールを響かせ降りていく。会場となるイタリアンレストランの扉を開けると、みんなの、笑顔。

「ひさしぶり」
「かわってないね」
「今、何やっているの?」

 手を取り合って喜ぶみんなの視線をかいくぐり、私は探す。春日部くんの姿を。

 春日部くんは、私の初恋の男の子。サッカーが上手で、クラスの中心的人物。一方私は、告白もできず、心の小箱にその想いぎゅうっと押し込んで、春日部くんがクラスの中心的女の子と付き合い始めたのを、見て見ぬ振りをしていた、女子のひとり。

 彼は、来ているだろうか。喉がからからになる。ラウンジで配られるシャンパンを、店員さんにこっそりと告げて、自家製サングリアに変えてもらい、くいっと一口、飲む。じいんと染みる。当時はできなかった、大人だからこそ私が精一杯できる、春日部くんと向き合うための、すべ。あのときは、こんなふうに酔って緊張をときほぐすなんて、できやしなかった。ただただ、見つめるしかできなかった。あのときの私が今の私を見たら、「ずるい」と言うだろうか。


 そのときだった。


「ひさしぶりぃ〜いえ〜い」

 黒く焼いた肌に、レイバンのサングラスをかけた、リトル清原に似た男子が、私の前に現れた。

「いえ〜い、さえりちゃ〜ん、相変わらず超かわいい〜〜超かわいい〜〜」

 私は記憶を手繰り寄せたけれど、こんなにピースなバイブスをどくどくと溢れ出させた男子が、私のクラスにいただろうか?

「えっと、誰だっけ?」

「まじで忘れちゃったの〜? ひどいな〜俺だよ俺俺、越谷だよ。忘れるなんてひどいなあ。でも人って、面白いよね。知ってる? 人間って、辛い記憶ほど覚えていて、楽しい記憶は忘れてしまうんだ。辛い記憶は、『もうこんなこんなことはこれっきりにしておこう』と、脳が記憶する、繰り返さないように、ね。いわば防衛本能だ。でも、楽しい記憶は?」

「......何度、繰り返してもいいから......?」

「ビンゴ。そう、だから、記憶に残らない。残らないようにできているんだよ」

 しぇしぇしぇと豪快に笑う越谷くんを自称する男子と話して、すとんと腑に落ちた。私が春日部くんのことをこんなにも覚えているのは、苦しかったから......?

「だから俺のことを覚えていないさえりちゃんは、俺とまたこうやって会って、話をするためだったのかも、ね」


 あとから聞いた。越谷くんはこの日、キメてきたらしかった。だからだったのだ、某地方公務員の草加くんが、ずっと目を光らせていたのは。

*  *  *  *  *  *

 ひとあし遅れちゃったけど、織姫様と彦星様だって、7月7日じゃあなくても、気まぐれを起こすこともあるよね。だって、人間だもの。決まったその日以外にも、会いたくなるはず。だからわたしは、そっと願った。

「あなたの心のわたがしライターに、なれますように」

(文◎春山有子)

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